第5話 春、閉じる。
どう、と 風が吹いた。
庭全体を巡る風が、全ての住民達にその事を知らせた。
その時、不意に屋敷のドアが開かれました。若草色の靴を履いたユキが、庭の木々や花々にとても静かに声をかけながら、ゆっくりとその歩を進めます。
一番最後に、南側のプランターの前に立ちました。
ユキは、緑色と黒色の傷付いた二つの体をそっと手のひらにのせると、柔らかな木漏れ日が降り注ぐ心地良い木の根元に降ろし、両手で土をすくってかけました、。ふかふかさん達が、2人の上に優しく積もります。
そしてせっかちさんの前に戻ると、少し腰を屈めて言いました。
「まあ、君は随分早いのね」
「ユキちゃんに、会いに来たんだ」
「ありがとう、私も会えて嬉しいわ」
「それと僕、ちゃんと考えたんだよ」
「何について?」
「僕の役割について。ちゃんと考えろって言ってくれた黒いオオクワのおじさんが居たんだ」
「そう。その黒い彼は、とても強かったのね」
そう言ってユキは、今土をすくったばかりの木の根元を見つめました。
「あのね、ちゃんと考えたんだけど、まだわからないところもあって。だけど思ったんだ。この命は僕だけのものじゃなくて、たったひとつだけで存在してるのでもなくて、ずっとずっと昔から縦にも横にも斜めにも、全ての命と繋がっていて今があって未来がある、そしてそこには命を繋げてくれる「手」が必ずある、そう思ったんだ」
「沢山沢山、考えたのね」
「花が終わって休眠するまで、僕はその事をみんなに伝えるよ、そしてまた考える」
「考えたらまた私に教えてくれる?」
「うん」
ユキは、柔らかで少し淋し気な笑顔をこぼすと、せっかちさんに聞こえるか聞こえないかの声で呟きました。
「私ね、黒い彼も緑色の彼の事も、よく知ってたのよ。でもまた、いつか何処かで会えるような気もするの」
ハサミ虫が、ノートを片手にしながらかたつむりに声をかけました。
「かたつむりさん、今夜の雨は何時からですか?」
「予定では十八時時三七分です」
「わかったありがとう」
「チーム南側に告ぐ。各プランターに風雨よけを配置せよ。カミキリムシ達には、先にして欲しい仕事があるんだ。プランター上に伸びた枝葉のチェックし、老朽化したものは全て切り落としてくれ。もし間に合うようなら、試験的に落下防止用のネットも頼む」
「了解しました!」
「それとなめくじ、新しい風雨計のデータをまとめてくれ、今日中に頼む」
「わかりました!」
チーム南側は、本日も始動しています。
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