第19話 光を浮かべる海
─空は大きく広がっている…誰の上にでも。
僕は話しているうちに寝てしまった宙くんの背中に手を置いた。
そばにいたいと言ってくれた彼の目は澄んでいて、けれど奥に強い生命の意志があった。
僕の弱いところを見せたのに離れていかなかったのは宙くんがはじめてだ。
「ありがとう…」
小さな声で呟くと、宙くんはうーんとうなっって顔を横にむけた。前髪の隙間から見える額が少し赤くなっている。きっとそこをテーブルにつけて寝ていたのだろう。
「ふふっ」
なんだかおかしくなって、笑ってしまったけれど、机に伏せた状態で眠っているのは少し苦しそうだ。
僕は宙くんを起こさないようにそっと椅子から抱き上げた。
宙くんは軽い。髪の毛もフワフワしてて少し犬みたい。
─僕が君にしてあげられることなんて、ほとんどないのに何で君はそばにいたいと言ってくれるの…?
僕は揺れないように注意しながら宙くんを部室の端にあるソファー降ろしてブランケットを掛けた。
そばにいたい、そうはっきりと言ってくれたのはとても嬉しかった。僕も宙くんと一緒にいたい。でも、この先はどうだろう。今回は危ないところで止められたけどまた僕が原因で彼が傷ついたら僕は耐えられるのだろうか。
君が傷ついて僕から離れていったら、僕はまた一人になる。ずっと一人なら…誰かといる良さを忘れたままでいれば一人になっても辛くはないだろう。宙くんの暖かさをこれ以上知るのが恐い。
ならばいっそのこと、僕から離れていくべきなのだろうか。今以上に近い存在になる前に。
(これまで、こんなに心が穏やかでキラキラしていた日々はなかった。それも宙くんがそばにいるからだろう。だけど…)
もしかしたら僕は半分諦めているのかもしれない。まだ、原因が取り除かれていない自分に。
僕は頭を空っぽにするために窓の近くに行き、ぼんやりと空を見上げる。少しずつ星の輝きが目立ち始める暗闇は僕を静かに包んだようだった。
空を見る海 和泉海 @kai-5963
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