『初恵と喫茶店』

「……さて、今日もがんるか」

 開店準備を終え、キッチンに置いた家族写真を見て一言。大学生のころじゅんにプロポーズされたはつは、とても救われた気持ちになった。

 男らしくありたいというのは、周りが期待していたからであって、女性らしくあつかってほしい、という気持ちは持っていた。そしてじゅんから「いつもの男装をせずに話を聞いてほしい」と呼び出され、まさかの公開プロポーズに思わずなみだぐんでしまった。

 プロポーズを受け入れて、今のような家庭になるとは想像もしていなかった。しかし、そのプロポーズが、はつにとっての始まりなのだ。

「――家族写真を見ると、気持ちがまりますよね」

「おっと……油断してたよ、びっくりした」

「失礼しました」

 ふふ、とほほむ、そんな二人を見つめてから、ようすけが店のドアへ向かう。

「開けるよー」

「うん、よろしく」

「本日もよろしくお願いいたします」

 朝七時半。ドアの横に用意しておいた看板を持ち、ようすけがドアを開ける。

「いらっしゃいませーっ」

 ドアに看板をける間、待っていた数人の客が入ってくる。たいていは地元客か、この近くに仕事場がある会社員。カウンター席へ客を招き、仕事もスタートだ。

「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ。本日は何になさいますか」

 今日も、特別で当たり前な一日が始まる。

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喫茶店フォレスタ《本編》 うらひと @Urahito_Soluton

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