第25話:上司に『鬱』だと言われた、23歳の秋

 私はある日、朝礼後に部長に呼ばれた。

 その頃私は、よく体調を崩して会社を休んでいたから、単純に叱られるんだと思っていました。

 呼ばれるといっても、別室とかではなく朝礼していた場所の隅っこなんですけどね。

 私は当時、欠勤連絡を直属の上司ではなく、部長にしていた事もあり、何を言われるんだろうかと思っていると…。

「僕ね、桜木さんは鬱なんだと思うよ」

 と言われました。

 部長は、発言するときは基本的に感情論では語らないかただったので、正直驚きました。

 体調不良の症状としては、うまく説明できませんが、“呼吸という行為が怠い”…うーん、なんか違うかな。

 イメージ的には、過呼吸になってしまった人が、落ち着かせるためにレジ袋や掌で口元を覆い、自分の吐いた息を吸っている感じに近いと思います。

 ただ、私の場合は酸素を吸いたいのに、二酸化炭素しか吸えていない感覚になってしまって、苦しくなってしまう事が何度かありました。

 大きめの病院の呼吸器科にも行ってみましたが、『精神的な部分が問題だと思います』と言われました。

 思い当たる事は正直ありましたが、当時の悩みといえば業務関係ばかりで、業務に携わっていないカウンセラーの先生等に、励まされたり同情されたら、余計にストレスになる性格なのを知っているので、精神科には行けませんでした。


 そんななか、部長には『一人で背負いすぎ』と言われ、『頑張りすぎ』とも言われました。

 確かに私は、他の社員とは違い時間外であろうと、翌日の段取りや準備を行なっていました。

 他の社員は、『定時になったら帰る』のが前提で、お子さんや家庭持ちの方も居たのでしかたのない事だと思って割り切っていました。

 私は当時実家暮らしでしたが、特に門限等も無かったし残業といっても、遅くて1時間程だったので、特に何とも思っていませんでした。


 この頃は、会社に対して不信感しか感じていなかったので、上司を上司として感じることができていませんでした。

 以前書いた、慈善団体がらみです。

 業務外の出張で会社に度々出勤しない様な、仕事よりも慈善団体のイベントを優先する様な人を、上司として考えられなくなっていました。


 今思えば、確かに『鬱』だったのかもしれません。

 でも、私が仮に“鬱病”だったとしても、会社の方針が変わる事なんて無いだろうし、『もしかしたら慈善団体の講演会に連れて行かれるかもしれない』って考えたら、余計に体調崩しそうだったので、精神科の病院には行きませんでした。


 正直今でも、『鬱』の自覚はありません。

 でも、仕事に限らず物事を一人で抱える癖は治っていないので、無意識に精神病を患っているのかもしれません。

 そして、その病名に気づくこともなく死んでいくのでしょう。

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