第8話:鎖に繋がれた自由

『子は親を選べない』


 その言葉は、子供が家族間の問題で壁にぶつかった時に周囲からかけられる言葉です。

『励ます言葉』というよりは、『諦めさせる言葉』に感じてしまいます。

 とても重い言葉だけれど、とても軽く感じてしまいます。


 将来の夢というのは、例えばテレビやコンサートで素敵な演奏をするピアニストを観て、『私もピアニストになりたい!』と思って、両親にピアノ教室に通いたいとお願いするところから始まります。

 そんな子供は、自ら《学びたい》という欲があるので、もしもプロとして有名になれなくたって、様々な選択肢が貴方を待っている事でしょう。

 スポーツなら、地域のスポーツクラブのコーチとか、スポーツ用品店やメーカーへの就職なんてのも良いですよね。

 音楽なら、地域の楽団への入団や、音楽教室の先生。保育園や幼稚園の先生というのもいかがでしょう。

 勿論、『音楽が好き』の他にも苦手な勉強をしなければ、叶えられない夢もあるでしょう。

 けれど、きっと子供の頃の習い事が貴方の将来の選択肢を広げてくれる事でしょう。


 一方で、私が苦手なパターンがあります。

 ドキュメンタリー番組で、『夢に向かって頑張る子供特集』みたいな内容を放送している時ありますよね。

 番組を観ていると、時々不思議な発言が飛び出します。


『私には叶えることができなかった夢なんです。だから、息子にはプロの選手になって欲しいんです』


 あまりにも自然に語られる言葉なので、意識したことがない人もいるかもしれません。

 でも、押し付けられた将来に子供は、どう向き合えば良いのでしょうか。

 押し付けた親は、次第に『自分の夢→子供の夢』にすり替えて認識してしまいます。

 こうなってしまったら、もう手遅れです。

『自分で押し付けた将来』の為の習い事も、『子供が希望している将来』だと言い張り、しまいにはレッスン費用についてもいい始めたりするものです。

 そして、子供が習い事に行きたがらなくなると、こんな事を言います。


『貴方がプロになりたいって言うから、高いお金出してレッスンに行かせてあげてるんじゃない』


 この発言を聞いた子供は、果たしてどんな表情かおをしていたでしょうか。

『自分の夢の為に、両親が頑張ってくれているんだ。僕も頑張らなくちゃ』

 なんて思うでしょうか。

 両親には、その場限りでは言うかもしれませんね。

 でも、1人きりになったときに涙を流しているかもしれないし、拳を握りしめているかもいれません。

『僕がいつ、プロになりたいなんて言ったんだよ。やりたくてやっているわけじゃないのに…』

 そして、反抗期を迎えるまで我慢して成長していくのです。

 そうやって成長いていく子供には、自然と《どんな事が起こっても、我慢する》スキルが身につきます。

 そして社会人になり、どんなブラック企業に就職しても、我慢して我慢して…

 張り詰めた糸が切れた時、愛する子供の人生も終わってしまうのでしょう。

 そして親は、報道陣に向かって言うのです。

『愛する我が子を返してください』…と。

 勿論、現在の過労死の全てが親の教育の所為せいだなんて言いません。

 でも、我慢している間に助けを求められなかったのは、『迷惑をかけたくない』と考えてしまう習慣はいつからだったんでしょうかね。


 そういえば、『最初から引かれたレールの上を君は歩くのか?』なんて言葉もありますね。

 私の親世代まで通用していたレールは、『良い大学を卒業して一流企業に就職』ですかね。

 もうそんなの通用しない時代になってしまいました。ニューを見れば一目瞭然じゃないですか。

 どんなに良い大学に通っていたって、就職できない場合もあるんですよ。

 それなのに、一昔前の固定概念に縛られてしまっている両親は、『子供の将来の為』と言い聞かせて大学進学を強要する様になります。


『とりあえず大学入っておけば、なんとかなるだろ』


 と、大学に入学した生徒はどんな学生ライフを過ごすのでしょうか。

 私は大学には進学していないので、実際どんな感じなのかは分かりません。

 特に極めたい分野があるわけでもなく、『強いて言うなら理数系かな?』みたいな感覚で入学して、一人暮らし。

 そして、学費は親の負担や奨学金(借金)制度を利用したとして、生活費を稼ぐ為にアルバイト生活。

 そして次第に『大学の勉強<アルバイト』な生活が習慣となって、学業が疎かになって留年や退学となってしまうのでしょう。

 そして、派遣社員やアルバイト生活と、両親からの失望が待っている事でしょう。

『あんなに高いお金を出して大学に行かせてあげたのに』

 両親から告げられた言葉は、子供への失望で溢れていた事でしょう。

 けれど、その言葉を受け止める子供も同時に、親への失望でいっぱいになる事でしょう。

 勿論、自分から望んだ大学進学だとしても、同じ様にアルバイト生活が待ち受けているでしょう。

 しかし、自分から望んでいる人達には、『学びたい』という欲があり、体力的に大変かもしれないけれど、折り合いをつけて生活しているんだと思います。


 現在、子供を育てている御両親に聞いて欲しい。

『自分の子供には、派遣ではなく正社員になって欲しい』

 漠然とそんな願いを持っているのなら、どうか大学進学を強要する様な事は避けて欲しい。

 大学に進学しても、経済的な負担は大きいです。

 入学金等の学費はバカにならないですよね。

 高校卒業後に正社員として就職するのも良いんじゃないですか?

 今の日本じゃ、高卒の初任給は正直低いです。

 それでも、『就職のための大学進学』をするよりは、正社員になれる確率は高いと思います。

 まだ間に合うなら、少し考えてみてはいかがでしょうか。


 さて、今回の『鎖に繋がれた自由』という表題を語るのに、子供の将来の夢について書いてきました。

 本当は、第3話で少し書いた子供に与える宗教の影響も書きたかったのですが、長くなってしまうので、また別の機会に書くことにしようと思います。

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