千紗
新城さんと分かれ、彼から預かった物を小枝子の家に届けた後、自宅に戻った。
今日は小枝子の祥月命日。
新城さんが訪ねて来たのは、小枝子の仏前に手を合わせた後、おば様とお茶を飲みながら話をしていた時だった。
初めは、小枝子を見殺しにした癖に何しにきたんだ! と怒りが込み上げて感情的になってしまったけど、ちゃんと話すことができて、よかった。
小枝子が話していた通り、新城さんは信頼の置けるいい人だった。
小枝子のことを想い、きちんと悼んでくれていた。
そのことだけでも、小枝子が少し浮かばれると思う。
小枝子のことを思う時、後悔と共に、いつも浮かんでくる疑問がある。
小枝子、最後に私に何を言い残したかったの?
一瞬物思いに沈んでいたら、家の電話が鳴った。
「いつもありがとうございます、田川酒店です」
「あ、ちーちゃん? 小枝子の母です。さっきはお参りありがとうね」
「あ、おば様。今日はバタバタしてしまって申し訳ありませんでした。
また近いうちに伺いますね」
「近いうちと言うか……、今からまた来てもらえないかしら」
意外な申し出にちょっと驚き、心配が込み上げた。
「どうかされましたか?」
「それがね……。以前、警察の方が小枝子の遺品を返しに来てくださったんだけど、今日までどうしても触れることができなくて、そのままにしてたの。
でもね、さっき思い切って整理しようと思って、鞄を開けたんだけど……」
何があったのだろう、おば様は言いよどんだ。
返事を挟まず、次の言葉を待つ。
「ポケットの中からね、ちーちゃん宛の手紙が出できたのよ」
「え! ホントですか? 今からすぐに伺います!」
別れの挨拶もせず、慌てて電話を切った。
さっき置いたばかりの鞄を掴み、急いで靴を履く。
今日はゆっくり小枝子を想おうと、父親に一日店番をお願いしていた。
早めに帰って来たから代わろうかと思ってたんだけど、それどころじゃない。
「お父さんごめん! 小枝子のうちに行ってくる! 店番よろしくね!」
父は、帰って来たと思ったらまた飛び出して行く娘にちょっと目を丸くしてたけど、昔からこんな感じの落ち着かない娘だったから、いつものことかと思ってたかも。
走って走って小枝子の家に辿り着き、呼び鈴を鳴らす。
誰何もせず玄関のドアが開いて、おば様が顔を出した。
「ああ、ちーちゃん! ごめんね呼びつけて。ささ、入って」
「お邪魔します」
昔からよく遊びに来ていた、勝手知ったる堂島家。本日二度目のリビングに通された。
「鞄の奥を探ったらね、小さく畳まれた紙が出てきたの。
中身を見るのが怖くて開けられずにいたら、ちーちゃん宛のものだと気が付いて」
そう言いながら、小さな小さな紙を手渡された。
高校の頃に流行った手紙の折り方で畳んである。
見覚えのある優しい字で、『千紗へ』と隅に小さく書いてあった。
「よかったら、開けて読んでみてくれない?」
おば様に促されて、手紙を広げた。
そこには、見慣れた小枝子の文字で綴られた言葉達が、並んでいた。
シー・シャル・ビー・リリースト 転ねこ @nekonyanmo
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