小枝子 一月二十日 3

 高校時代を思い出してたら、千紗との思い出も蘇ってきた。

 あの頃は、学校でおしゃべりして、夜には電話で話して、授業中には手紙を回して、ずーっと千紗と話していたような気がする。

 よく飽きもせず、あんなにたくさん話したもんだなって、今考えると笑っちゃうくらいだけど。

 友達のこと、将来のこと、憧れの人のこと。悩みも楽しさも、何もかも共有してた気がする。

 なんだか、昔みたいに千紗に手紙を書きたくなった。

 手帳を一枚破り、出だしはあの頃と同じ『千紗へ』。

 会社を辞める決意をしたこと、今までのこと、これからのこと。

 今の気持ちを全て書いた。

 心配かけたけど、もう大丈夫。ちゃんと自分の足で未来に進むから。安心して見ていてね。

 書き終わって、昔やってたみたいに、紙を小さく小さく可愛く折り畳んで宛名を書き、鞄のポケットの奥にしまった。

 思いつきで書いたこの手紙。千紗に渡すことはないかもしれないけど、私の『今』をこの一枚に詰め込むことができたことが、なんだか嬉しくて、満足だった。

 高校時代の、私らしくのびのびと過ごしていた自分に戻れたような気がして。


 喫茶店でのんびりしていたら、夕暮れ時になってしまった。

 家に帰るため、駅までの道を急いだ。

 とりあえず、明日以降もお休みをもらうことにしよう。後で新城さんに連絡しなくちゃ。辞める意志も伝えなきゃならないし。

 そして、前に進もうと思えたのは新城さんのお陰ですって、お礼を言わなくちゃ。

 新城さんと一緒に働けなくなるのは、すごく寂しいし、残念なんだけど……。

 もしも縁があるのなら、またいつかどこかで、出会えるかもしれない。

 その時に、生まれ変わった私でいられるように、毎日を頑張っていこう。

 今週末は、実家に帰ろうかな。お正月は結局帰らなかったから、お母さん達も千紗も心配してるだろうし。

 あ、そうか、お休みもらうなら、週末を待たずに明日帰ったっていいんだよね。

 さっそく千紗の携帯に電話してみた。呼び出し音が続く。夕方だし忙しいのかな?

 家に帰ってからまたかけてみればいいか。

 電話を切った後、営業所から何度か着信があったことに気付いた。映画館から電源を切りっぱなしだったから……。

 きっと新城さんからだ、心配かけてしまって申し訳なかったな。

 家に帰ってから、落ち着いてゆっくり電話しよう。思ってること全て、きちんと伝えよう。

 明日、急に地元に帰ったら、みんな驚くかな。久しぶりに元気な顔見せられるから、喜んでくれるといいな。


 携帯電話を鞄にしまって顔を上げると、目の前の青信号が点滅していた。

 早く渡らなきゃ。

 足早に横断歩道に足を踏み入れると、間の悪いことに赤信号に変わってしまった。

 あ、まずい、引き返さなくちゃと思った瞬間、けたたましいクラクションとブレーキ音が耳を劈いた。


 咄嗟に足を止め、音がした右の方を向く。


 その時、私の目に飛び込んで来たのは、目が眩む程にまばゆい、真っ白な光だった。

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