第100話

 side ミレイ


 ココナとクエストを終えた私は、学園に戻る途中でソフィアを偶然見つけた。


 ソフィアの隣には私達が知らない男をいて、仲睦まじく2人で歩いている。


 私達は友人のために2人を尾行することにした。そう、友人が変な男に引っ掛かっていないかを調べるために、だ。


 しばらく2人の後を追いかけてわかったことがあった。それはソフィアが男のことをかなり信頼していること。これは2人がある程度長い付き合いがあるのではないかと、私は考えた。しかし、今までそんな男の影はどこにもなかった。


「もしかしたら、フェンデルさんみたいに、以前から付き合いがあった人、とか?」


「ん~………」


 私が推察を口にするが、ココナはずっとソフィアに視点が固定されていた。


「………ココナ、どうしたの?」


「あのソフィアの顔」


「ソフィアの顔がどうしたの?」


 私もソフィアの顔を見ようとするが、遠すぎて細かな表情までは分からない。


「完全に恋する乙女の顔だよ」


「えっ!?ソ、ソフィアが?」


 ソフィアとはまだ浅い付き合いである私だが、ソフィアの恋する乙女の一面を見たことがないし、そんな影もなかった。


 会っていない1ヶ月の間に何かあったのかもしれない。


「ほら、腕も組み始めたし」


「ほ、ほんとだ」


 私は目の前の光景が信じられなかった。本当にどこから見てもデートにしか見えないのだ。


(…………………悔しい)


 私の中に芽生えた感情は嫉妬だった。何故か分からないが、ソフィアが取られたような気がしたのだ。


「ねぇミレイ」


「………なに?」


「2人が人混みから外れたら襲撃してみない?」


「襲撃?」


「うん。あの男の人を試そう。ソフィアを預けるに値するか確認するために」


 町の中での魔法の使用は基本的に禁じられている。だから私は悩んでしまう。


 何故なら、ココナの意見にはどちらかというと賛成だからだ。でも………。


「バレなきゃ大丈夫だって」


「でもソフィアに嫌われたりしたら」


 もしソフィアの大事な人だったら、いきなり襲ったりしたら嫌われるかもしれないと考えると、私は賛成出来なかった。


「もう!ココナは行くよ!ほら、丁度人目の少ない路地に入って行ったし」


「あ、ココナ」


 私は慌ててココナを追い掛けるのだった。



 ☆     ☆     ☆



 side リアン


 俺はソフィアと歩いていると、人混みに疲れたというソフィアの意見で、2人でゆっくりするために昔からひっそりとある公園に向かうため路地に入った。


 そして、あれがやって来たのはすぐのことだった。


 ソフィアも気配に気が付いていたのか、俺が後ろを向くと同時に、俺に守られるように俺の背後へ回った。


 俺はいきなり上から振り下ろされたかかと落としを、魔力で強化した腕で受け止める。


「やあっ!!」


 相手はかかと落としをした足を軸に身体をひねり、反対の足で回し蹴りを放って来る。


 これを避けてしまえば、後ろにいるソフィアに当たるかもしれないので、俺は更に受け止める。しかし。


「これで………どうだぁ!!」


 回し蹴りを放った足を俺の首に回し、反対の足も巻き付かせてきた。


 俺の目の前には見たことのあるパンツがある。いや、最初のかかと落としの時点で、相手が誰かはわかっている。


 ココナは俺の首を足で固めた後、後ろに反って、投げようとするようだ。


(なかなか良い蹴りの連続技だ。やっぱりココナは筋は良い。だけど最後が甘いな。ココナと俺の体格差だと反る力が弱い)


 後ろに反ろうとしているココナの襟首を俺は掴み、反対に力を入れる。


 すると、ココナはバランスを崩し、俺を拘束していた足が緩む。その瞬間、俺は逆にココナを地面に叩きつけるように投げ技を繰り出す。


「しまっ」


 もちろん、本当に投げる訳ではなく、地面に軽く当たるぐらいまで威力を落とした。


「っ……………あれ?痛くない」


 いつまでもやってこない衝撃に、ココナは戸惑っていた。しかし、俺に情けを掛けられたと理解すると、俺から離れるよう跳び退った。


「ココナ、いったい何をやっているの?」


 相手が誰かわかったソフィアは、俺の後ろから出て来て、ココナに問いかけた。


「この人を試したんだよ!」


「試すって………この人はリア……じゃなくて、私の大事な人なの」


 ソフィアが俺の名前を言うのをやめた。確かにソフィアの使い魔の猫と同じ名前だと、感づかれるかもしれないから、これは仕方ないかもしれない。


「うぅ~………でもぉ」


「それにいきなり攻撃するなんて、何を考えてるの?普通の人だったら大怪我してたかもしれないんだよ?」


「うぅぅぅぅぅぅ………ぐすっ」


 ココナは唸り声を出しながら俺を睨んでくる。そして、泣き出してしまった。


 元気が取り柄のココナがこんな調子だと、変に狂うな。


「ほら、ココナ。あの蹴りの連続技は良かったぞ。ただ、最後のはもっと勢いを付けないと、俺との体格の差で、さっきみたいに反撃を貰うはめになるから」


「もう、何助言してるんですか」


「いやだって、ココナが元気無いと調子狂うだろ」


「それはそうですけど………バレますよ?」


「何がバレるの?」


 小声でソフィアと話していると、いきなり背後からミレイが話に割り込んで来た。


「ミ、ミレイっ!?」


 俺は驚いて初めて会う筈のミレイの名前を呼んでしまった。


「…………なんで私の名前を知ってるの?まさか………敵?」


 ミレイから冷気が漏れ始める。


「ち、違うのっ!その、私がリアン様に2人のことを話したの!」


「リアン?」


「え、あ、いや、その…………」


「お、俺がリアンだ。偶然にもソフィアの使い魔と同じ名前なんだよ」


「ふーん…………」


 ミレイの冷たい視線が俺とソフィアを射抜いてくる。


 なんとか誤魔化しきれたか?


「ねぇソフィア、猫のリアンはどこ?お留守番?」


「そそそそうなの。今日はリアン様とデートする予定だったから」


「デートなんだね」「デート、なのね」


「うっ」


 やばい。さっきから2人で墓穴を掘りまくっているような気がする。


「い、いいじゃない!!私が誰と付き合ってもっ!!」


 ソフィアが俺に抱き付きながら訴えた。


 結局、俺はソフィアの昇格試験の時に助けたフリーの冒険者ということになった。


 その時にソフィアが俺に惚れてしまったというシナリオだ。


 事情聴取みたいに、冒険者なら色々な地域のことも知っている筈と、色々と聞かれたが、幸い俺はレジスタンスの仕事で色々な場所に出向いていたので、それを説明したらココナ達がそれで納得してくれた。


 まぁ1つ問題があったとすれば。


「じゃあじゃあ今度、使い魔のリアンと並んでダブルリアンさんを見せて!!」


 と、ココナに言われてしまったことだ。


 まぁ、絶対見せることが出来ないので、このままうやむやになってくれると思う。


 そしてココナ達と別れた後、ソフィアと歩いていると。


「………魔力制御で動かせる黒猫人形ってありますか?」


 と、ソフィアに聞かれてしまった。恐らくはそんな魔力の無駄使いな人形はないと思うぞ。と、俺は答えておいた。

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最強魔法使いで先生になるはずの俺が教え子の使い魔に!? 雅國 @kokkuu

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