第99話

「これでリアン様の好みがわかりますね」


 ソフィアは恥ずかしさと嬉しさが混じり合った顔で、俺を見上げながら言ってきた。因みに一度帰ってパンツを変えたらと助言をしたが、涙目で見つめられ「嫌なんですか?」と言われ、俺は呆気なく折れた。更にいうと、ソフィアは気持ち悪いということで、パンツを脱いでいる。いわゆるノーパンというやつだ。その状態で町に戻り、下着を買いに行こうというのだ。


 因みに今の着ている服以外の俺の服や、濡れたソフィアの下着も含めて、例のポーチに入っている。


 ノーパンが恥ずかしくないのかと聞いたら「もちろん恥ずかしいです」と答えた。しかし、替えのパンツを今日は持っていなので、仕方がないということらしい。


 ただ俺として気になるのは、ポーチの中がどういう風になっているかだ。…………何もないことを祈るしかないか。


 そんなこんなしている内に、女性下着専門店の前にやって来た。


「なぁ、マジで俺が1人で選んで買ってくるのか?」


「選んでもらいますが、私も一緒に下着店に入ります。リアン様1人では犯罪になってしまうかもしれませんし、それに」


 ソフィアは顔を赤くして、言葉を切った。


「それに?」


「その、私の……ズを教える必要もありますので」


 サイズと言う時、ソフィアは恥ずかしそうに視線を外した。そして、それを誤魔化すように俺は引っ張られながら、女性下着専門店に入ることになった。


(可愛いじゃねぇかよ)


 俺は悶々としながら、ソフィアに引っ張られていった。


 中に入ると、当たり前だが女性の下着ばかりが飾って売られていた。男である俺は、周りから変な目で見られると思っていたが、思っていたより変な目では見られなかった。


「私がいるからですね。女性に着て欲しい下着を買う男性って結構いるみたいですから」


 結構いるという割には、今この店に男は俺1人なんだが。


「せめて猫になりたい」


「ダメです。せっかくのデートなんですから」


 俺は色とりどり下着売り場をソフィアに歩かされた。そして、俺はある一角に目が止まってしまう。


「…………リアン様、まさかアレを私に着て欲しいのですか?」


「え?いや、そんなことは」


「じー…………着て欲しいのですね?」


「…………………」


「………変態」


「その…………すまん」


 俺が見ていたのはオープンなんたらという下着だった。これは隠すべき場所が隠れない下着だ。


「…………はぁ、わかりました。でも他にも選んで下さい」


 ソフィアはその下着の大きさをささっと確認して、隠すように手にした。


「…………マジで着てくれるのか?」


「そ、その時が来れば着るかもしれません。それより普段着れるものをお願いします。流石にこれは普段着れないので」


 その後、俺はソフィアに似合いそうな無難な下着を選ぶことにした。まぁ、俺が無難だと思った下着を見たソフィアには。


「やっぱり男の人なんですね。でもこれぐらいならまぁ………」


 後半は聞き取りづらかったが、そう言われてしまった。


 そんなに変な下着だったのだろうか?


 ソフィアは店員に買ったばかりの下着を着ていくことを伝えると、俺に向かって「良い彼女をお持ちですね」と微笑まれてしまった。


 俺は罰ゲーム?の下着を買うことに成功したのだった。



 ☆     ☆     ☆



「やっと帰って来れたぁ!!」


「…………ソフィア、帰ってるかな?」


 フォルティスの町の正門付近に2人組の少女、ココナとミレイがいた。


 ココナとミレイの2人はクエストを行ってきた帰りだった。


 場所が少し離れた村での依頼だったので、何日かフォルティスの町を離れていたのだ。


「んー、そろそろ帰っててもいいよね?あれから1ヶ月ぐらい経つし。帰ってたらまたあのパンケーキの店に3人で行こうよ」


「ん」


 そんなことを話ながら2人は学園を目指して歩いていた。


「あれ?」


「…………どうしたの?」


 いきなり立ち止まったココナに、ミレイが声を掛ける。


「今ソフィアがいた」


「そうなの?」


「うん。店から出てきた」


 ココナが指差した方を見るが、人も多く、店もそれなりにあるので、ミレイにはどこにソフィアがいるのか分からなかった。


「………どこ?」


 ミレイは相変わらずのココナの視力の凄さに驚いていた。それは一緒にクエストをやっていれば、余計に分かることだった。そのおかげで助かったりしたこともあるので、ココナの視力は信じるに値していた。


「えっとね~…………下着の店から出てきたよ」


「ここから、分かるんだ」


「うん。男の人と一緒に」


「そう………………えっ!?」


 ミレイは珍しく大きな声を出して驚いた。


「み、見間違いではなくて?」


「うん。ソフィアが男の人の手を引いてた」


「ソフィアが手を…………」


 ミレイは1ヶ月前のソフィアのことを思い出す。だが、ソフィアに男の影はどこにもない。あるとしたら。


「………男の人、フェンデルさん………とか?」


「んー、白髪でもなかったし、もっと若い男の人だったよ」


「…………………行こう」


 ミレイは少しだけ迷った後にそう答えを出した。


「え?」


「もしかしたらソフィアは脅されているのかもしれない」


「えっ!?ソフィアがっ!?」


 こうしてココナとミレイによる尾行が始まった。

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