第98話
「~♪」
「………………」
ソフィアは鼻歌を歌いながらフォルティスこ町中を歩いていた。今のソフィアの服装は冒険者らしいものでも制服でもなく、デートに着ていくような可愛らしいものを着ていた。俺はそんなソフィアの腕の中、つまり抱っこされている。
今日は俺の服を買いに行くのが目的なのだが………。
「あ、これ可愛いかも。どう?リアン」
店先に並ぶ可愛い服を見つけてはこうやって立ち止まり聞いてくる。これでもう何回目かわからないぐらい聞いてきている。
確かに可愛いことは可愛い。でもそれより早く男服の店に向かって欲しい。
(女の子の買い物が長くなる理由がわかった気がする)
そうこうしながら、やっとのことで男服が売っている店へやってきた。
店員に猫(俺)が入ってもいいか聞くと、抱っこしているなら大丈夫と、了承を得ることが出来た。
だが、男物エリアにいる1人の女性はソフィアしかいない状況になってしまっていた。
他の男客はソフィアが気になるのか、チラチラと見てきている。
恐らくソフィアの年で男物の服を選んでいることが変に見えるからだろう。もしくは見惚れているかだな。
「リアン、何か色に希望はある?」
後はこうやって猫の俺に希望を聞いてくるのが原因だろう。
まぁ、基本的に黒でいい。何にでも合わせやすいしな。
ソフィアは聞いた色で、俺に似合いそうな服を数点選んでいく。
そして、そのまま俺を抱っこしたまま試着室へ入った。もちろん視線を集めたまま。
そんなことは気にしていないソフィアは、試着室に入るなり、俺に人間に戻るように言ってきた。
俺は試着室という狭い空間で人間(裸)になり、ソフィアがそっぽを向いてくれている間に、服の大きさを合わせることにする。
そこであるものがないことに気が付く。
「なぁソフィア」
「何かありましたか?大きさ合いませんでしたか?」
「いや、大体合ってはいると思う」
「思う、ではなくて、ちゃんと着て合わせて下さい」
「いや、それなんだが」
「もう、なんなんです……か…………あ」
ソフィアは俺の方を向いて俺の裸を見て顔を赤くする。それと同時になんで俺が着て合わせないのか気が付いたようだ。
「も、もしかして私がリアン様のパンツや肌着も買わないといけないんですか?」
「そうしてもらえると助かる」
「うぅ~………わ、わかりました」
「あーその、じっくり選ぶ必要はないから、ソフィアが適当に選んでくれ。出来れば派手なもの以外で」
「は、はぃ。でもその………あの、ちょっと失礼しますね」
ソフィアはしゃがんで俺の後ろから腰に腕を回してきた。ソフィアの手は俺のアレに触れそうになり、俺は慌ててガードする。
「おい、何やって」
「大体の大きさを計ってるんで、じっとしててください。だからその腕も退かしてください。計れません」
「いや、それは………」
「早くしてください。私だって恥ずかしいんです」
俺は諦めて恐る恐る手を退ける。
「っ!?ここここここれって……~っっ!?!?」
ソフィアは自分の手が何に触れたのか理解すると、声にならない叫び声をあげた。
「す、すみみゃしぇんでした!!その、買ってきます!!」
ソフィアはそう言って試着室を飛び出していった。真っ裸の俺を置いて。
「………………マジか」
俺はソフィアがパンツを買ってくる間、落ちている新品の服を着るわけにもいかず、真っ裸で待ち続けることになった。
幸いなことに、俺が試着室に入っている間は誰も来ることはなかった。
☆ ☆ ☆
「ふぁぁぁぁ…………カッコいいです。リアン様」
「そ、そうか?ありがとな」
目をキラキラさせているソフィアに誉められ、照れ臭くなってしまう。
あの店で色々服を買った後、一度猫に戻り、昼食がてら喫茶店に立ち寄った。そして、トイレで人間に戻り、買ったばかりの服を着たのだ。
今は喫茶店で2人席で向かい合うように座っている。
ソフィアは先程から俺に見惚れているのか、ずっと頬を赤らめ、キラキラした瞳で見つめてきていた。嫌ではないのだが、俺が落ち着かないので、早くいつものソフィアに戻って欲しい。そのことを伝えると。
「す、すみません。その、思っていた以上に私、リアン様のことが好きだったみたいでその………こうやってデート出来ていると考えると、ときめいちゃって………って、私何言ってるんでしょうね。すみません。今の言葉は忘れて下さい」
「あ~………その気持ちは俺も嬉しい………って、早く飯食おうぜ飯!!何か頼もう!!」
俺は照れ臭くなり、無理矢理話を変えることにした。というより、昼飯を食べるためにここに来たんだから、間違ってはいない。
(デート………か。確かにソフィアとは猫の姿でずっと一緒にいたけど、こうやって人間の姿で出掛けたのは初めてだったな。デートか…………。デートってやはり何かプレゼントでも買った方がいいのか?いや、でも金持ってないしな…………うーん……………わからん)
料理が来るまでの間、俺はずっとデートについて考えていた。
ソフィアはソフィアで、終始笑顔でこの時間を満喫していた。
☆ ☆ ☆
昼飯を食べ終わった俺達は今、フォルティスの町から出て、草花が広がる丘にやってきていた。
町を出るとき、俺とソフィアの服装が冒険者の服装ではなかったので、町の見張りを衛兵に不審に思われてしまった。しかし、ソフィアがある程度の実力者だと衛兵は知っていたので、問題はなかった。ただ、男である俺が一緒だというのが、気に食わなかったようだ。まぁ、隠れたアイドル適存在が男の俺と手を繋いでいるから、当然といえば当然か。
この丘に来るまでの間、街道から外れていることもあり魔獣とも遭遇していた。
もちろん俺が………ではなく、ソフィアが近付く前に倒してしまっていたので、まったく問題はない。
え?なんで俺が戦わないのだって?そりゃあ。
「ではリアン様、ここでやってみましょう。ここなら被害は少ないでしょうから」
「だな」
俺は久々に人間の姿で魔力制御を行う。的は少し離れた場所にある岩。
「ファイアボール!」
使ったのは火属性の初心者魔法。だが、俺が放ったファイアボールは直径3mはありそうなぐらい巨大で、メテオさながらの威力で岩を木っ端微塵にした。
「…………………」
「やっぱり『暴走』のギフトが発動するのか」
ソフィアはあまりの威力に呆然としていた。
これは昔からある俺の強みであり欠点でもある。
俺の魔法はギフト『暴走』の影響で、初級魔法が上級魔法並みの威力に跳ね上がってしまうのだ。
更に魔力の消費もバカみたいに喰うので、なかなか使い所が難しいところである。
だけど、広域を殲滅するときや、硬い防御を貫くには持ってこいのギフトだ。
その辺りの調整をするために、俺は魔力制御の練習をかなりしている。あの鬼ロリババァのアルディナのところでもやった。
そんな俺が抑えて放った初級魔法でこの威力だ。
ソフィアがこうなるのも仕方がない。
「こりゃあ昔みたいに俺はあまり魔法使わない方がいいな」
俺は人間の姿でいるときは、魔法を控えることに決めた。
(そういえば、ソフィアの魔力ってこの状態でも制御出来るのか?)
猫の姿の時は、触れていればある程度、ソフィアの魔力を制御出来た。それは使い魔契約の恩恵でもある。そして、今も俺はソフィアの使い魔でもある。
猫の時は触れていないと、魔力を上手く感じ取れず、制御も出来なかったが、人間になった俺は今、離れていてもソフィアの魔力を感じれるようになっていた。
俺は試しにソフィアの魔力を制御してみることにした。
「ふぁっ!?」
すると、突然止まっていたソフィアがビクッと跳ねた。
「お、制御出来た」
「り、リアン様、ふふっ、く、くすぐったいです」
俺はソフィアの反応を見るのが楽しくなり、ソフィアの魔力をしばらく弄っていた。すると、ソフィアの顔が徐々に惚けてきた。
「はぁ、はぁ、リアン様、そろそろやめて…………んっ」
「あ、わりぃわりぃ。つい楽しくなっちまった」
俺は労うためにソフィアの肩に手を置いた。
「んん~っっ!!」
ソフィアは突然俺にしがみつき声を殺しながらビクビクと震えた。
「っ~…………はぁっはぁっはぁ…………」
ソフィアの震えが止まると、俺を睨むように見上げてきた。
「リアンさまぁ~?」
「わ、わりぃ。まさかこうなるとは思わなかった」
しばらくの間、俺とソフィアの睨み合いが続いた。
「……………リアン様に罰を与えます」
「は、はい」
俺はソフィアの言葉に返事をすることしか選択肢はない。
「その、私の下着が汚れてしまったので、リアン様が選んで買って来て下さい」
「はい………………は?」
俺はどうやら犯罪を手を付けることになるかもしれない。………………いや、今までも猫で犯罪になることをしてきていたか。ソフィアの広い心に感謝だな。でもまたあの未知の世界へと行かなきゃいけないのか。何とか店の中だけでも猫に戻れないだろうか。
そうこう考えている俺はソフィアに腕を掴まれ、町の方へ歩かされて行った。
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