第97話

 楽しい夜は日付が変わる前にお開きになった。


 というのも、ソフィアが疲れから眠くなってきてしまったからだ。


 流石に無理をさせるわけにもいかないので、客を含めフェンデルからも家に帰ってゆっくり休むように言われた。


 俺は眠そうなソフィアと一緒に喫茶店近くのソフィアの部屋に帰る。途中、足がふらついていたので、ソフィアは少し無理をしていたようだ。


 部屋に帰るなり、ソフィアは恥ずかしがることなくスカートを落とすように脱ぎ、上着もそこら辺へ脱ぎ捨て、薄い肌着とパンツ姿になった。


 最近は俺のことを意識していて、こういった姿は見せないようにしていたらしいが、疲れと眠たさからおざなりになっているようだ。


 ソフィアは薄着のままベッドへ向かおうとする


 だが、今日もそれなりに動いて汗を掻いているはずなので、シャワーを浴びた方がいい。せめて濡れタオルで汗を拭くぐらいは。


 俺はソフィアの前でにゃあにゃあと鳴き、そのことを訴える。


 ソフィアは俺に気が付きはしたが、そのまま素通りして、ベッドへダイブするように倒れ込んだ。


「んにゅう…………」


「にゃっ!にゃっ!」


「にゃんですか?りにゃんさまぁ」


 ソフィアに俺の猫言葉が写ってしまった。可愛いくて凄くいい!!じゃなくて、せめて俺を人間に………そう考えていたら、ソフィアも考えてくれたのか、俺は光に包まれ、人間の姿になった。


「タオルくりゃさい。もう眠くてダメれす」


 人間姿になった俺に呂律が回らない声でソフィアが言ってきた。


「わかった。ちょっと待ってろ」


 俺は自分が裸なので、腰にタオルを巻いてから、ソフィアの身体を拭くためのタオルを用意した。


 タオルを持っていくと、すでにソフィアは完全に寝ており、静かに寝息を発てていた。


「……………どうすりゃいいんだ」


 一応両思いだということはわかっているが、寝ている相手の身体を勝手に拭いていいものなのか、分からない。


「……………っていうか、猫に戻らないと俺の寝るところもないぞ」


 猫に戻るためにはソフィアの力が必要だ。


 ベッドは完全にシングルのため、寝るにはソフィアを抱く形でないと、俺は一緒に寝れない。


「はぁ、とりあえず風呂にでも入ってくるか」


 俺に寝ている女を拭く度胸はないし、この身体で一緒に寝るのもレベルが高い。


 俺は風呂に入ってから、ソファーで寝ることにした。



 ☆     ☆     ☆



 翌朝、俺はソファーで寝たことによる身体の痛みと、何かの音で目が覚めた。


「…………そういや人間のまま寝たんだっけな」


 なんか人間の姿で寝起きしたのはすごく久しぶりな気がする。出来るならベッドとかで伸び伸びと寝たかった。


 俺は顔を洗うために洗面所に向かった。俺は特に何も気にせずに洗面所の扉を開けた。


「え?」


「……………あ?」


 そこには一糸纏わぬソフィアが髪をタオルで拭いていた。隠されてもいない身体は美しく、窓から入る朝日の光で神々しくも見えた。俺はそんなソフィアの姿に目を奪われていた。


「あ…………う…………あ…………」


 ソフィアは何が起こっているのか理解出来ていないのか、口をパクパクとしていた。


 そして、次第に顔が真っ赤になり。


「きゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ソフィアは悲鳴をあげながらタオルで身体を隠ししゃがんだ。


「すまんっ!!俺はただ顔を洗おうと」


「なんで人間になってるんですか!?なんで裸なんですか!?」


「あ」


 俺はまだ自分の服がなかったから、タオルを巻いて寝ていたことを忘れていた。タオルは見事にここまで来る間に落ちていた。


 どうやら俺は猫でいる時間が長くなっていることで、服を着ていなくても気にしなくなっているようだ。当然だよな。猫の時って常に裸で歩いているようなもんだし。


「リアン様!!朝からは早いと思うんです!!せめて雰囲気のある時とか夜にお願いします!!」


「は?」


「それより早くそれ隠して下さい!!いつまで見せつけてるんですか!!それにいつまで私を見てるんですか!!」


 その言葉で俺はただただ恥ずかしがっているソフィアを見続けていたことに気が付いた。


 でも、男ならこの気持ちはわかってくれると思う。好きな女の恥ずかしがる姿は最高だということを。


 ソフィアはいつまでも動こうとしない俺を、洗面所から追い出してきた。


 しばらく部屋の中で待っていると、ソフィアがタオルを身体に巻いて、洗面所から出てきた。


「こっちを見ないで下さい」


 俺がソフィアから視線を外すと、タンスを開ける音と布が落ちる音が聞こえてきた。どうやら俺の後ろでソフィアが着替えを始めたようだ。


 俺は気になってしまい、つい後ろをこっそりと見てしまった。


 俺は猫の時に何度も見たことのある光景だが、人間の時に見ると、美しさは格段に上に見えるのが不思議だ。


 ソフィアはパンツを穿こうとしており、お尻を俺に向けて突きだしている。すると、突然動きが止まった。いつの間にか、ソフィアの鋭い視線は俺を射抜いていた。


「……………リアン様」


「…………すまん。綺麗で見惚れてた」


「見惚れっ~!?」


 俺の言葉にソフィアはより一層赤く染まった。


「う~…………わ、わかりました。リアン様は猫の時から私の身体を視姦していたわけですものね。もう今さらなんですよね。だったら」


「本当にすまん。その、好きな人が近くで着替えていると思うと、つい気になっちまってな。これからは気を付ける」


 俺はソフィアが変なことをいう前にそう言ってソフィアの言葉を切り、背中を向けた。確かにある意味魅力的な提案だと思うが、それは何か違うような気がしたからだ。


「………………ソフィア?」


 ソフィアの言葉を切ったのはいいが、後ろから何も反応がない。というより、布が擦れる音もしてこない。


 まだ着替え中なはずだから、俺は後ろを向くことが出来ない。もう一度声を掛けようとした瞬間。


「ちゅ」


 ソフィアが俺の後ろから抱き付き、頬にキスをしてきた。


「ななななな何をっ」


「素敵な言葉をくれたお礼です。あ、まだ着替えてるので、こちらは見ないで下さいね。それからこの後猫になってもらっていいですか?リアン様のお洋服を買いに行きましょう♪」


「……………わかった」


 くそ、今のは効いた。俺は本当にソフィアのことを好きになってしまったようだ。っていうか、俺の言葉でこんなになるって、チョロ過ぎないか?でも助かったからいいが。


 後ろからはソフィアの鼻歌が聞こえてきていた。

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