第5話 First
目が覚めると、そこは僕が最初に目を覚ました白い空間だった。
不思議と疲労感は抜けていた。長い間眠っていたからだろうか。そういえば、この空間に来てから時間の感覚が全くない。一日は経った気がするが、腹は減らず、喉も乾かない。
情報がなさすぎる。チュートリアルですら何の情報も得られなかった。
端末をもう一度起動してみる。問題なく、起動音の後、メニュー画面が表示される。
どれを選択するか迷いながら、化け物との最後の戦闘を思い出していた。あの時、足がもつれて、転んで。それからどうなったのだったか。意識も朦朧としていたせいか、上手く思い出すことができない。
とりあえず、とStatusの項目を押そうとして躊躇う。こんなに簡単に選んでもいいのか。またとばされるのではないか。そう思うと、指先が震える。
しかし、何か選択しない事には前に進めない。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。目をつむり、決意を固める。
ゆっくりと、震える指先で画面に触れる。
切り替わった画面には、大きく【停止】とのみ記されていた。
「は?これだけ……?」
何も起きなかったことに安心しつつも、あまりの情報の少なさに思わず声が裏返る。停止。それがなにを意味するのかはわからないが、Statusの項目にある以上は自分の状態に関わるものだろうが、皆目見当がつかない。
他の項目も調べてみようと端末を操作してみるが、Friendの項目は選択出来ず、Questの項目は何も記されていなかった。
残るOptionも、先ほどのチュートリアル以外、着信音の設定やバイブレーションの設定など、一般的な携帯電話の設定項目と同じような項目が並んでいるだけだった。
結局わかったのはこの端末が携帯として利用できそうってことくらいだ。まあ、それがわかったところで、通話方法は不明だしそもそもかける相手もいないのだが。
ふう、と長めのため息をつく。一度にいろいろなことが起きすぎたせいか頭痛がひどい。
一度、大きく伸びをして、慣性のままに後ろに倒れる。床がないので衝撃もなく、これ以上頭部が痛むことはない。そっと目をつむり、もう一度最初から現状を整理する。
目が覚めたら記憶はなく、端末に情報を求めるも化け物と戦わされ、幾度となく生と死を繰り返し、原因は謎のまま化け物を倒して、結局なんの情報も得られぬまま現在に至る、と。
改めて整理すると絶望的だ。泣けてきた。
急に、眩い光が瞼の裏から瞳を射す。目を開けると、そこは先程の闘技場だった。中央には光が差している。
その中から現れたのは、首のない、さきほど倒したはずの化け物だった。
ドクン、と心臓が強く脈打つ。
――首がなくなっても動けるとか、もう生物じゃないな、あれ。
どうやって視界を得ているのか、化け物はしっかりと僕に向かって構える。
逃げなければ、と思うも、足が根を張ったように離れない。
化け物の筋肉が収縮し、突進を開始する。
時間の流れが遅れ、鋭いかぎ爪が暴風とともに近づいてくる。少しづつ、少しづつ首に近づき、僕の首に触れ――
「――――ッ!!」
勢いよく体を起こし、首に手を当てる。気づかぬうちに眠ってしまっていたらしい。それにしてもひどい夢だった。チュートリアルが完全にトラウマになっている。
体を起こしはしたものの、現状手詰まりの今、何もできることはない。もうひと眠りしようかと再び後ろに倒れ、寝転ぶ。
「痛い……」
ゴン、という鈍い音とともに後頭部に衝撃がはしる。
何事かと体を起こし、周囲を見回す。
「なんだよ、これ……」
そこは、もといた空間ではなかった。木々は枯れ、空は濁り、土は死んでいる。一言で表すなら、魔界や地獄といった言葉がぴったりだった。
ピコン、と急に音が鳴り、一瞬びくっとする。音の発生源はあの端末のようだ。起動してみると、Questの項目が点滅している。迷わず選択するとそこには、少女と関われ、とだけ記してあった。
どういう意味だろう。しかし、少しでも情報が得られたのはありがた――
爆発音が枯れた森に鳴り響く。前に聞いたような衝撃音とは違う、炎を伴う爆発の音。と同時に、女性の悲鳴。
タイミングがよすぎる。もしかしなくとも、少女と関われというのはこの事だろう。
「はぁ……。情報得る前に面倒事はごめんだぞ」
どうか穏便に進みますよう、と願いつつ、悲鳴の聞こえた方へ駆けだした。
Messiah(仮) てうふぇる @OoKURONAoO
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