第01話 雛、華やかなりし宴に出ること

 綺麗な人――。

 玉蝶ぎょくちょうの息が止まった。自分を助けてくれた男に礼を言うのも忘れ、ただひたすらに無遠慮に男を見つめ、その容姿に心をざわめかせた。

 冠と銀簪ぎんかんざしで結われた男の黒髪は、月光と松明を浴びて艶めいている。

 玉蝶を見下ろす眸は猫のそれと同じ形で、紫水晶のごとく煌いている。

 額を晒した白皙はくせきは、宮廷画師えしが描き、人ならざる存在が魂を与えたかと錯覚するほどに美しく整い、玉蝶を見つめる現在の――驚きをあらわにした表情も様になっている。

 男の形の良い唇が開閉した。

「……玉鸞ぎょくらん?」

 発せられる声は低く、けれど穏やかで、玉蝶の頭はようやく今の状況を理解する――――。

 塀から落ちた間抜けな自分と、初めて会った男に、亡き兄の名で呼ばれたことを。


 *


 今年の秋は、ずいぶんと早く京師みやこを去ってしまったようだ。

「ううっ寒い!」

「夜になったらもっと冷えそうねぇ」

 両肘をさする朋輩、彩紅さいこうの隣で、玉蝶は同意した。

 百を超える人数の十代前半の少女たちが、朱色の円柱が立ち並ぶ回廊かいろうをそぞろ歩く。いずれも顔形は整っているものの、数が多い分だけ、それぞれの器量が埋もれてしまい、ありがたみがない。加えて、全員が頭頂部で髪を丸め、身体の線がはっきりと出る藍色の短衫たんさん褲子ズボンという市井で働く庶民らしい出で立ちまでそろえていた。

 玉蝶と彩紅、そして前後を歩く少女たちは、この銀漢ぎんかん帝国の雛妓すうぎである。雛妓とは宮妓きゅうぎの見習いを指す。宮妓とは歌舞音曲かぶおんぎょくを皇帝陛下に捧げる存在だ。

 ここ最近は曇り空が続く中、今日は珍しく秋晴れだった。けれど肌を突き刺すような冷気は、日が中天にさしかかった現在でも続いている。

 舞で用いる白い領巾ひれを両肩に掛けた彩紅は、皺が付かないように丸めた赤領巾を右手にする玉蝶に半眼を向ける。二人とも舞踏の稽古着だから、綿など入っていない。

「玉蝶、あんた寒くないの?」

「うん、あんまり」 

 総稽古で身体からだをたくさん動かしたせいか、むしろ頬を撫でる冷たい風が玉蝶には心地よい。

 形ばかりの申し訳なさを覗かせる玉蝶に、彩紅は「ハァー、若いわねぇ」と羨望とも呆れとも取れる息をもらす。

 ちなみに彩紅は十四、玉蝶は十二になる。もっと年上の姉貴分が聞いたら頭に拳骨を食らいそうな発言も、二人の前後を歩く朋輩たちのおしゃべりでかき消された。

 食堂へと続く回廊を歩きながら、彩紅は思い出したように言った。

「そういえば、あんたって寒いところの生まれだっけ?」

「生まれはね。でも二歳の頃には京師みやこに移っていたし」

 都会っ子よ、と薄い胸をそらす玉蝶に、楽器職人を務める曾祖父の代から京師で暮らしている彩紅は「あーね」と頷くだけに留めた。

 玉蝶は、京師より北にある寒村で生まれた。山林と湖沼に囲まれた村は老人ばかりが多く、さらに洪水によって壊滅を受け、廃村を余儀なくされた。件の水害によって両親を亡くした後は村長の勧めで、兄と共に、村を訪れる行商人に京師へと連れてこられた。

 そして縁があって、宮妓を育成する教坊きょうぼうの住人となったのだ。

 宮妓も雛妓も、日頃は宮城きゅうじょうの一角にある教坊で鍛錬に励み、今日のような宴に招聘される。

 玉蝶の初舞台デビューは、降嫁こうかが決まった公主こうしゅ殿下の祝宴だ。

 披露するのは〈彩雲さいうん〉という題名の群舞ぐんぶである。

〈彩雲〉は結婚する女性を祝う群舞であり、赤、黒、白、黄、緑と五色の領巾をそれぞれ携えた舞姫たちが仙女として、吉祥を意味する雲のごとき舞を披露し、花嫁を寿ぐのだ。

 舞姫の数が多ければ多いほど、彼女たちを招いた者の富貴や権力を内外に知らしめるため、公主や深閨しんけいの令嬢の祝宴で用いられる。

 また大人数だからこそ表現できる妙技は、その題材から、雛妓のような破瓜はかを迎えていない娘たちが踊る慣習があるため、九歳から十歳で初めて出演する雛妓が多い。

 今は、今夜の宴で披露する〈彩雲〉の総稽古が終わり、遅い昼食をとるために、大広間から食堂へと移動しているところだった。

 総稽古に参加した雛妓は三百人近く。玉蝶のように今夜の宴が初舞台デビューとなる者、一回は〈彩雲〉の経験がある者、〈彩雲〉や他の群舞を披露し、場数を踏んでいる者が、ちょうど三分の一ずつの比率で構成されている。

 玉蝶が〈彩雲〉の練習中に仲良くなった彩紅は、瑶鏡殿ようきょうでんでの出演は、今回で五回目だという。〈彩雲〉も二度、経験していると語った。

「それで。どうよ、首尾は?」

 白い歯を覗かせて問う彩紅に、玉蝶は「うーん」と歯切れの悪い返事になった。

 脳裏によみがえるのは、宮中の宴として主に使用される、瑶鏡殿の大広間だ。

 玉蝶は、初めて足を踏み入れた大広間の壮麗さに圧倒された。

 磨き上げられた白大理石の床に、等間隔に並ぶ朱塗りの円柱が鏡のように映り、奥行きが果てしなく感じられる。

 千人はゆうに入る室内は天井も高く、三層建ての吹き抜けだ。両腕を広げた玉蝶が三人、並んで一周できるほどに太い丹塗りの円柱には御物ぎょぶつの証である五爪龍ごそうりゅうが彫り込まれ、土台には碧瑠璃へきるりの象嵌がほどこされている。

 その場で顔を上げれば、金箔がたっぷりと用いられた豪奢な天井や壁の画に息を呑んだ。宮廷画師によって精緻に描かれた色鮮やかな百花は、下界にいる玉蝶の鼻に芳香を届けんばかりに咲き誇り、花園の中で遊ぶ瑞祥の獣たちは、今にも咆哮を放ちそうな鋭い牙を覗かせ、生き生きとした輝きを眸に宿している。

 玉蝶は春空のような色の眸と口を丸くし 、煌びやかで迫力ある室内に気圧されながらも、事前に指示されたとおりに自分の立ち位置――室内の南側を陣取る赤組の一帯に慌てて足を運んだ。

 そして、遥か彼方と錯覚しそうな正面を見た。総稽古の時点では、当然ながら公主はおらず、正面を見据える雛妓の目には、背凭せもたれに羽を広げた鳳凰が彫刻された黒檀の長榻ちょうとうしかない。

(こんな素敵なところで踊るのね……)

 できるかしら、と今までの練習に裏打ちされた自信が、緊張と不安に覆われていく。

 教坊の広間は床と壁は板張りで、天井も吹き抜けの二層建て。もちろん金箔など使用されていない。

 瑶鏡殿の大広間は大理石の白い床に、教坊よりも高い天井だ。そのため、音の響きが、聴こえ方が違った。

 総稽古だというのに玉蝶は、心の中で芽生えた雑念と緊張もあってか、滑り止めに足に巻いた布の湿り具合――自分の汗のかき方が、今までの練習と違う、身体が発散する熱の量が違うことに囚われたままに、時が過ぎてしまった。

〈彩雲〉の振り付けは、平行移動やその場での回転、全員一斉に跳躍と比較的単純な構成となっており、この群舞の主眼は大人数で息の合った動きを披露することにある。

 およそ半年間の、練習に明け暮れた日々のおかげか、跳ぶときは跳び、右手を上げるときは右手を上げ、左足を後方に上げるときは上げ……と、この期に及んで振り付けを間違えるなどということはなかったものの、玉蝶の胸の中は、達成感や充足感よりも、今になって不安や緊張が忍び寄ってきた。

 流されるままに、総稽古が終わり、食事や衣装の着替え時間、場所などの連絡を受けて、現状であった。

 玉蝶は心の中に生まれた不安を吐き出すようにため息を吐いた。

「私に、できるかしら?」

「できる、できないじゃなくて、やるのよ。私たちは雛妓だもの」

 にべのない彩紅の回答は雛妓として当然のもので、そして玉蝶とて相役にうわべだけの慰めなど求めていない。

「うん……そうだけれど」

「玉蝶は誰のために舞うの? 自分のため?」

「殿下のためよ」

 真面目な顔を作った彩紅の問いに、玉蝶は即答した。赤色の舞布を胸の前でそっと抱きしめる。

(公主殿下がお喜びになられると嬉しいなぁ)

 不遜だとは思いながらも、これから舞を披露する方に対して、臣下として祝う気持ちがあるのも事実。

 結婚というものにたいして、漠然とした印象しかない玉蝶だが、深紅と金糸で彩られた婚礼衣装に身を包む花嫁と花婿への憧憬は年頃の娘らしくあった。

「うん。わかっているじゃない」と嬉しそうにうなずく彩紅に、彼女なりに自分の緊張を解きほぐそうとしてくれたのだと玉蝶は気づく。

 彩紅の視線を受け、玉蝶は言った。

「いよいよなのね」

「そう、いよいよなのよ」

 休憩の後に本番――公主殿下と百官の前で自分たちの踊りを見せ、魅せるのだ。 初めて人前で舞を披露する緊張と胸の高鳴りが混ざる玉蝶に、彩紅は年長者らしく力強くうなずいた。

 二人が食堂に入ると、娘たちと食堂と直につながった厨房を出入りする料理人や給仕たちの姦しい声に包まれた。

 扉から入って右手側に、使用人向けに用意された真鍮の四角い皿が山のように積まれている。皿には仕切りのように四角いくぼみがあり、盆に皿を載せるよりも運搬や洗浄が簡単なのだという。そのまま壁沿いに並ぶ雛妓の列に続けば、料理を置いた方卓を挟んで、取り分け用の器具を持った料理人たちが雛妓たちの皿に次々と料理を載せていく。

 蓋を外された蒸籠の中には、湯気が立ち上る饅頭がぎっしりと並び、空になった途端に次の蒸籠が厨房から運ばれてくる。大皿に載せられた、内側が薔薇色の牛肉の塊に仔豚の丸焼き。米を使った、紙のように薄い生地で包まれた葉野菜と蒸し海老の春巻き。ふっくらと蒸し上がった巨大な秋魚には、銀杏の実が星のように散っている。寸胴鍋にたっぷりと入った、プリっとした噛み応えがありそうな帆立に、千切りの椎茸と生姜と葱が浮かぶ羮。干し杏や煎った巴旦杏アーモンドの甘味も山のように盛られていた。

 大蒜にんにくや喉が渇く香辛料は控えめに、食べやすく、口にしただけで腹の底まで温まるような料理がたくさん並ぶ。

「こんなに食べられるかしら?」

 彩紅の後に続く玉蝶が言えば、豚肉を皿に載せてもらった彩紅が言った。

「食べておきなさい。それに瑶鏡殿の料理は宮城で一番おいしいのよ」

「ソーよソーよ」

 と、声を上げたのは、彩紅に豚肉を切り分けた女料理人だった。右手に包丁、左手に銀の菜箸を持つ彼女は、西域の生まれらしい発音に、両眸は明るい緑色を持つ彫りの深い顔立ち。白い三角巾から覗く髪は短い茶色の巻き毛をしている。

「ワタシ作る、あーた食べるのがオ仕事ね、違うマスカ?」

「違わないわ」

「よろし、たんとオ食ベ。ソシテ動ケよろし」

 女料理人の笑顔につられて玉蝶が答えると、相手は素早く切り分けた肉を彼女の皿に載せた。

 そのようにして皿を彩り豊かな食材で埋め尽くすと、二人は空いた席に腰を下ろした。

「おいしそう!」

「じゃ食べようか」

 玉蝶と彩紅は向かい合うようにして席につくと、皿に盛られた料理にそれぞれ手を伸ばす。

 玉蝶は短刀でふわふわとした柔らかな白饅頭に切り込みを入れて、豚肉を銀箸で挟んだ。肉と脂の二層に分かれており、透明な飴色と夕焼けに染まった白木蓮に似た色合いをしている。飴色部分の、角煮に似た食感は玉蝶の好物だ。

 部位が限られるため大人気の脳味噌や目玉、尻尾は、すでになくなっていたが、角煮みたいな背脂つきの肉を口にできるのは僥幸だった。

 玉蝶は両手で饅頭を掴むとかぶりついた。こうすると肉の油脂が饅頭の生地に吸い込まれ、油の一滴まで美味しく食べられるのだ。

 真鍮の皿をあらかた空にして、食後の白湯をすすり、ほっと息をつく玉蝶だが、彩紅の口数がだんだんと減っていることに気がついた。

 ぼんやりした表情で空になった茶杯を見つめる彩紅におずおずと声をかける。

「彩紅、どうしたの?」

「……ああ、うん」

 なんでもないわ、とすぐに笑顔を浮かべた彩紅は、玉蝶の皿が空なのを見ると「行こっか」と自身の皿を掴んで、席を立った。

 食堂から用意された控室に行こうとした二人だが、彩紅は廊下の途中で足を止めた。

 玉蝶のように、今夜の宴が雛妓として初めての出演となる者と比べ、彩紅たちのような経験者は手慣れた様子で、料理人に食事の感想を告げたり、食べ終わったら用意された控室なり、院子にわで自主練習に励んでいる。

「玉蝶。先に行ってて。どこの部屋かわかるわよね」

「ええ」

 用意された十の控室は、食堂を出て一つ目の角を西に曲がったところにあり、迷いようもない。

 なにかを言おうとして迷う彩紅と、踏み入れて良いのか迷う玉蝶は、互いに見つめ合い――「それじゃ」と別れた。

 帝国の芸能界で生きる、技芸を極める者を養成する教坊において、表現者特有の孤独を求める時間が必要なのだと、玉蝶も彩紅も知っているからだ。

 だから玉蝶は、彩紅の背中を黙って見送った。

 そのまま雛妓に用意された控室に向かう。控室は、それぞれ扉の鉄環に目印となる各色の布が結ばれている。赤い布が結ばれた二つある部屋の一つを覗いた玉蝶だが、薄暗い室内を見て足がすくんだ。扉を開けたまま、入室してよいのかためらう。

「あら、玉蝶」

「あね様」

 扉の近くの長榻で横たわっていた顔見知りの少女が、上体を起こしながら、ふわぁと眠たそうに欠伸をもらす。彼女は玉蝶が初参加だと覚えていたのか、室内で屏風のように仕切られた、赤色の領巾が吊るされた井桁を指さした。

「領巾は空いているところに吊るしておきなさい。あとここは寝てる子が多いから、練習するなら院子でね」

「はい」

 相手と同じく玉蝶も小声でうなずいた。

 総稽古と本番までの自由時間の過ごし方は、その時の参加者の顔ぶれや演目内容によって、かなり違うのだと言う彩紅や朋輩たちの言葉を玉蝶は思い出した。

 宴の会場の規模によっては、総稽古を終えて食事をとる暇もないまま、本番が開始されたり、前日、当日と食事や宿泊所が用意されている宴や舞台もあるという。

 下手をすれば、総稽古そのものがなく、ぶっつけ本番ということもあるとか。

 単身で歌や舞を披露するならば、一人で宴の開始直前まで練習に励めばよいが、〈彩雲〉のような大人数での場合、頭目の性格やその時の全体の完成度によって、個別の休憩を与えないまま練習に費やすこともあるのだとか。

 今回は、公主殿下が主催と主賓を務める官宴かんえんのため、制作人プロデューサーである官僚も責任感が強く、瑶鏡殿の大広間での総稽古に費やす時間調整や玉蝶たち雛妓への控室から食事の手配まで手間暇がかかっていた。制作人の手腕が悪いと、どれだけ優れた宮妓であっても、その歌声や舞を披露するより、客人に侍る時間が長いと聞く。

 玉蝶は、姉貴分の助言に従い、皺を取るため領巾を衣桁の空いた場所に吊るした。食堂に行く前に、ここに立ち寄れば良かったと気づく。

(だから手ぶらの子もいたんだわ) 

 と、今更ながら食堂にいた朋輩たちの様子を思い出した。経験者だったり、彼女たちから話を聞いて、先に控室に寄った者がいたのだろう。

 手持ち無沙汰に周囲を見渡せば、長榻や床に敷物を敷いて寝そべる者が多い。

「宴が始まるのは夜だもの。今のうちに寝ておかないとねぇ」

 という姉貴分の発言内容は理解できるのだが、せっかくだから、瑶鏡殿の院子で踊ってみようかと玉蝶は部屋を出た。

 暖気に包まれた食堂や控室にいたせいか、院子に面した回廊を歩けば、ひんやりとした秋風が頬を撫でる。

 途中、楽器を手にした楽人が〈彩雲〉と無関係の曲を演奏して、それに合わせて跳んだり回ったりする雛妓を見て、笑い合っている。

 さらに何人かとすれ違い、言葉を交わし――早い者だとすでに着替えていたり、廊下で髪を結い直している者もいた。

 午前中に、寄宿舎である教坊で、出演者同士で互いに〈彩雲〉用の髪型――頭頂部で団子のように丸め、髪夾ヘアピンで留めただけ――にしたが、なるほど自前で櫛を持ち込めば、こういう時に身だしなみが直せるのかと玉蝶の脳裏に、どんどん新しい項目が増えていく。

(先生方は必要なもの以外持ち込むなっておっしゃっていたけれど)

 それはそれ、これはこれだと玉蝶は理解した。楽器や舞も、基本的な動作を身に着ければ、応用が可能なのだ。

 そして舞台に立つ以上、臨機応変、柔軟な対応が求められる。

 国家祭典を司る礼部の麾下きかにあたる教坊は、孤児を保護する名目で、直轄の育嬰堂いくえいどうをも運営している。八歳までに音楽的教育を施され、その時点で楽才や身軽さを見込まれた者が教坊に入ることを認められ、雛妓として育てられる。

 雛妓の間に、琵琶や箏、箜篌をはじめとする楽器に、歌や舞、読み書きに刺繍を学び、二十五歳まで宮妓として活動する。

 宮妓は、宴席に侍ることで官僚の寵愛を得られる場合もある。そのため、孤児だけではなく、我が子に芸才ありと見込んだ市井の親が、栄達を望んで教坊に送りこむこともある。また教坊に入れる時点で、器量の良さを国が認めた証でもあるため、適齢期を迎えたら、教坊を辞めて嫁ぐ者もいるという。

 もっとも玉蝶をはじめ、今宵の宴に参加に参加する者は見習いの雛妓ばかりで、先輩方のように客に酌をする前に退出するため、寵愛云々とは無縁だが。

「玉蝶、ここにいたのね」

 背後からかけられた声に振り向けば、玉蝶に〈彩雲〉を教えた姉貴分の一人がいた。

「ちょっと来てくれる?」

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