幽霊屋敷の話

安良巻祐介

 

 夢を見た。

 夜中、寝る前にパソコンを弄っていると、メールを受信した。差出人を見ると、同人のMさんである。

 件名は「●●原稿」とあり、僕が個人的に発行している不定期文芸誌への寄稿らしかった。

 だが、今は募集をかけていない。

 但し書きにはただ一言、「幽霊屋敷の話です」とだけあった。

訝しがりながら開いて読んでみたが、なるほど、確かに幽霊屋敷の話であった。色合いも、古臭いビデオテープのような、ぼんやりと青みがかったモノクロ風味であり、どこか透けているふうでもある。

 しかし何分時間が時間であり、とりあえず屋敷のうちでいうと、屋根の半分くらいまでを、薄皮を歯ではぎ取るようにして眺めるのが精一杯であった。続きはまた明日としたい。

 だからその旨を正直に書いてメールで返信した。

 そしたら、数分も経たないうちに、今度は件名もついていないメールが立て続けに送られてきて、それらすべてに、「幽霊屋敷の話です」との但し書きが添えてあった。

 僕はメールボックスにどんどん溜まっていくそれらの封を次々と開きながら、外れにぽつんと一軒ならまだしも、何棟も建っているなんて思わなかった、と途方に暮れた。

 あるいは、これがもし一軒だとしても、いや、むしろ一軒の幽霊屋敷なのだとしたら、なおさら恐ろしいことになる。

 なぜかと言うに、これらの件数の全てを合わせるとなると、大屋敷どころではない、山か、雲にも届く位の、出鱈目に巨大な建造物だということになってしまう。

僕はメールを目で追いながら、手が震え、歯の根が合わなくなり、しまいには恐ろしさで泣きそうになってきた。

 しかし、そうこうしているうちにも、メール・ボックスは、一向に休む気配を見せずに、次から次へと受信を続けているようであった。

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幽霊屋敷の話 安良巻祐介 @aramaki88

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