四十一から五十

季節事務局

 (もしもし、こちら事務局、おたずねどなたでしょう)

   わたしです、おたずねするのは、わたしです

 (どうぞ、どんなご用でしょう)

   あのですねえ、少し早いじゃないですか

 (といわれると、なんでしょう)

   だれなんです、今朝方の雨にもう、夏の種を忍ばせたのは

 (ああそれは交換手です、季節交換手です)

   そう、ならだれなんです、雨のうえへと春を隠してしまうのは

 (交換手です、手際がいいのです)


 交換手、交換手ときたもんだ。そんなら手際がいいには違いない。是非もない。

 受話器をなおして、ちんといわせて、駆けでた庭を端からめくる。

 手際がいいには違いない。こちらは不手際てんてこまい。

 縁側に置いた竹籠に、「あお」「あか」「まどか」、どれも今朝方拾った夏の種。

 一方庭には芽吹きの残り香、雪解けの水がなおあって、まぶしい空気が目鼻に沁みる。

 早いじゃないか、しかし手際がいいときたもんだ。たまらずひとつ、くしゃみを捨てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る