ヨットよ、夜に浮かべ

 月のひかりはやわらかな潮。ぼくのまぶたにうち寄せてくる。

 なぜ、夜はこんなにも青いんだろう。

 (ぼくは思いだす。南の海の底の、透明とうめいないろ。)


 たまらずに寝台から起きだして、けいだなの扉を開ける。

 ほのかに輝く真鍮しんちゅうは、並ぶ帆船はんせんや飛行船におくられた勲章くんしょうだ。

 (マストを飾る王冠。ゴンドラに大鷲おおわし。)


 そのなかから選りだした、手製のヨットを浮かべよう。窓からそらに。

 静かな渦を巻きながら、きっと遠く、旅に出るだろう。

 (ぼくは思いだす。船出の日のきみの、まなざしのいろ。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る