コハルノートへおかえり9

五月八日(日曜日)


 きょうから日誌を付けろと言いつけられた。だけど何を書いたらいいのかな、とりあえずお店であったことでいいのかな。そういうことにしよう。

 開店から二週間が過ぎても、まだまだ大盛況。といっても、ほとんどの人たちは物見のつもりで来るみたい。

 でも正邪の笑顔の前にはひざまずいて、ついついあれやこれやと買っていってしまうのが面白い。私は試飲に提供するハーブティーの味と作用を説明するので必死で、ついつい効果と言いそうになってはにらまれている。薬事法で禁止されているからと、そこのところは特に厳しく注意されているのに、私はいつになったらすらすらと説明できるようになるのだろう……もしかしてそんな日なんて来ないかも。いやいや、頑張る。

 朝霧さんは、いつもふるまう『本日の試飲ティー』を私に一番にくれる。

 きょうのハーブティーは、ハイビスカスとローズヒップ、えっと、ローズペダルとリコリスとピーチ……とメモに書いてある。

 ハイビスカスのクエン酸と、ローズヒップのビタミンの爆弾(ちょっと物騒)で、連休明けに向けて疲労回復して頑張ってもらおう……って、もしかして私のためのブレンドだったのかな。ローズヒップはバラの味がしないそうなので、女性たちに向けてローズペダル(バラの花びらのことらしい)を入れたらしい。バラの香りとピーチのほのかな甘みで、すっごく美味しかった!

 って、こんな味わうことだけを楽しんでいちゃダメだよね。私もいつかこんなふうに人を幸せな気分にさせるブレンドティーが作れるようになれるかな。

────小梅

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コハルノートへおかえり 石井颯良/KADOKAWA文芸 @kadokawa_bunko

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