3
順調だった。
力を分け与えたあとは、儀式は形式的なものとなる。打ち合わせ通りに、呼吸を合わせ、歩を進めればいいだけだ。
語り合う暇はなかったが、霊山でのサリサとのすれ違いの日々を考えると、エリザは幸せだった。
目を合わせるのは、次の一歩を合わせるための合図にすぎない。しかし、エリザにとっては違った。
お互いに見つめあうこと。それを誰にも咎められない。
目を合わせた瞬間に、心までもが繋がるような、どこかこそばゆい感じがするのだ。
それで思わず顔がほころんでも、今日は誰も怒らない。
それに上手くこなせていることがうれしい。
今まで、エリザが一発で巫女姫の仕事をなしえたことがあるだろうか? 皆無である。
大事な『祈りの儀式』の進行具合は、今のところ、奇跡に近い絶好調といえるだろう。
完璧なままに、その日の儀式も終了した。
湿ったベッドの中で、今日のことを思い出す。
一番の山場を越えて、エリザは確かにほっとしていた。
エリザは、最高神官が反対を押し切って選んでくれた巫女である。ここで失敗すると、エリザだけではなく、最高神官まで笑いものになってしまうのだから。
明日ですべてが終ってしまう。
そう思うと寂しいくらいだった。
これほど、充実した数日間を過ごしたのは、巫女になって初めてである。それに、最高神官と長い時間を一緒にすごせたのも。
――おそらく一生、今夜のことを忘れない……。
心の中に深く、幸せな思い出として刻まれてゆく。
あまりにも美しい最高神官の姿。その手のぬくもり……そして、不思議な一体感。結ばれた感じ。
結ばれた……。
急に頭に血が上って飛び起きた。
ドキドキした。爆発しそうに顔が熱い。
抱かれた夜のことを、実に鮮明に思い出してしまったのだ。
――触れがたいほどに神々しいあの方と、私って……。
想像するだけで、体の奥が熱を帯ってくる。
「きゃっ!」
悲鳴を上げて布団をかぶってしまった。
このようなところを、もしもフィニエルに見られたら、妄想癖だと笑われてしまうだろう。
……笑われてもいいのだ。
今の自分を支えているすべてが、あの方に繋がっているのだから。
エリザはそっと布団から顔をだした。
もちろん、ここには誰もいない。湿った布の冷たさが、熱った頬をさましてくれて気持ちがいい。
このような寂しく湿った祈り所に寝泊りしようとも、あの方とすべてを分かち合っていると思えば、幸せに思える。
今夜が百年続いたとしても、全然平気。千年続いても、きっと平気。
「サリサ様……」
そっと名前を唱えて横になると、心地よい眠りが訪れた。
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