順調だった。

 力を分け与えたあとは、儀式は形式的なものとなる。打ち合わせ通りに、呼吸を合わせ、歩を進めればいいだけだ。

 語り合う暇はなかったが、霊山でのサリサとのすれ違いの日々を考えると、エリザは幸せだった。

 目を合わせるのは、次の一歩を合わせるための合図にすぎない。しかし、エリザにとっては違った。

 お互いに見つめあうこと。それを誰にも咎められない。

 目を合わせた瞬間に、心までもが繋がるような、どこかこそばゆい感じがするのだ。

 それで思わず顔がほころんでも、今日は誰も怒らない。

 それに上手くこなせていることがうれしい。

 今まで、エリザが一発で巫女姫の仕事をなしえたことがあるだろうか? 皆無である。

 大事な『祈りの儀式』の進行具合は、今のところ、奇跡に近い絶好調といえるだろう。

 完璧なままに、その日の儀式も終了した。

 

 湿ったベッドの中で、今日のことを思い出す。

 一番の山場を越えて、エリザは確かにほっとしていた。

 エリザは、最高神官が反対を押し切って選んでくれた巫女である。ここで失敗すると、エリザだけではなく、最高神官まで笑いものになってしまうのだから。

 明日ですべてが終ってしまう。

 そう思うと寂しいくらいだった。

 これほど、充実した数日間を過ごしたのは、巫女になって初めてである。それに、最高神官と長い時間を一緒にすごせたのも。


 ――おそらく一生、今夜のことを忘れない……。

 心の中に深く、幸せな思い出として刻まれてゆく。


 あまりにも美しい最高神官の姿。その手のぬくもり……そして、不思議な一体感。結ばれた感じ。

 結ばれた……。

 急に頭に血が上って飛び起きた。

 ドキドキした。爆発しそうに顔が熱い。

 抱かれた夜のことを、実に鮮明に思い出してしまったのだ。


 ――触れがたいほどに神々しいあの方と、私って……。


 想像するだけで、体の奥が熱を帯ってくる。

「きゃっ!」

 悲鳴を上げて布団をかぶってしまった。

 このようなところを、もしもフィニエルに見られたら、妄想癖だと笑われてしまうだろう。

 ……笑われてもいいのだ。

 今の自分を支えているすべてが、あの方に繋がっているのだから。

 エリザはそっと布団から顔をだした。

 もちろん、ここには誰もいない。湿った布の冷たさが、熱った頬をさましてくれて気持ちがいい。

 このような寂しく湿った祈り所に寝泊りしようとも、あの方とすべてを分かち合っていると思えば、幸せに思える。

 今夜が百年続いたとしても、全然平気。千年続いても、きっと平気。

「サリサ様……」

 そっと名前を唱えて横になると、心地よい眠りが訪れた。

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