エピローグ
後日。グラーシアとルーガンが、キリシャの住まいに訪れていた。
「ルル、また少し大きくなった?」
「はいお父様! キリシャのおかげで!」
「うむ、シャロルは事の後片付けに追われてしばらく顔を出せないがこの調子であればそう遠くないうちに帰れるだろうな」
ルルは以前と同じ人の姿をとるには、まだ魔力が足りなかった。だから本当の住まいである王城にはまだ帰ることができない。その間は、グラーシアが教育係としてキリシャの家に飛んで通いつつ、治療を行っているのだった。
シャロルとルーガンだが、竜族の言葉に「可愛い子には旅をさせろ」という言葉がある。二人とも、ルルのことが可愛くてしょうがなく、一人で何度も外に出かけるのを許していた。
そして、ルーガンばかりがこちらに訪れているのには、二人の間で壮絶なバトルがあったのだが、それはもう過去のこと。
「仕事を押し付けられたシャロル様が不憫です」
「シャロルには悪いことをしたと思っている」
ルーガンは満足げに頷いた。
「キリシャよ。裁判に提出する奴らの悪業の一部を記した資料、譲ってくれてことを感謝する」
「いや、私も一時期はその研究の内にいた。それを見逃してくれたこと、こちらこそ感謝する」
「なにを。奴らは竜族に手を出したこと、人を違法に改造しようとしたことこそが罪なのだ。貴殿は人を突然変異から元に戻そうという研究を行っていたのだろう?」
キリシャは少年期から青年期にかけて、人の世で暮らしていた。周りから浮き出てしまうほどの能力、それに目をつけらグロリエスたちが、一緒に研究を行おうという名目のもと、彼を引き込んでいた。
……そこでキリシャはルーガンの言う通り普通の人に戻る研究を進めていたのだが、一時だが仲間だと思っていた職員たちの差別の目に当てられ、人間が嫌いになったのであった。
そしてキリシャは幼い頃にみたルーガンの姿ーー白銀の竜を思い出し、憧れ、空により近いこの場所での研究を新たに始めたのであった。
キリシャは自分の過去を振り返りつつ、頷く。
「さらに余は貴殿に褒美を取らせようとも考えておる。何でも言うがよい」
「……そうだな。この家を、もう少し大きくしたい」
「「「「え?」」」」
リーフたちは、キリシャが鱗をくれとかなんとか言うと思っていた。竜になる研究を進めるために。
「竜は、もういい。竜にならなくても、今の生活は十分楽しいからな」
キリシャが振り返ると、そこにはリーフ、ルル、アイーシャ、クロエが。
「私はもう、このまま楽しく生きられたら、それでとても満足だ」
「わかった。早めにそのようにさせよう。だがルルよ、余はルルがどうしたいかは聞かない。もうわかっているからな。だが、シャロルにも余にも、ちゃんと顔をだすのだぞ?」
「うん! もちろん!」
ずいぶん幼い姿で人型を取っているルルは、元気に声を上げた。
立場があり、色々と解決しなくてはならないこともあるのだが、ルルのこれからが彼女の中で決まる。
話は済まされた。これからもキリシャはここに住む。みんなと一緒に。それがキリシャたちにとって、一番なのだ。
「……と、言うわけだ。これからもよろしくな、四人とも!」
キリシャは振り返る。
その時のキリシャの顔は、四人にとって忘れられないものとなった。これからずっと、記憶のメモリに保存しておくのだ。
「あっ! 今のキリシャさん、可愛かったです!」
「うん、それボクも思った!」
「私も!」
「今のキリシャさんの模写が欲しいです!」
「な、なんだそれは!」
照れるキリシャも、また初めてのものかもしれなかった。
太陽に近い空の下、キリシャたちを含む、みんなが笑った。
それから、キリシャの館でみんな幸せに過ごした。
中には「告白騒動」や「ルル姫の居住騒動」があったりもしたのだが、またそれは別のお話。
白銀の竜と竜の医者 九里 睦 @mutumi5211R
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます