第6話 動揺
情報交換を終えた後、
「
麟太郎が手を上げて呼びかけると、月子さんは直ぐに二人の席へとやってきた。
「俺は特製オムライスで」
麟太郎は慣れた様子でお馴染みのメニューを注文した。オムライスは麟太郎の大好物だ。
「じゃあ、俺はナポリタンを」
これもやはりお馴染みのメニューであり、涼は喫茶店で食事を取る時は大概ナポリタンを注文している。
「はい、少し待っててね」
笑顔で注文を取り終えると、月子さんは再びキッチンの方へと戻って調理を始めた。食欲をそそるような、フライパンを火にかける音が席の方まで届いてくる。
「麟太郎、今何時だ?」
店の時計は涼の背中側にあり死角のため、正面の麟太郎に尋ねた。
「一時を少し過ぎたところ」
「じゃあ学校は昼休みだな。一回、
「そうだな、少しでも早く情報が欲しい」
麟太郎が言い終える前には、すでに涼はスマートフォンの操作を開始していた。
「月子さん、ちょっと電話するね」
「はーい」
店側に確認も取ったところで心置きなく電話が出来る。
涼が栞奈宛てに電話を発信すると、五回目のコールで通話が繋がった。
『もしもし、涼くん?』
「おう、突然悪いな」
『昼食も終わったところだから大丈夫だよ。何かあった?』
「
『もちろんだよ、それで聞きたいことってのは何かな?』
「
『……暗黒写真』
そのワードを聞いた瞬間、栞奈の声のトーンがあからさまに下がった。まるで悪い予感が当たったかのように。
『雫ちゃんが消えたのは暗黒写真のせいなの?』
「それは俺には分からない。だけど、雫に呪いをかけたがってた輩が少なからず存在したって話もあるし、雫が不自然な形で消えているのは紛れもない事実だ」
『そんな、またこんなことが……嘘』
「おい、どうした栞奈」
電話越しの栞奈が激しく動揺していることを感じ取り、涼は不安気に栞奈の名を呼んだ。スマートフォンを握る手にも自然と力が籠る。
口を挟むことこそしなかったが、麟太郎もこれまで会話と涼の表情の変化から不穏な気配を感じ取ったらしい。思案顔で成り行きを見守っている。
『……ごめん、ちょっと昔のことを思い出しちゃって』
「大丈夫か?」
『うん、もう平気』
そう返した栞奈の声色は、普段通りものへと戻っていた。
動揺した声を聞いた直後なこともあり話を進めるべきかどうか一瞬迷うが、雫に関する情報を得ることが最も重要だと判断し、そのまま会話を続けることにした。
「それで、暗黒写真のことなんだけど、詳しい内容については分かるか?」
『うん、噂されてる暗黒写真に関する事なら全部分かるよ。でも、ちょっと電話越しじゃ説明が難しいかも』
「じゃあさ、後で合流できないか? できれば今日中には話を聞きたい」
『今日は委員会とかも無いから、5時過ぎくらいには合流できるよ。何処に行けばいい?』
「今、目の前に麟太郎も居るからちょっと相談する。電話はそのままでちょっと待っててくれ」
『分かった』
一旦涼は耳元からスマートフォンを離し、麟太郎へと視線を戻す。
「5時過ぎくらいに合流できるって言ってるけど、何処にする?」
「無難にお前の家でいいんじゃないか? 学校にも栞奈の家にも近いから、集まるには好都合だろ」
「そうだな」
意見がまとまったところで、涼は再びスマートフォンを耳へと当てた。
「栞奈、集合場所は俺の家だ」
『涼くん家か、丁度良いや。じゃあさ、用意しておいてもらいたい物があるんだけど」
「何でも言ってくれ、お菓子か、ジュースか?」
『いや、何で飲食物限定? まあ、それも大事は大事だけど。私が用意してもらいたいのは写真だよ、写真。アルバムとか何でもいいから、涼くんや雫ちゃんの写る写真を用意しておいて、出来れば何人かで写ってるやつ』
「それは構わないけど、何でまた?」
『暗黒写真って言うくらいだから写真に
「分かった、用意しておくよ」
『それじゃあ学校が終わり次第、直ぐに涼君の家に行くから、またその時に』
「ああ、昼休み中に悪かったな。また後で」
『ばいばい』
栞奈がそう言い終えたところで通話は終了。涼は使用を終えたスマートフォンをズボンのポケットへと突っ込む。
「とりあえず、暗黒写真とやらに関してはこれで少しは分かりそうだな」
涼はホッと息を撫で下ろしたが、麟太郎は小難しい表情を解こうとはしない。
「栞奈、どうかしたのか? お前途中で栞奈に『おい、どうした』って言ってただろ」
「俺にもよく分からないけど、雫の失踪と暗黒写真の都市伝説が関係しているかもしれないって分かった途端に動揺して、『またこんなことが』とか何とか」
「栞奈の奴『また』って言ったのか?」
「ああ」
「そのままの意味に受け取るなら、前にも同じようなことがあったということになるな」
「けど、暗黒写真とやらで前にも人が消えてるならもう少し騒がれててもいいよな? そもそも、暗黒写真の噂が広まり始めたのは最近って話だし」
涼の意見も一理あると思い麟太郎は顎に手を当て考え込む。顔を上げぬまま、思い付きをそのまま呟いた。
「……
「都市伝説で消えるか……」
真偽の程はともかくとして、人が消えるといった内容の都市伝説は確かに多いように涼は思った。いや、都市伝説に限った話ではない。怪談や民話、それこそ神隠しといった具合に、古くから人が突然消えるという話は常に存在し続けている。何らかの比喩や、単なる事件や事故の場合も多いのだろうが、もしかしたらその中には本物が混じっていることもあるのかもしれない。
「おまちどうさま、ナポリタンと特製オムライスです」
電話が終了し一段落着いたタイミングを見計らって、月子さんが注文した料理を運んできた。
小難しい顔で話し合っていた涼と麟太郎も空腹には勝てず、湯気を立てる美味しそうな料理を見た瞬間、まるで示し合わせたかのようなタイミングで腹の虫が鳴った。
「ふふふ、よっぽどお腹が空いてたのね。腹が減っては戦は出来ないって言うし、いっぱい食べていってね」
月子さんの言葉に二人は笑顔で頷き、それぞれフォークとスプーンを片手に、勢いよく昼食を頬張り始めた。
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