特任魔法研究生(4)

 レッドベース先輩の指す研究発表とは正式名称「魔法研究会議」内の話だ。魔法研究士と一部の魔法研究生が集まって月一度開催される会議では、準備の整った研究班が成果を発表する。私は初出席となる魔法暦88年11月に、魔法弾を連結して撃ち出す仕組みを披露した。


 実演場所には首都コア西側郊外の草原を選んだ。影の子を撃退したときと同様、放出の手袋を右手、吸収の手袋を左手にはめて互いの手のひらが重なるように指をからめる。魔法力の移動を判断したのち、右腕を伸ばして水平に手をかざし、蓄積した魔法弾を一挙に……、1本の太い光の束、収斂しゅうれんした一筋の「光条こうじょう」として放った。


 火傷やけどを防ぐ目的で無属性の魔法弾を用いたため、影の子と戦ったときと比べて攻撃力は皆無だ。けれど、輝きは見事な光の群れを成して緑の平野をどこまでも貫いていった。全魔法力を使い切った私は足元をふらつかせたが、惜しみない拍手と賛辞で迎えられた。当時の様子を思い起こしながら2人へ説明する。


「魔法弾をへ連続して放つには1分間のが必要です。しかし、体内だけなら制約なしに魔法弾を発生させることが可能です。右手から発射するはずの魔法弾は密着させた左手から吸収すると、身体を通って再び右腕に移動します。長時間とどめ置くことはできませんが、わずかな間に一箇所へ集中させたのち、『連結』させて同時に撃ち出すことができます。想定した通りの結果を得られたので発表後、研究を次の段階へ移行しました」


「そして先月に大掛かりな魔法を発表したわけだな」


 説明を催促された新年1月の発表では、魔法弾の光条を複数名の魔法士が連携して放つという前代未聞の離れ技を披露した。


 魔法研究生が右手で隣の研究生の左手を握り、魔法弾放出の刻印と吸収の刻印をお互い重ね合わせて横一列に10人が並ぶというものだ。右端にいる私だけがほかの者が持つ無属性放出の刻印と異なり、火属性の刻印が施された手袋を身につけていた。


 光景は鮮明に覚えている……。横一列に並んだ左端にいる魔法士の右手に描かれた刻印が白く光り、重なりあった隣の魔法士の左手が輝き始めた。同時に右手からは新たな光があふれ出す。もうひとつ隣の魔法士の左手からも刻印が光を放ち、連鎖するように魔法士たちの刻印は左手から右手へ次々と光をまとった。


 最後に右端に立つ私が右腕を上げた。魔法具の刻印は強烈な真紅の光を輝かせて、手のひらから巨大な炎を噴き出した。一筋の帯となった炎は長く尾を引きながら草原のはるか遠くまで貫通した。直後に響く轟音は影の子を一蹴した記憶を呼び起こさせた。


 魔法士の教官や魔法研究生たちは絶大な破壊力に唖然とした表情を向けていた。


「……個人が魔法弾を右腕に連結させる原理を用いて、集団からひとりへ魔法弾を集約できるのではないかと考えました。魔法弾を右手から密着した左手へ移動させた作業を個人ではなく複数人で実行します。魔法士各人からひとつずつ魔法弾を集め、が蓄積した魔法弾を放ちます。実験は成功しました」


 個人から複数人へ魔法を使役する範囲を広げたことで得たメリットはふたつ。ひとり1個の魔法弾消費で強大な魔法を放てるようになったこと。そして……


「最初は手探りでしたが、魔法弾を発射する1名が火属性の魔法具を身につけていれば、途中で魔法弾を集める人間は無属性の魔法具で十分だという点を発見しました。火属性の魔法弾を使って吸収と放出を繰り返した場合、魔法士の腕は炎で甚大な被害を受けてしまいます。火傷の危険を回避し、無属性の魔法弾を集約して最後に火属性の魔法弾として放つことが可能です」


 個人では無事に済まなかった炎の連結魔法弾において、途中のやりとりを無属性の魔法弾に変えることで危険性の問題が解決した。実戦へ投入できる段階まで、ようやく進化させることができた。


 一点だけ複雑な過程が必要となる。魔法弾を準備する集団は共通した炎のイメージを頭に思い浮かべ、集中力を研ぎ澄まさなければならない。けれど、実用化の条件としては些細な話だろう。

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