第Q環
たけし、
たけし「改めまして、栞ちゃん、この間は美味しいご飯をありがとうね」
栞「いえ、本当に手の込んだ物は何も……」
香里「でも栞、いつからそんなに料理ができるようになったの?家にいた頃は家事なんてなんにもしなかったのにね」
栞「海外に住んでる人の大半がそうだと思うんだけど、あっちに行くとね、無性に日本食が恋しくなるの。かといって貧しい留学生に毎日高級なジャパニーズ・レストランに通うようなお金なんてないでしょ?」
香里「だったら自分で作っちゃえと?」
栞「そういう事。結構、周りのみんなにも評判良くて、その気になって勉強したの」
香里「今はどうなの?仕事が忙しくって料理どころじゃないんじゃない?」
栞「そう全然。(たけしの方を見る)……だから久しぶりに作ったからあんまり自信がなかったんですよ、お義兄さん」
たけし「いやいや、本当に美味しかったよ。嘘じゃなく。栞ちゃん、きっといいお嫁さんになれるよ、ねえ」
香里「そうね、私に似てとっても美人だし頭もいいし、その上料理だって上手ときたら。……あなた、私の留守の間にこんな可愛い子家に連れ込んで二人きりになって、手なんか出してないでしょうね?」
たけし「ハハハ、そんな事あるわけないよ。ねえ、栞ちゃん……え、ちょっと栞ちゃん?え、何でそんな顔赤くなってるの?」
(玄関のチャイムが鳴る)
たけし「あ、ああ、うん、ぼ、僕が行ってくるよ」
栞「もう、あんな事言って……。お義兄さん、困ってたじゃない」
香里「その困り顔が可愛いんじゃない」
栞「お義兄さんも大変そうね……」
香里「だけど、栞、あんた彼の事ちょっと好きでしょ?」
栞「な……なにを。そんな訳ないでしょ」
香里「ふふふ、姉貴の勘ってやつよ。でも大丈夫、別に怒ったりしないから。だって私もノロマで優しいカメさんが大好きなんだもの。栞が彼を好きになっちゃう気持ちはすごくわかるかな。……だからといって絶対に渡さないわよ。申し訳ないけど、あんたは別のカメさんを見つけなさい。金髪で鼻の高いアメリカのカメさんなんて素敵だと思うなぁ」
栞「もう……」
香里「そうそう、アメリカと言えばさ」
栞「よく喋るね。酔ってるの?」
香里「いいじゃない酔ってたって。それよりもさ、アメリカの方ではどう、猫刑事の噂?」
栞「ネコ……何?」
香里「ネ・コ・ケ・イ・ジ、猫刑事よ。知らない?」
栞「猫のお巡りさん?こっちではそんな新しい童謡が流行ってるの?」
香里「……そっか、さすがの猫刑事も全米進出の夢は未だ果たせず、か」
たけし「……」
香里「どうしたの、青い顔して?その紙切れは何?」
たけし「あのさ、隣の○○○号室の『田中』っていう人の事知ってる?」
香里「隣?ああ、新しい人が入ったの?」
たけし「いや、半年以上も前からいたと思うんだけど……ほら、表札のプレートが掛かってたろ?今見たらなくなってたんだけどさ」
香里「半年?それ、何か勘違いしてるんじゃない?毎日その部屋の前通ってたけど表札なんて見た事ないわ。見落とすなんて事はないと思う」
たけし「思う?」
香里「見落とすことはない」
たけし「……」
栞「私も表札は掛かってなかったと思いますよ。ほら、この部屋に辿り着くのにいちいち表札を確認しながら探さないといけませんでしたから。……お姉ちゃん、エアメールの住所に部屋の番号書いてなかったでしょ?」
香里「あれ、そうだったっけ?」
栞「あの……お義兄さん、大丈夫ですか?」
(たけしは何やら文字の書きこまれた小さな紙片をじっと見つめる)
(甘いような酸っぱいような何とも形容し難い、それでいて人を気怠く酔わせるような妖しげな芳香が部屋中を満たしている。しかし、誰一人として気づいてはいない)
たけし「……まだ、終わってないってことなのかな?」
さあ、どうでしょうか?
猫刑事~ 秋の日のルナティクス ~ @YAMAYO
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