第5.5話 魔王城の日常

魔王城


ーーー玉座の間よりーーー


「ここ数日で我のレベル800くらい上がってないか?」

魔王様は玉座に座りながら、玉座の隣に立つ女へ問うた。


「えぇ。現在のクログファルグ様のレベルは3600となっております。あのクソ神がまた向こうの世界から人材を送り込んできたのでしょう」

彼女はミフェルド・ルシファー。

黒と白の天使の羽を持つ堕天使だ。

魔王の妻の秘書を務めており、現在魔王を閉じ込めておく牢屋となりつつある玉座の間に、近況報告のため出向いていた。


「なぁ。神はアホなのか?3600なんて歩くだけで地鳴りが起こるレベルだよ?もうこれ以上レベル上げられたら我、城の中すら歩けなくなるじゃん」


「ええ、ですのでここ最近では魔王軍の資金を城を頑丈にするために回しておりまして、ただ流石にこのペースでレベルを上げられると資金不足といいますか。ええと、もはや生物として生きていくのに支障が出るかと」

魔王のレベルは普通とは違う。

通常のレベルアップに加え、転生や転移により神が送り込んできた生物1に対して100レベルが上がるというスキルを習得している。

これはクラス【魔王】の専用スキルであり、世界の均衡を保つため、古来より魔王が現れる度に引き継がれてきたスキルであった。


だが此度は、この世界の担当になった神が無能すぎるため、そのレベリングが桁外れな数になっていた。


本来歴史書を辿るのならば8英雄+勇者(転生者)vs魔王の戦いで魔王を倒せるや、エルフ、天使、人、転生者の4人で倒せるレベルが平均であり、今回もそのはずだったのだ。


12英雄(内1人が転生者)vsレベル700台の魔王となり、互角の勝負ができるはずだったのだ。


だがその時の我は。


「以前来た英雄達も驚いていた。我のレベルが2500だと確認してな。当たり前だ!そもそもだ!古今東西、魔王と英雄との戦いはある程度の力の拮抗の末どちらかが勝つもの!あれ程余裕に倒せては我とて悲しいわ!」


「クログ様。叫ばれると城の電灯や蝋燭、壁や下位魔族から中位魔族はタダでは済まないのでご控えください」

ここ最近ではトイレに行くだけでトイレが吹き飛んだり、糞が地下まで床を貫通したり、尿が洪水になりかけたり、寝ぼけて寝返りを打つと風圧で壁が吹き飛んだりと。

ただただ厄介者扱いだ。

そのせいで妻からも別居を言い渡され、妻はここにはいない。


「あ、ああ。。。はぁ。そもそもだよ。魔王と英雄の戦い時に魔族全員が城の補強に魔法、スキルを使うなんてダサすぎる。ありえんだろ!」

そうなのだ。以前の英雄戦において、我が同胞達は皆、全力で白を補強していたのだ。


英雄では無く、魔王であるこの私が潰さぬように。


「あれは仕方ありません。クログ様の魔法、スキル、ただのパンチだけで城は崩壊します。補強しているとはいえ、それはあくまでクログ様が日常生活を送れるレベルというだけで戦闘となればもはや城なんて蟻と同然でしょう」


「ハァそうなってしまうのよな」

クログは手にしたワインを口にした。


「それで転生者狩りはどうなっておる?」

ということで、妻に帰ってきてもらうためにも歴史に名を残す魔王戦になるためにもまずはレベルを100ずつコツコツと減らすために転生者を倒す事にしたのだ。


「それがですね。あのアホな神は転生者に神クラスの能力を付与して送り込んでいるらしいのです。敗走した魔族の連中が言っておりました。八堕天使の一翼、アルトがやられました。現在アルトは転生者と共に冒険をしているとの報告を受けました。いかが致しましょう」


「アァン?我言ったよね?転生者嫌いなんだよ。それの味方に?よし我直々に」


「なりません。魔王様が外に出るだけで天災です。魔王城付近で天災なんて起きたら困ります。四季しきに所属する春を向かわせますのでどうか魔王様はここでじっとしていてください」

四季とは魔王軍の中でも強者揃いのチームだ。春、夏、秋、冬の4体のチームである。


「ぬぅ。では転移で飛んでいく」


「なりません!!次元移動など、もってのほか!魔王城ごと、どことも知れぬ時空に飛ばされてしまいます!」


「のぉ、我って迷惑?」


「えぇ、迷惑です!あの頃の可愛かった魔王様は何処へやら、レベル740の時の魔王様は「このレベルなら英雄にも引けを取らぬだろ!楽しみだ!」なんておっしゃっていた頃の甘ちゃんな魔王様の方が幾分マシですよ」


「甘ちゃんて。よしわかった!即始末しろ!クソみたいな神と転生者全員だ!」


「神は無理ですよ。私達、弱点属性突かれまくりですよ。そうですねあの英雄さん達が神殺しを企ててくれたりするといいのですが」


「英雄なぁ。うん?つーか。それさ、我が行けばよくね?レベル3600だよ?神様に弱点突かれたからって負けると思う?」


「あ。。。」

「え。。。」


「移動ができません!では仕事に戻ります」


「みーちゃんさー今絶対気づいたよね?多少の犠牲は出してもあの無能神先に始末した方が絶対いいって!」

クログファルグは玉座の間より出て行こうとする女魔族へ言葉を投げかけた。


「みーちゃんではありません!ミフェルド・ルシファーです!それと!先程も言いましたが多少の犠牲は魔王様以外の魔王城付近にいる魔族の死です!」


「あ、そうなのね。ハァ。誰か早くあの無能を始末してくれよ」


【 おめでとうございます。クログファルグのレベルが3700になりました】

という文字が目の前に現れた。


「オンドリャァアアアアアアア」


魔王城の壁が吹き飛んだ。

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異世界転生者と戦う者 吉野 龍馬 @yoshino0044

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