第5話 新団員は転生者!?



ギルドの1階はギルドスペースとしている。

クエスト版やテーブルや受付があり、いつでもクエスが受けられるようになっている。

しかし受付嬢はおらず、クエスト版には放置された大量の紙が張り巡らされている。


ギルドは、30日に1度報告会にて、規定数のクエスト報告をしなければ、ギルドの存続はできない。

そのため基本は街にあるギルドは、一つであることが多い。

この街では2つギルドがあり、鉄の掟は潰れかけのギルドなのだ。


ギルド版に貼られている紙はクエスト用紙である。

30日中に最低でも20個のクエストをこなさなければならないが、ルチカと俺とエギレドで話し合って今月で鉄の掟を潰すことになっていたので、全て未達成である。


だから持ってこの状況が意味がわからない。


丸テーブルを囲むのは、俺、右隣にエギレド、左隣にルチカ。

そしてルチカの隣が風林火山の女、その隣が知らない女。そしてその隣エギレドの隣に座るのが、エギレド曰く風使いの転生者リュウヤだそうだ。


「どういうことだ?」

俺はルチカに尋ねたのだが答えたのは別の人物だった。

「お初にお目にかかります。サクヤさん。僕はリュウヤと言います。ルチカさんの作品を読んでからここのギルドに入りたいと思い即行動をしました」

リュウヤが笑顔で答えた。

「ぬぁ?待て待てルチカの作品のリュウヤと全然違うじゃねーか」

「ええ。ルチカさんになんか雑魚っぽさを出して書くわねと言われたので、その影響かと」

「はいはい。お黙りなさいな。三人はギルド、アイアンメイツへの入団希望ってことでいいかしら?」

そこでルチカが手を叩き話を切って、新たに話を切り出した。


「私はミューヤといいますわ。よろしくお願いします」

金髪碧眼の女の子がそう言ってきたのだが、この子は作品の中でリュウヤと一緒に行動していた子だ。

この子は作品通りの印象だ。

「ミューヤは僕の仲間です。よろしくお願いします」


それを聞いていた風林火山の女が、手を挙げ発言した。

「入団希望です!私の名前は新子しんこといいます。シンコと呼んでください」

そう言って風林火山の女は頭を下げた。

まあこの子はさっき顔合わせたし、タイミングが悪かったけど。

「ちなみにですが、サクヤさんは異世界転生者がお嫌いなのですよね?」

突然シンコに言われたが、まあ嫌いって言えば嫌いだが、俺が嫌いなのは、腐った性格しているやつで普通にそういう奴はこの世界にもいるしな。

後はクソ神から能力貰って偉そうにしている奴か。

「あ?ああ、ルチカから聞いたのか?まあそこまで嫌いというわけでは無いが。何でだ?」

「そうですか!では良かった。私は転移組ですので、大丈夫ですね」

シンコはパァッと笑顔でそんなことを言って来た。転移組?転生者の事か?何言ってるのこいつ?意味がわからない。


「あ?転移?転生?えーと?エギレドどういうことだ?」

わけがわからなくなりエギレドへ問いただした。

「まあ、そうだな。転生と転移ってのは生きてこちらへ来るか、向こうで一度死んでからこちらへ来るの違いじゃ無いのか?」

エギレドもしっかりと理解している訳では無いようで、ハッキリとは言わなかった。


「うん?つまりシンコも?」

「ああ、お前さんの嫌いな向こうの世界の人物だな」

「はえ〜すごいなぁ。向こうの世界の人なんてそういるもんじゃ無いと思っていたが、こうもあっさり出会えるものかね。まあいいや実力みたいし一回戦っておくか?」

ズゴっとルチカとエギレドに頭を殴られた。


「何しやがる!」

「それはこっちの台詞よ。サクヤが嫌なのは自由奔放に何でもやる転生者達でしょ?この子は普通に居酒屋で仕事していて、生活しているそうよ?

それで税金やらが払っていけなくなって泣く泣く冒険者になるって決めたそうなの」

ルチカはそう言ってシンコの頭を撫でた。お姉さんぶってやがる。


「本当ですよ。無理やり連れてこられて迷惑だって話ですよ。セクハラ酷いし、冒険者ってマナーなってないし、訴える場所が無いし、本当に、この世界大丈夫なんですか!?」

バンと机を叩いて文句を言われた。

「は?違う!俺はただ実力のほどが試したくてだな。ルチカは最近お前の物語の中の俺と、現実の俺を差別化できてないだろ。俺はそこまで異世界転生者殺すなんて言ってないぞ」


「あら、そうでしたか。てっきりあの物語のような人物かと。あ、ではあのアホな神様はどうなんですか?必死に生きてるんですか?なんか本読みながらお菓子食べて、片手間に私、こっちの世界に飛ばされたんですけど」



「・・・・・・。よし神様を先に仕留めた方がいいかもな。この世界に害悪でしかない」

今度はルチカもエギレドも止めはしなかった。

そう、こちらの世界のある程度上位の冒険者はこの世界の神様に恨みを持っている奴らが大半なのだ。


「え!?神様そんなに嫌われてるんですか?」

「当たり前だろ。あのクソ神が。寝返りで洪水にされたり、目に何か入ったっていう理由から暴れまわって大災害起こしたり、なんかゲームというやつで、ルート選択ミスったからって時間戻されたり、あれはもはやこの世界の癌だ」


「ぅえ.....」

「マジ......すか」

二人はドン引きしていた。

「ああ。残念ながら、その辺は魔王の方がマシだから、俺らの中で真の魔王はあの神様なんじゃないかって話になっている」


「というか時間戻されたりって何故わかったんですか?」

「うーん。まあ同じギルドに入るなら教えてやるか。出てきてくれ」

サクヤがそういうと空間が歪みひとりの青年が出てきた。

青年は蒼色の瞳に、スーツを着ており、どこか恐怖を感じるオーラを放っていた。


「初めまして、ギルド【鉄の掟】へようこそ。私は世界統括5柱神が1柱、ヴィジュである。我々は神を統括する神である。この世界の神が何かを起こしたり、やらかしたりする危機をこの世界の最上位ギルドに伝えるのが役目なのです。

神が神に手を下すことはできないルール故に、なんとかして彼等にあのクソ神を倒してもらえないか頼んでいるのです」

青年はハァとため息を漏らしながら、申し訳ないと頭を下げた。


「ええと、この世界は魔王というラスボスと神という裏ボスがいるというわけですね?」

シンコはうえぇと言いながら確認を取った。


「ああ、そうなる。それもヴィジュ曰く、神がこっちの世界に転生者送る度に、魔王のレベルが100上がるシステムらしい。まあその辺は世界の均衡?というやつがあるようで、こちらが異端の力を使うと、それに合わせて向こう側も強くなる仕組みになっているらしい」

「ええと、私とリュウヤ君だけで魔王は200レベルになると?」

リュウヤはそれを聞いて、なんと!と驚いていた。

「ご名答。クソ神はそんなことも知らずにガンガンガンガン送りつけてきやがる。転生者がこちらの世界で死ぬと魔王のレベルは100下がるらしいから、まあな。。。魔王討伐もなやりようはな?」

フフフとサクヤは口を歪めた。


「えっと......やらないですよね?」

シンコは不安そうに聞いて来たが俺は笑ってごまかした。

「コラ!やらないよ。私らは人殺しはやりたく無いから、今でもレベル上げしてるんだから」

再びルチカに頭を叩かれた。

ルチカの拳は波動を纏っていない状態とはいえ、痛いものは痛い。


「つまり、転生者ってやつらはさ、1人で魔王のレベル100分位は、削って貰わないといけないわけよ?それを俺は魔王と戦うなんて無理と言って引きこもったり、強い冒険者を倒して強盗を働いたり、奴隷を買って性を満たされても困る訳よ。だからそんなことするなら俺は容赦無く殺す......かもね?」


「!?」

「!?」


サクヤの殺気にリュウヤとシンコは恐怖した。


ボコンボコン


とエギレドとルチカから殴られた。


「ッテェ!冗談じゃん!それにもしもの時はそうしないといけないだろ?戦わないなら、そんな奴いらねーよ。殺した方がいい」

「この子達には言わなくていいことよ」


「い、いえ、わかりました。場合によっては殺人もあるということですね」

シンコはそう言って理解を見せたが、本心は違うのだと俺でもわかった。

「ああ。まあお前らに殺せとは頼まない。だがこれだけは気をつけてくれ、平気で強盗したり、強姦したりするやつらがこの世界に来ていることを」


「わ、わかりました」


「うんうん。いい感じに話し合いもできたし、この辺で入団辞めるって言われたら、ちょっと記憶を弄らないといけないところだったから、助かるわ。じゃヴィジュありがとね」

ルチカはそう言ってヴィジュに手を振った。

「いえいえ、念には念をですからね。では失礼します」

そう言ってヴィジュは消えた。



「じゃとりあえず、入団手続きするか。ギルドに入ると各団員に階級が振られるんだ。下からF、E、D、C、B、Aのランクで分けられていて、Aを超えるとオリジナルの称号に変わる。俺だったら【 国を追われた英雄 】になっている。エギレド、ルチカも同じだ。元々は英雄だったのだが、追放されたことによりこうなった。今お前らが入ると本来はFからだが実力的にCくらいにはなるんじゃないか?とりあえずこれに手をかざしてくれ」


俺は机の上に手形に掘られた木の板を置いた。

これはギルドとして国が認めると、配布されるステータス版と呼ばれるもので、各ステータスが細かく紙に書かれてプリントアウトされる。


異世界の奴らがこれを見てプリントアウトなんて名付けた為、この行為がプリントアウトという名称として確定した。

それまで、【紙出し】とか【ステータス紙出し】なんて話していた連中が全員プリントアウトしてくるわ〜と変わっていった。

まあその方がかっこいいしね。


「それでは、僕からやりますね」

そう言ってリュウヤが版に触れると緑色に輝き一枚の紙が出て来た。

緑色の光はランクがDであることの証明である。

ランク毎に色が変化し、サクヤのようなオリジナルの場合は虹色に光る。


ーーーーーー


【名】リュウヤ

【ランク】D

【クラス】狩生

狩生レベル45

冒険者レベル105(習得済み)


【クラス補正スキル】

的中率上昇(狩)

遠距離範囲拡大(狩)

LVアップ時ステータス上昇割合UP(冒引き継ぎ)



【スキル】

風神(オリジナル)

狙撃


ーーーーーー


「クラスDって......」

リュウヤが自分の紙を見ながら呟いていたのでサクヤは横からリュウヤの紙を確認した。


「Dね。まあこっち来て1ヶ月くらいでそれなら強いんじゃね?」

「Cくらいは欲しかったですね。これから頑張って上げていきます」

「なんかあの物語と違うからすごく違和感があるよ。まあアドバイスだが、レベル100超えたらクラスは変えた方がいいぞ」


「どういう事でしょうか」

「クラス毎にレベルを上げるメリットは50毎にもらえるボーナススキル。これは別のクラスになっても引き継ぐことができるスキルだ。

お前の場合は、冒険者の時の[レベル向上]を引き継いでいる。冒険者は105レベルだから、実際はもう一つ引き継げる。

101以降はレベル1毎に必要な経験値量が上がるから、引き継ぎたいスキルがないならやらない方が良い。

ちなみにスキルは一度覚えたら別のクラスでも使えるものもあるが、クラス相性が悪いと上手く発動しなかったりもする」


サクヤの解説にルチカとエギレドは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「意外ね。丁寧に説明して上げるのね」

「ですな、レベル上昇の仕組みやスキルのことや効率を教えるとは思っていなかったな」

「ハァ。仲間になるなら教えるさ。それに鉄の掟の看板背負うなら、ランクDなんて笑えないだろ」


「笑えない......ですよねぇ〜ううう。ランクDで申し訳ない」

リュウヤもめんどくせぇな!おい。元は鉄の掟はA以上の冒険者しか受け付けてなかったからその辺は仕方ないって思ってくれ。


「はいはい。わかったからんじゃ次、風林火山次やってくれ」

俺はステータス版をシンコに渡した。

「風林火山じゃないくてシンコですよ!じゃ失礼して」

シンコ少し怒りながら、版に触れると青く光った。


「ランクBか」

エギレドが囁いた。

青色の光はランクBということである。


ーーーーーー


【名】シンコ

【ランク】B

【クラス】騎士

冒険者レベル100

武士レベル100

盾兵レベル100

突撃兵レベル100

将軍レベル100

騎士レベル32


【クラス補正スキル】

護衛時防御力上昇(騎)

ヘイト吸収(騎)

LVアップ時のステータス上昇割合UP(冒引)

防御力向上(武引)

斬撃威力向上(武引き)

防御力向上(盾引)

移動速度上昇(盾引)

突進時の速度上昇(突引)

突進時の貫通力上昇(突引)

軍配(将引)

士気向上(将引)


【スキル】

一刀両断

武士の情け

切腹

守護の陣

危機管理

刹那の一撃

風林火山陰雷(オリジナル)

反射

不屈など


ーーーーーー


「はぇぇーすごいな。よくここまで、武道に富んだクラスを選び抜いたものだ」

俺の正直な感想だった。ここまで戦向きに組み合わせるのは、すごく考えなくてはならないからだ。


「私は向こうの世界で、剣道やってたんですよ。だから、似たようなクラスになる方法は、居酒屋で酔っ払ってる連中から聞いたりしました」

おぉ。酔っ払ってクラスになる方法を教えるなんてアホなのだろうか。

クラスになる方法は情報だけで金になるというのに。

「私は盾役でも指揮官でも殿しんがりでも歩兵でもやれますので任せてくださいね」

シンコは自信満々にそう言った。


「それじゃ最後はミューヤだけど、お前は転生者ではないんだよな?」

「ええ、そうですわ」

「なら、こいつらみたいにランクは高くないだろうが、気にするなよ。少しずつ頑張っていけばいい」


「うわぁナンパかな?優しい言葉で落とそうというのかな?」

ルチカがからかうように言ってきた。

「こんな小さな子を相手にする趣味はない。ランクが自分だけ低くて傷つかないためだ」


「大丈夫ですわ!頑張りますので」

そう言ってミューヤは板に手をかざした。


白色の光。Fランクだ。


ーーーーーー


【名】ミューヤ・トレブル

【ランク】F

【クラス】魔法使いレベル48


【クラス補正スキル】

無し



【スキル】

援護魔法強化

攻撃魔法強化


ーーーーーー


「あら。やはりFですのね。わかってはいましたが、少し悲しいですわ」

ミューヤは肩を落として少し残念そうにしていた。

「共に頑張りましょう」

リュウヤはミューヤの頭をポンと叩いて、鼓舞した。


その後入団手続きなどの、書類の説明や記入をしてもらって、はれてこの3名は鉄の掟のメンバーとなった。



★★★★★★



その夜



街の外の草原にて、二人が立っていた。



「悪いな。アホな団長に付き合わせちまって」

「いいえ、あの物語好きですので、私も出られると思うとやる価値はありますよ」

シンコとサクヤだった。


ギルドスペースで夕食を食べていた俺たちのところへ来た団長の一言により、このような展開になっていた。


「シンコ!シンコも物語に出ない?」

「え?いいんですか!」

ルチカの餌にシンコはすぐに食いつき、その結果一度戦っているところが見たいなどと言い出したルチカによって、この戦いがマッチングされた。




負けるつもりはないが、一応はもう仲間なんだよな。シンコも。


「でもやっぱり、物語に出るならカッコよく出たいですし、本気で、サクヤさんを倒すつもりでやりますね!」

シンコはそういうと、剣を抜刀し、中段で構えた。


「はあ。マジかよ。あの物語に何でそんなに出たいのかねぇ。まあいいか。実力は見たかったし、そっちの本気見せてもらうよ」

俺も拳を構えた。


「開始!」

ルチカの合図で俺はすぐにスキルを使った。

「納刀」

そう呟き、次に足を踏み込んだ。


瞬間、シンコの目の前からサクヤが消えた。


(疾風怒濤の速攻攻撃は予想通り!甘いですよ。サクヤさん)

シンコはサクヤの動きを予測していたのか、あまり驚く様子もなく、それどころか目を瞑り、気配を感じ取り、得物を振り抜いた。


振り抜かれた剣は、サクヤの目の前で止まった。

「あっぶねぇ!」

サクヤが拳で剣を撃ち返したのだ。


「ウソォ!?剣を手で止めるなんてありえないですよ」

驚くシンコの腹をサクヤが蹴り飛ばした。



イッ!



「え?」

シンコは蹴られた腹を触った。

(痛くない)

手を抜かれている?何故?全く理解できない。シンコは思考を巡らせて、現状を把握しようとしたが、それが油断につながった。

その証拠に続く拳ももろに受けてしまった。


が、またしても痛みは感じられなかった。


これが変だ。内部を撃ち抜かれた感覚もない。本当に痛くないのだ。

どういうこと?この人が弱いはずない。

でも本当に全然痛くない。


いやダメだ。同じミスを繰り返してはならない。

「一の太刀・雪の瞑想!」

考えるな!私は手を抜かれていようと、真剣に戦うしかない。


横薙ぎの振り抜きと同時に、周囲を凍らせる、剣技でサクヤを攻撃するも、軽く避けられてしまった。


「剣の一【一閃拳】」


消えッ!?


え?


シンコととサクヤの距離が一瞬で詰められ、シンコの腹にはサクヤの拳が突き刺さっていた。


だが、痛くない。

一瞬動揺したが、すぐに立て直した。この人、本当に速い。 そしてダメージに関してはもう気しない。弱いなら弱いでいい。

私の防御力は軒並み高い。だからこそだと思うことにしよう。

これ以上思考を割くことにメリットはない。


だがどうしても、ダメージがないこの状況、何か嫌な予感がする。

何かを溜めるような、そんな感じがする。


これは予想だ。予想でしかない。本当にただの妄想で、サクヤさんを強く見過ぎていたのかもしれな。

でもこの予想が当たっていたなら、一気に叩かないとまずい。


全力で行く!


「風・林・火・山!焼き焦がせ!炎の嵐!風火ふうか双星撃そうせいげき

火を纏った風がサクヤを襲う。それは竜巻に炎が纏われ、風の切断と、火の焼却が同時になされるスキルだ。


そのスキルを発動させた途端、先程までとはうって変わり、サクヤは受け止めるでも避けるでもなく、全力で後方へ逃げ出した。


ええぇ。。。逃げるのかぁ。と心中では思っていたが、まあそれ程のスキルなのだ。


しかしその心の緩みを決してサクヤは見逃してくれなかった。


「抜刀ッ」


え?


突然、私の後ろに姿を見せた、サクヤの姿を見て驚愕した。

そうだった、この人は一瞬で他者との距離を詰めるスキルを習得していたのだ。

逃げたように見せて、私の油断を誘ったのですね。


そしてもう一つまずい点。

彼の拳に纏われているオーラが桁違いの量のオーラを放っていた。

これは避けないと、アレ?

そう考えて、足を運ぼうとした。


でもどうして、世界が、倒れているの?


バタンという音と共に、シンコは地に倒れた。

「二の太刀【真空貫しんくうつう】」

空間を突き、その衝撃で敵を倒す技。


(やられた?痛い。死ぬほど痛いけど。我慢はできる。まだ立ち上がって戦える。立て!私)



「そこまで!」



その声はまだ戦えると奮闘する私を、両断するかのような、無慈悲な終了の合図だった。

ルチカさんによって試合は終わり、私は終わった後で気がついた。

私は倒れてから30秒以上の間、気絶していたのだと。立ち上がろうとしていたのは意識が戻った後だったのだ。


「本当に手加減してくれないんですね」

シンコはヨロヨロとしながら立ち上がった。

「ほぉ?驚いたな。もう立てるのか」

これには本当に驚いた。チャージが少なかったとはいえ、倒してすぐに立ち上がるとは本当に防御力が桁違いに高い。


「武士なめないでください。一瞬気絶しましたけど、もう大丈夫です。それと私の負けです。もうやりたくないです」

「ああ、俺もシンコの実力が把握できたし、満足したよ」


「二人ともお疲れ様。にしてもサクヤの抜刀が観れるとはねぇ。シンコちゃんサクヤの抜刀は、サクヤの本気だから手加減なんてほとんどされていないわよ。殺さないのは当たり前だから、それを手加減されたと思うなら、見当違い。サクヤは本気で貴方と戦ったわよ」

ルチカはシンコにそう言ったが、俺は少し照れくさかった。ルチカにバレバレで、こいつ本当にそういうところだけは見てるよな。


「殺さないように戦うのが一番難しい。わかっていたのですが、実際やってみると手を抜かれていると思ってしまっていましたね。申し訳ありません」


「いいよ別に。仲間に怪我させたくはないから本当はもっと緩めにやろうとしたんだけどな。その防御力を貫ける気がしなかったからさ、本気出してしまった」


「本気で戦って貰えて嬉しいですね。今回の件は覚えておいてくださいね。また決闘しましょうね。楽しかったです」

シンコは笑顔でサクヤに言った。

怖いな。とサクヤは思った。自分より強い相手と戦って楽しかったというやつは、強くなる可能性が高いからな。

同じギルドの仲間として楽しみだな。


「とりあえず、帰るか」

「はい。それにしても最初は痛くなかったんですけどね。拳」

腹を触りながらサクヤに言ってみた。少し気になった点がそこだったからだ。

「その男の胸糞スキルよ。シンコちゃんみたいな防御力特化型は天敵ね。この男のスキルは」

ルチカが俺の頭をぐしゃぐしゃとかき回しながらそう言った。


「まあ教えてもいいか。俺のスキルには納刀と抜刀ってのがある。納刀時はすべての攻撃の威力が0になって、ダメージが蓄積されるんだ。そして抜刀スキルを使うと、次に最初に打つ攻撃に納刀時に貯めた分が全て合わさってダメージとして与えられるってスキルだ」


「え?それだと、結局10を積み重ねて100にするか、100が一回で出るけど、同じ回数殴らなければならないなら、普通に殴る方がいいのでは?」


「まあそうなんだけどさ。回復する間すら与えず倒す時には便利だし、後、防御力特化型の連中はある程度のダメージ以下は効かないだろ?まあそれとダメージないと油断してくれるかなってのもある」

「あぁ。現に私が油断しましたしね」

「そういうことだ」

はははと自慢げに笑うサクヤは、どうして自分のスキルの秘密を自分の嫌いな、異世界人に教えてしまうのか、不思議でならないシンコだった。





「それにしても何故、納刀と抜刀なんですか?刀じゃないですよね。ただの拳ですよね?」

「知らん。スキル表示が納刀と抜刀だったからそうなんだ。俺に聞くな」

「冷たいなぁ。私、頑張りますよ!サクヤさんに勝てるくらいに」

「頑張ってくれよ。ギルドのために、な!」

「はいは〜い」


今日からギルド鉄の掟は再び始動することになったのだが、まだまだメンバーが足りないのだが、この流れだとまた異世界の連中を集めるのではないかと不安になる。


答えはわからない。


ただ言えることは、増える度に戦わされる羽目になるのは御免だということだった。

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