第4話 エギレドは監視役の男

3話


そこは質素な部屋の中。


その部屋にある物は、ベッドと本棚とクローゼットのみである。本棚にはスキルや魔法関連の本が並べられており、クローゼットには数枚の服がかけられている。


そんな部屋。


サクヤ・レグルゴルドが生活するいつもの部屋だ。


サクヤは目を開け、部屋の様子を目で確認して、自分の部屋で寝ていることを確認すると起き上がった。


「エギレドは勝ったのか?」


サクヤは独り言が多い

ここ最近、一人でクエストをしていたことや、仲間との別れなど様々なことが起こるうちに、いつしか独り言が増えていた。


「それにしても、転生者を倒すこともできなかったのか」

サクヤはベッドに寝ながら、腕を天井側へ伸ばし己の手のひらを見て力強く握った。


「そうね。あの戦い方では、転生者には勝てないんじゃない?」

独り言に返事をしたのは、紅い髪と紅い目が特徴的な女性だ。

彼女はギルド【鉄の掟】団長のルチカ・ターニスクだ。

ちなみにターニスク家は貴族の家系であり、生まれる順番が違えばルチカはギルド長なんてやってられなかったのだが、ルチカは4女であり、家柄としても何とも微妙な立ち位置にいたため、自由に生きている。


まあ他にも乱暴少女や野生児などなど、貴族としてはどうかという特徴モリモリなので、ターニスク家から追放された様なものだ。


ん?というか。


「なに不思議そうな顔してるの?当たり前でしょう。異世界転生者に勝つなんてほぼ無理なのよ」


「いやいやいや。そうじゃなくてだな......」


「なによ?」


「お前。ここで何してる」


普通なら二人で寝るにはキツイはずの俺のベッドだが、いつの間にか俺の部屋のベッドが2人用の物に変わっており俺の隣にルチカが寝ていた。


「寝ていたのよ?そして今起きてサクヤと話してる」


「俺のベッドは?」


「あるじゃないここに」

ルチカがこの二人用のベッドを指差しながら言った。


「前に使ってたやつは?」


「倉庫に入れたわよ。いらないし」


「倉庫ね......自分でやったのか?」

もちろん倉庫なんてのは、この敷地内にはない。

ルチカが倉庫と言っているのは地下室だ。


2階から地下室までベッドを運ぶとなると、一度分解してから運ぶ必要があるわけで、元貴族のルチカ1人にできるはずがない。


「エギレドに頼んだわ、そしたら快く引き受けてくれたわよ」

エギレドはターニスク家の元執事だ。

エギレドは執事の仕事を全うし、次世代の若者達へ仕事を引き継いで、ギルドを作ると言いだした4女のルチカについてきたのだ。元執事ということもあり、ルチカの言うことをすぐ聞いてしまう。


「そうか。。。」


サクヤは深呼吸して


「ルチカアァアアアア!お前は馬鹿か!お前は団長のクセに何してんだよ!俺はお前の男じゃない!それにだな!ベッドを変えてまですることじゃない!やるなら俺のベッドのままやれ!金の無駄だろ!わかったらさっさと自分の部屋に戻れ!」


サクヤは全力で叫んだ。


「うっさいわね!こっちのかってでしょ!それに!団長に向かってその口の利き方は何!敬意を払いなさい!敬意を!」


ルチカはベッドの上に立ち上がり言い返した。立ち上がるまでわからなかったがルチカが装備を全て外していた。


いや寝るときに装備は外すのだが......その......。

日常生活の装備までも外していた。


こいつ、俺の部屋に何しに来たんだよ。

夜這いか?


「全裸の団長なんかに払う敬意なんてないっつーの!」


サクヤがそう言うと言い返してくるだろうと思っていた返し刀が抜かれなかった。


ルチカは自らの身体を見て、顔を赤く染め、近くにあった青色のロングジャケットを着た。

それ俺の服だっつーの!

「全裸の上に着るな!」

「なっ!?全裸のままでいろって言うの!?」

「ハァ!そんなこと言ってねーわ!さっさと出てけ!」

つーか何恥ずかしがってんですか!?


それにですね団長様?全裸にロングジャケットってそれはなんかとても危険な香りしかしない絵面なのですが。


「見たわね?」


「見たけどさ、お前の裸とか子供の頃散々見たから今更レアリティなんてネェッ」


そう子供の頃からというわけで、こいつとは小さい頃からの付き合いだ。

レグルゴルド家も貴族の家系なので、家柄上上手く関係を持つ必要があったため、こいつを含む、周りの貴族にいい顔していた。


その中でこいつはお泊まりに行きたいとか、温泉に行きたいとか色々言い出して、家を抜け出してきたりしたので、俺は本当に大変だった。

ちなみにこいつは当時、服の脱ぎ方も着方も知らないアホだったので、そこから教えている時にこいつの全裸は確認済みだった。


そんなこんなあって、こいつがギルドを作るからと言い出して、俺を家系から引き抜きやがった。

父上や母上は「学んできなさい」の一言だけだった。

レグルゴルド家から英雄が生まれたのは俺で初めてだったのだが、レグルゴルド家から国外追放されたのも俺が初めてである。

ちなみにその段階で12英雄の中にいた貴族の爵位は全員剥奪された。

だから俺もルチカももう貴族では無いのだ。


そんなことが頭を走馬灯のように回り......


「しねえええええええ!」


ルチカの跳び蹴りがサクヤを襲う。


「いきなりすぎだろ!」

走馬灯じゃねぇ!しっかりしろ俺!

サクヤは防御の構えを取り、ルチカの蹴りを受けた。


サクヤはベッドの上から後方へ飛ばされ部屋の壁に背中からぶつかった。

「いってぇ」

だからこのギルドの前衛比率高くないですかね。

チナメも前衛、俺も前衛、ルチカも前衛だ。

元々いたメンバー12人のうち8人程前衛がいる。

みんな魔法とか詠唱覚えることが面倒くさくてスキルで戦う前衛を選んだのだ。

面倒くさがりはスキル職を選びがちである。


「ちっ!浅かったか」

浅いとかないよ?仲間よ仲間!

サクヤはすぐに起き上がり、追撃の蹴りを横に飛びながら避けた。

壁に突き刺さった足から血が流れていた。

そして壁からルチカが足を抜くと、外の様子が見えるようになっていた。


「おい、ルチカ!お前!部屋壊すな!それでだな!俺の意識を狩りに来てるだろ!今更そんな、まな板見てもなんとも思わねーって」


ルチカの髪が逆立つように見えた次の瞬間


「弾丸拳ッツ!!!!」


ルチカの叫びと共に、拳が放たれた。


拳から放たれた軌道で波動が螺旋を描きサクヤを襲う。


弾丸拳は螺旋を描くその軌道から防御で受けると防御を貫かれる。


そのため弾丸拳は避けるか受け流すしか対処方はないに等しい。

【 波動者 】と呼ばれるルチカが習得しているクラスのスキルだ。

波動者とは波動オーラを操るクラスである。


「まてまて!部屋が壊れるだろ!」

その攻撃を避けると、波動エネルギーが壁にぶつかり壁をぶち破るだろう。俺の部屋がさらに風当たりのいい部屋になってしまう。


それは避けねばならない。弾丸拳をサクヤは過去に何度も受け、対処はお手のものになりつつある。

何度も避けというのは団員同士の喧嘩は日常茶飯事だったためだ。


だから今回も、サクヤは弾丸拳を左手を波動の軌道と同じ様に動かし、少しだけ軌道を変えて受け流した。

バリーンという音と共に窓ガラスが弾け飛んだ。

おいおい下に人いたらやばいだろ。


「 ルチカ!少し落ち着け!」

と言いながら、隙を見せかけて技を放つ。


【 一閃拳 】


スキルにより加速した拳でルチカの腹を狙った拳を放った。


「はぁ。これだから、甘いて言うのよ。【 弾丸拳 】!」


「な!?」


空を切った空振りの拳とは反対の左手から弾丸拳が放たれた。


既に発動されたサクヤのスキルにより加速しているため己の拳を止めることはできない。


ストレートのパンチと螺旋のパンチ


勝敗は拳がぶつかったと同時についた


「グバッ!」


サクヤの拳が外へはじかれ、螺旋を描いた拳サクヤの顔面を捉えた。


「グバッハッ」

痛すぎる。。。

サクヤはすぐに体制を立て直し、部屋を飛び出した。


「やべぇ!死ぬ死ぬ!あいつマジでキレてやがる!」


部屋を飛び出し、隣の部屋はエギレドの部屋だが、話を聞くにエギレドはルチカ側の人間の可能性が高い。


よって、入りたくはないが2つ隣の部屋、この建物は2階建てで1階はメインホールがあり、2階には8部屋存在する、その内5部屋は今は誰も住んでいない。


その一つ


チナメが前に住んでいた部屋にサクヤは逃げ込んだ


あまり入りたくなかった。


あいつのことを思い出すのは心が苦しくなる。


でも今は仕方ない。一番近くの部屋の中へ隠れる!


部屋に入り、鍵を閉め座り込んだ


ハァハァ


息が荒い


肩での呼吸が体力の消費を表している。

先ほどリュウヤと戦って次にルチカと戦うってのは想定外だ。


「あいつ、全裸見たくらいでマジでやりすぎだっての、ハァハァ」

肩で息をし、部屋の中から外の音を聞いていた。


「 ね、ねぇ、貴方」


「なんだよ、今疲れてんだよ、ちょっと待ってくれ、ハァハァ」


「待つ?ねぇ。ほんとうに貴方ぶった切るわよ」


うん?女性の声?


チナメの声でもルチカの声でもないのはわかるが確かに外からではなくこの部屋の中から聞こえてくる女性の声。ここ誰の部屋でもないはずなんだが......


扉側に耳をつけていたので部屋の中をほぼ確認していなかった、顔を上げると黒い髪にバランスの良い肉付き、でるところは出ており、完璧なプロポーションと言えるだろう。何故女性の体付きをパッと見ただけでこんなに言い切れるのか?それはだな。


女性が下着一枚でそこにいた。


「あーん。えーと。どちら様?」


なんていうか運が悪いというか.....


「や、やあ?大丈夫、俺は怪しい者じゃない!」


「人の部屋にいきなり入ってきて、鍵を閉めてからハァハァ息を荒げる行為のどこに怪しくない要素があるのかしら!」


下着姿の女性に最もの意見を言われた。


「そうなんだよなぁあ。今の俺すごい怪しいよなあ......ははは」


ガチャ


出よう。今すぐ!


「風・林・火・山・断ち切れ!風!」


風林火山?詠唱か?ということはオリジナルの魔法かな?よくわからんが、うん死にそう。


「じゃ、じゃあ失礼しましたあ...ははは」


魔法が発動されるより早く部屋を出た。部屋を出るとそこには


ああ。そうだったなぁ。。。


「その部屋に隠れてたんだ、よく逃げてくれたわねぇ」


そう、ブチ切れルチカ様


「そうだな。てか、ルチカさん?この部屋にいる方は誰ですか?知らない人?がいたのですが」


「そうね、こんなことしてるよりそれが先ね新入りよ、とりあえず紹介する......わ」

ルチカ様はチョロい。話を振ればこの様に先の話を後回しにしてくれることが多いのだ。今回もそれに助けられた。


と思っていた。


ファサ


「WO!」


サクヤの衣類全てが弾けとび。


サクヤの.....男の聖剣が解放された。


「うん!?!?!おい!ちょっ!?は!?」

俺は突然の出来事に反射的に聖剣を手で隠したがルチカ様がブギ切れられた。


「死ね。変態」



手刀一発


全く本当になんだこれは。

あの女。風ってのはそういうことか。許さん。風邪で俺の衣類だけ切りやがったのか。


サクヤの意識はなくなった。



ーーーーーー


主人公であるサクヤが気絶されたのでここからは、儂エギレドが進行を務めさせていただきます。


まず、先ほどの戦いですが、戯れているようにサクヤ視点では、見えておりますが実際はと言いますと。


先程、壁に穴が空いたり、窓ガラスが割れたりしましたよね。

アレ実はですね、ルチカ様には極力バレないように威力減少の輪をつけていたのです。

透明にしてからルチカ様の足首に4つの輪をつけていたので御座います。

元執事として、危険信号は赤の赤でしたので、ベッドを解体しながら、密かにつけさせていただきました。


しかしてあの威力で御座います。


減少させていなければ、確実に辺り一帯は更地になっていたことでしょう。

それ程までに波動者クラスを習得する者は考えて使わねばなりません。

それが我が主人はできておりませぬ。

悲しいことです。


あ、そうそうちなみにですが、サクヤの顔面があの状態で保たれていたのも儂の輪のおかげで御座います。

アレがなければ蘇生魔法不可避だったことでしょう。


そして次にサクヤのスキルですね。

拳と拳がぶつかり合えばよかったのですが、ルチカ様の波動の軌道により、サクヤの拳は外へ流れてしまいました。

大変で御座います。

何故なら、波動クラスのものでなくともサクヤは強すぎるのです。

例えば相手が必死に戦っていてもそれが全力ではなく演技なのではないか?と予測するほどに鈍感で馬鹿なところがありますので、先程も拳が外れたとしか考えていないことでしょう。


大変でございます。


サクヤの一閃拳はその名の通り、光の速さに近い速度で打ち放たれる必殺の拳です。

それをサクヤという生きる兵器が撃ち放ち、それを外したとなるとこれはマズイですね。


そこで儂の奥義スキルと呼ばれる、1日1度〜1年に1度まで様々ですが、1度使うとクールタイムを要求されるスキルを発動せざるを得ませんでした。

そうしないとパンチの外れた余波のみで部屋の壁がなくなり一つの大広間とかしてしまうのです。


【 完全な拘束城《パーフェクト・バインド・キャッスル 】自分の周囲一帯の生物のレベルを一時的に1にするというスキルで御座います。


こちらのスキル30日に1度しか使えない大技に御座います。


これにより無事、我が家の壁は一命を取り止めました。


ああ、そして、そのためあって、サクヤはあの女子おなごの風林火山の風を見事に受けることができたのでしょう。

本来の威力はどれほどのものかはわかりませんが、鎌鼬かまいたちのやや強い程度くらいまで威力を抑えることができました。


重ね重ねですが本来の威力は知りません。が!女子が恥ずかしがって発動させるスキルは全く手加減がないことが多いにありますので、こちらもまた蘇生魔法不可避だったかもしれませんね。


アイアンメイツに所属しておられる、前衛職は手加減を知りませんので、大変困ります。


アイアンメイツが英雄と呼ばれ12人いた時はそのことについて、後衛魔法職を担当していた、ミルヘーニさん、援護魔法を担当していた、ヒルツ君、そして回復魔法を担当していた、マリーさんとこの儂の4人で毎晩他の8人の扱いについて会議を行ったものです。


そしてギルドを追放する際あの王様は儂らを一人ずつバランスよく分けて彼等が暴走しないようみはるように命じました。

こちらでは既に一人、ライ・チナメの行方が分からなくなる始末。


ああ、ミルヘーニさん、ヒルツ君、マリーさん。そしちは無事でしょうか。


さて、儂の仕事はサクヤを叩き起こして、先の風林火山の女子と、現在ギルドスペースにおられる女子とボロボロの少年の相手をしなくてはなりませんね。


エギレドはバケツを何処からともなく出して、そこに水を入れた。


そして横目にギルドスペースを確認した。

おや?彼等は先程の、女子は顔を拝見してはいませんでしたので、わかりませんが、ボロボロの男の方はたしかリュウヤと言っていましたかな。儂が倒した。というよりサクヤが倒した様なものですな。

サクヤは相手の力量を測るということをできる様にならなければなりませんな。


それにしても何故ここに。やり返しに来た?というわけではなさそうですね。


「全く。やっかいなことだ」


エギレドは1階からギルドスペースにいる、彼等にバレない様にバケツを持ち二階へ上がった。

そして倒れている、サクヤを担ぎ上げベランダに放り出して、水を頭からかけた。


「ゲファッ!オフォッ」

サクヤが意識を取り戻したのを確認し、サクヤの足首に輪をこっそりとはめた。

こうでもしておかないと家が壊れるので仕方ないのだ。

「さて、行きますよ」


「いっ.....て。あ、エギレドか。すまんな、それでどこへ行くんだ?」


「先程の女子について話があるとルチカ様から」

サクヤは頭を抱えながら起き上がりなぜ頭がいたいんだ?と疑問を感じた様だ。

すまぬ。それはきっと儂が雑に放り投げたからだろう。


「ルチカね。あーはいはいまたあいつの我儘かよ」


「諦めましょう」


「わかってるっての!行くぞ」

そう言ってサクヤはベランダから部屋へ入る前に己の体の水をスキルで弾き飛ばして、部屋に入った。

「あ、そうだ。窓ガラス割っちまったんだけどよ、直せるか?」

「任せておきたまえ」

「助かる」


では儂も行きますかな。


エギレドはバケツを指輪型のアイテムボックスへしまうとサクヤの後を追った。

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