真ん中です。


 まあだからか、演奏自体の記憶は薄いんです。何の曲をやったかも、もう覚えてないぐらいで。

 練習通り弾けたから文句無しと、自分達の番が終われば、他のバンドの演奏を楽しんでました。あそこのギターって、キンキンした音作り本当に好きだよなとか、あの人上手いなとか、変わった楽器使ってる人いるなとか。


 それで演奏が終わると、一応解散になるんです。対バンライブは終了となって、あとは帰るなりお喋りするなりご自由にって、暫く顧問の先生が、部屋を開けておいてくれて。交流会みたいなものですかね。


 それでまあ私は、あんまり他校と絡まない性分だったんです。人見知りではありませんから、話しかけられたら応じるんですけれど、負けたくないってライバル心がまさっていて、そんな暇あるならとっとと帰って練習だなと、すぐ帰るような奴でした。

 その日も、朝の移動中や、昼休みに話したし、向こうも私がストイックと言うかマイペースって知ってるからまあいいかと、見知った他校の奴らに挨拶もしないで、帰ろうとしました。そしたら、誰かに声をかけられて。


 女の子だったのは憶えてるんです。制服から他校の、ギター。でもどこの学校かとか、どこのバンドの人かとか、ライブを思い返しても、あの曲演奏してた人? って風に思い当たるものが、全く見当たらなくて。確かに好みってありますから、このバンドの音好きじゃないなってものは、聞き流していたのも正直あります。


 何て声をかけられたんでしょう……? 「○○高の部長さん」、でしたかねえ? 私もう帰る気満々で、荷物も楽器も背負ってたんですけれど、彼女は身一つで、親しげに呼び止めて来て。


 愛想のいい人だなって思いました。髪型も顔も、全く思い出せないんですけれど。精々、ショートヘアではなかったってぐらいです。鎖骨ぐらいまでは、伸ばしてたかなと。


 「○○高の部長さん」という呼び方や、落ち着いた態度、それなりのくたびれた印象を受ける制服から、彼女も三年生だろうなと思いました。他校の部長と言っても、毎回顔を合わせるとは限りませんし、何度もイベントに参加したりしないと覚えられませんから、一年生ではないし、話し声が一切緊張もしてないから、二年生でもないだろうなと。


「はあ。そうですけれど」


 多分同期だろうなあとぼんやり思いながら、そんな愛想の無い返事をしたと思います。


“やっぱり。もう帰るの? 最後の年なんだし、もうちょっと残って行ったら?”


 そう言われると、名残惜しくなってきます。でも私は、卒業の結構ギリギリまでライブの予定が入っていて、次のライブに向けての練習がしたいという思いも抱いていました。

 まあでもそれもその通りだし、いいかなと。


“よかった。ちょっと音、合わせてみない? ドラムは誰か捕まえて”


「ああ、いいけど」


 確か、そんな遣り取りをしたと思うんです。気付いたらジャムってましたから(「ジャム」っていうのは、即興演奏って意味ですね)。


 ドラムの人は結局……。捕まえたんですかね? 軽く合わせるぐらいですから別に、私が簡易ドラムの役も引き受けて、片足でとんとんと床を叩きながらベースを弾いて作ったリズムの上に、彼女が乗るっていう、簡単なものでも可能です。お互い三年生で技術もありますし、私だって自慢ではありませんが学内では昔から、技術力のある生意気な後輩と言われていましたから。

 まあ機材も揃って、当然ドラムセットもある上に、ドラマーだって沢山いるバンドマンの集いの場で、わざわざそんな縛りプレイしなくたっていいですし、多分誰かを適当に、捕まえたんだと思うんです(一応説明しておきますがこの「縛りプレイ」とは、SMの方の意味じゃなくて、テレビゲームなどのそういったゲームをプレイする際、本来ゲーム側からは設定されていない制限(縛り)を自ら作る事によって、より難易度の高いゲームを楽しむ事という意味の言葉です。例えば、回復アイテムを一度も使わないでクリアする、「回復縛り」とか。この場合は、わざとドラムを抜いてリズムキープをしようとする「ドラム縛り」なんて、しなくていいしって意味ですね)。

 でもここの記憶も曖昧で、結局どうなったのかは覚えてません。頼んだのか、彼女と私だけでやったのか……。


 何かぼんやりしてるんですよね。全体的に。当てにならない所ばっかりで。でまあ、私と彼女と、いたかもしれない助っ人ドラマー三人か、もしくは私と彼女の二人だけで、ちょっと音合わせてみたんですよ。軽く。



 この後の事だけを、物凄い覚えてるんです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る