第41話 目指せ!全国大会
「吉野!」
野球部の美人マネージャーを呼び捨てにする一言で、落ち着かない体育館のザワザワが一瞬で静寂に変る。ラグビー部の前キャプテン、吉田孝雄だった。
「そのシステムさ、野球部よりもサッカー部やラグビー部の方が相性が良いかもしれない。野球部の3年生の一番の目標、夏の甲子園は8月だけど、サッカーやラグビーの場合、全国大会は年末年始。大学入試の直前になってしまうから、剣高(ウチ)の3年生のほとんどは全国大会前に引退する。結果、1年生、2年生の新チームで3年中心の相手校と戦わざるを得ない。高校生レベルだとまだ学年のハンディを克服するのは難しくて、いい所まで勝ち上がってもやっぱ、キツイわけ。特にフィジカルで。部活機会均等法だっけ、日頃から学年の壁を取っ払うやり方、特に試合形式の練習は意味があると思う」
サッカーはともかく、激しい当たりが避けられないラグビーの試合では、体力差は時に致命的な差になる。世界レベルを目指す日本チームが強豪国のレギュラー・クラスを招くのも強化のポイントが明確だ。日本選手権で大学生チームがなかなか社会人チームに勝てないのもその辺にも要因があるのだろう。実際、学生チャンピオンと社会人チャンピオンの対決は、その実力差から廃止になった。
「柔道の団体戦では学年に関係なく、
今度は柔道部の主将を務める川崎賢治。道着(どうぎ)を着ていないとバレーボール選手のような細身の長身なので、とても柔道部員には見えない。
「剣道部も、右に同じ」
座ったままの発言なので、誰だか分かりにくいが多分、剣道部の主将・宮島英吾だろう。
「ってことは、ほぼほぼ運動部全般で対応できそうみたいっすね」
運動部の先輩を前に、さすがの幹太もやや控えめに言葉をつないだ。
「でも、2、3年生部員の全員が同意できるかどうか、って心配もあると思いますよ。何か割に合わないっていうか」
生徒同士のやりとりを聞いていた教頭の伊豆野が口を挟んだ。
彼女の主張はこうだ。上級生は1年生の時はいわゆる雑用ばかりやらされてきた。やっと自分たちのペースで練習できる立場になったのに、今度は交代制とはいえ、また雑用もこなさなければならないのは不公平だというのだ。
「全員が同じに練習することで、上級生が試合に出場できる機会だって減るかもしれません」
「それは違うと思います。試合に出れるか出れないかだけで言えば、機会が減る可能性は確かにあります。でも既得権を奪われそうだからダメっていうのはナンセンスじゃないですか。実力がなかったら仕方がない。部活って2、3年生のためにあるわけじゃないし、反対の理由にはならないと思います」
幹太が食い下がる。あちこちから自然発生的に沸き起こる拍手。その鳴り止まない拍手を遮るように発言したのは、ラグビー部の吉田だ。
「元々、部活って伝統的に年功序列みたいなムードっていうか、システムになっていると思うんです。伝統的に代々受け継がれてきたのは確かだけど、もはや時代遅れって感じで…。結局“裸の王様”と一緒で誰もおかしいことを指摘できなかっただけなんすよ」
吉田の主張に背中を押された幹太。口調がよそ行きの幹太から、ふだんの幹太に戻る。
「反対する側の気持ちも分かるんです。オレだって正直、そう思わないこともなかったんで。でも、そんな不満をいちいち認めていると、いつまで経っても改革ってできないんじゃないかなぁ、って」
部活機会均等法を取り入れた野球部では実際、何人かの2、3年生が退部した。内部に不満や不協和音があったのも事実だ。しかし、幹太やさくらは振り返らなかった。元々、あと数ヶ月かで3年生は引退する。予定より少し早い退部を決断した2年生も含め、悔しさややりきれなさは受験勉強に向けてくれたらいい。導入時には織り込み済みだった。これまで球拾いや部室の掃除、用具の手入れなど雑用や裏方の仕事もこなしてきた忍耐力があれば、きっと大学入試にも集中できるはずだ。“改革には痛みが伴う”。幹太は、痛みなんか微塵も感じていないであろう政治家の言葉を思い出していた。
「反対派のみんなの根拠って結局、既得権ってやつでしょ。それじゃあ、自分可愛さに、選挙制度や報酬を含めた自分たちの恵まれ過ぎた待遇を変えようとしない政治家と
幹太のマイク・パフォーマンスに会場が沸いた。
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