第24話 これなら納得!新国立の建設費の捻出方法

「ラグビーのワールドカップ開催って2019年だよ。まだ4年近くもあるわ。キールアーチにどれだけ時間がかかるか分からないけど、現代の日本の建築技術で3年以上もかかるとは思えない。構造的に土台から下から上に順を追って作らなきゃならなかった東京スカイツリーと違って、フィールドの整備しながら観客席の作業だってできるだろうし、風が強くたって天気が少々悪くたってほとんど影響を受けないはずよね。大体、お荷物のアーチさえ作らなければ必要以上に深く穴を掘ることもないわけだしさ」

日本の建設技術が世界でもトップクラスにあることは、広海が指摘するまでもない。

「言ってることは全部、キールアーチで建設することが前提だったのよ。もう工事を請け負うゼネコンとかと約束が出来上がってたんじゃない」

千穂が訝(いぶか)るのも無理はない。談合が疑われる工事や公正取引委員会や検察から談合を指摘される事例も少なくない。

「あるある。出来レースってやつね。料亭とかで、『お主も悪よのう』『お代官さまこそ』みたいな」

こうした話は央司の大好物だ。

「困ったもので民が反対しているようですな、お代官さま」

「なぁに人の噂も七十五日。時間がたてば忘れるというものよ」

ホームルームや放課後とは違い、十分時間があるので央司に付き合う幹太。

「絶対に何かウラがあったはずよ。表に出せないウラが」

話に集中している千穂は、男子チームの下手な寸劇には完全スルーを決め込んだ。

「マスコミに頑張ってほしいけど、特定秘密保護法が出来ちゃったから難しいのかな。公務員も変にリークしようもんなら、お縄になる世の中になっちゃったしね」

特定秘密保護法は2013年暮れ、政府与党の強行採決で可決、成立した。

央司を置き去りにして、幹太が議論に戻る。

「その特定秘密保護法案を強行採決で押し通したのも今の政権よね」

と広海。

「ウラがあるかどうかは分からないけど、建築家のせいにしたり審査員のせいにしたり、前政権のせいにしたり、とにかくカッコ悪過ぎ。東進スクールの林修先生じゃないけど、しっかりしなきゃいけないのは、今でしょ。もっと漢(おとこ)気(ぎ)のあるリーダーはいないのかしらね」

と愛香。

「それに、いろんな人の意見を聞いていると二千五百二十億円ではできないらしいよ。七百六十五億円って言われてるアーチの価格も、一千億円とか千五百億円かかるって専門家も少なくないんだって。東京ドームをすっぽり跨いでしまう全長が四百メートルにもなるアーチって話よ。重量は一万トンとか言われてる。想像つかないわ。第一、最終決定のはずの7月7日の二千五百二十億円の総工費には、オリンピックまでに間に合わない可動式の屋根や仮設の観客席の分が入っていなかったっていうじゃん。作る前から何百万も開きがあって、五輪後に必要な整備費も隠したままなんて信用しろって方が無理。予算は相当上ブレするって太鼓判押してたよ、専門家が」

「そんなところに太鼓判押されてもね。今度は総理のメンツもあるから絶対に失敗は出来ないし、お手並み拝見ってとこね」

広海の言い方には、あまり期待している様子はない。

「あのさ、いいアイデアあるんだけどなぁ。しかも白紙撤回しなくても済むアイデア。少なくても、文科省よりはマシな」

「ダメよ幹ちゃん、政府やJOCみたいなアイデアじゃ。まあ、いいわ。聞いてあげる」

半信半疑で広海。

「上から目線かよ、気分ワル。オレ、これでも物分りは良い方だから、競技場の建設は取り合えず政府の予算通り認めるとします。そんな中において、そんな中において、そもそもですね…」

ふだんの口調とは違って明らかに半オクターブ声が高い。みんなに気づいてほしくて意識的だ。繰り返しているのは安倍総理の口癖。少し早口に繰り返す。

「ハイハイ、大宮総理。そんな中において、どうしたの?」

一応、あまり似ていないモノまねを軽く受けて、広海が先を促す。

「totoとかの規定をイジって金を工面するくらいなら、同じように法律を変えて別なお金を捻出します。しかも国民には絶対反対されない方法で、かつ政治家や官僚のメンツも立つ。亡くなったザハさんもきっと喜ぶこと請け合い」

煙に巻くような含みのある言い方で、みんなを焦らす幹太。本当にそんな妙案があるのか。広海たちにも、にわかには信じ難い。

「言っておくけど、手品は仕掛けがあるのね。トリック。打ち出の小槌みたいに、何もないところから金貨がザックザクなんてことはあり得ない」

頭の中を整理しているのか、口から出まかせのハッタリなのか。愛香をからかう幹太の言葉にまだ真意は見えない。

「スゴーい。カンちゃんは見たことあるみたいな言い方ね、打ち出の小槌」

「広海、あんた揚げ足取らないの」

早く妙案を聞きたい愛香がツッコミを入れると、幹太が手品のような妙案を明らかにした。本当は、父島に来る前から考えていた案だ。

「ネーミングライツとか一般の寄付とか言う前に、歳費ね。高過ぎるって指摘されている国会議員の歳費を半分にします。仮にトータル二千二百万円とすると、半分の千百万円。衆議院議員は四百七十五人だから約五十二億円。参議院議員は二百四十二人だから約二十六億円。合わせて七十八億円。文書通信ナントカ費も50%カットして、月五十万円に。どうせ、自分の政治団体に寄付して税金逃れしたりするお金だから、半額にしても痛くもかゆくもないはず。一人、年に六百万円だから衆参合わせて七百十七人分。ざっと四十二億円。これだけで年に百二十億円賄(まかな)えます。これを2016年から2035年までの20年間で二千四百億円調達できます。どう?」

幹太が胸を張る。国会議員がいつまで経っても自ら削減の考えを見せない歳費に、切り込んで見せた。財源は同じ税金だが、国民に新たな負担はない。かといって、別に国会議員が負担するわけでもない。あくまで国民の税金だ。文句を言われる筋合いはない。

「へぇ、珍しく冴えてるわね。イルカとたっぷり泳いだせいで頭がクールダウンできたのかしら。小笠原の大海原でそんなこと考えていたんだ」

広海ならではの褒め言葉だ。

「あたたたた」

幹太が大げさな反応に、広海はフォローも忘れなかった。

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