第7話 白紙投票も意思表示なんですけど…
「積極的に応援する気はないけど、消極的に応援したい方に一票、とかの二択、三択ってナンセンスじゃん」
「日本語おかしいでしょ、それ」
突っ込みながら、
「こんな本音は、口が裂けても言えないから『有権者の関心の低さが問題』と結論付けるのが一番手っ取り早い」
「確かに、口が裂けたら言えないわ」
「手っ取り早い上に、誰のことを指してるのかぼやっとしてるから、罪がない っていうか、直接犯人探しというか、誰かを責めることにもならないわけ」
物知り顔で護倫。
「そこがミソよね。『有権者が関心低いからなぁ』と言っておけば、何十年もほったらかしでも、実害がないから大きな問題にはならない」
「ホントは投票率の低いのって、本来的には有権者に責任はないんだ」
残ったコーラをゴクッと飲み干して、護倫が結論づけた。
「賛成。だってさ、仮に東京都知事選挙に、徳川家康と織田信長と豊臣秀吉が立候補したら、投票率相当アップするだろうなぁ」
候補者に魅力があれば、有権者だって投票に行く。要は立候補者に問題があるのだ、と広海は本気で思う。
「誰が、鳴かないホトトギスを鳴かせることが出来るか。興味あるわ。どんな鳴き声かな?」
「知らないの? ホトトギスってカッコーじゃん。夏休みとか田舎に遊びに行くと、朝よく鳴いてるよ。オレ別に鳴き声気かなくてもいいんすけど。風流にも感じないし」
妄想する愛香を護倫があっさり現実に戻してしてみせた。女よりも男の方がロマンチストというのは、きっとウソに違いない。
「東京には東北出身者も多いから伊達政宗と、幕末の人気者、坂本龍馬も参戦させる。まっこと盛り上がるぜよぉ」
央司の冗談にも程があるが、万が一そんな事態になったら選挙はマジお祭り騒ぎだ。
「選挙は戦じゃ、そして祭りじゃぁ」
愛香の目が遠くを見つめている。気分だけはすっかり“レキジョ”だ。
「ね、極端な例だけどさ、候補者に魅力があれば関心だって高まるでしょ」
広海も愛香を現実世界に引き戻す。
「まあ。そんな選挙なら見てみたい。希望的観測、イフの話だけどな。」
護倫は苦笑い。
「まるで悪者のように『政治的関心が低い』って非難されないで、なお且つ応援したくない候補者に票を入れない方法がひとつあるんだけどね」
「何? 禅問答みたい」
護倫の言葉に愛香が反応する。
「白紙答案。白票ってヤツ。投票用紙に何も書かないで投票するのさ。そうすれば投票率は上がるし、本当は支持なんかしていない候補者に無理くり大切な一票を入れる必要もない。実際問題、白票がそれぞれの候補者の得票数より多かったら全員落選って、法律を変えて欲しいくらいさ。それが有権者の意思ということなんだから。もし候補者がひとりの場合も、信任投票は必要なんじゃないか。最高裁判所の裁判官だって国民審査っていうのがあって、ダメだって思う裁判官に×印を付けるのな。それと同じにさ」
護倫の主張は厳しいが、なるほどと考えさせられる部分もある。
「そうそう、話は戻って小選挙区制。当選するのは一人だから、相当厳しいって話。しかも、相手は
護倫は広海の秘書か参謀のつもりだ。
「組織票とか、大臣とか、大物政治家の応援とかもね」
広海の頭には渋谷駅前で実際に見た選挙の光景が広がる。
「まぁ、最近の大臣は、そんなに“大物”って感じはしないけどね。入れ替わり立ち代りが激しいし、失言とか疑惑ばっかだし、最近は」
と愛香。
「SMバーで打ち合わせする秘書雇ってたり、官僚がゴーストライターになって書き上げた答弁書の漢字が読めなかったり。もう、ガッカリだよな。あっ、ガッカリっていうのは、俺じゃなくて官僚のセリフ」
央司の皮肉にも慣れてきた。
「穴が開いてるから
広海も合わせてみる。
「有名人の応援もそうだけど、相手が二世候補とかだと、もう無理な」
政治家のスキャンダルに構わず、護倫の話は先に行く。
「ウサイン・ボルトを敵に回しての百メートル走もんだね」
「ウザいの、ボルト?」
「あのな…」
「んじゃ、それって室伏広治選手を相手に、ハンマー投げに挑戦する感じ?」
「田中マー君のスプリット・ボールをホームランするみたいな?」
案外、央司と愛香はいいコンビなんだろうか。
「挑戦の無謀さは分ったけど、何で田中将大選手だけ、マー君なの?」
広海の頭にクエスションマーク。
「だって、マー君、神の子、不思議な子、だもん」
「おッ、出た。ノムさんのボヤキ」
「ドロンジョさま~。トンズラーも忘れないで下さいねぇ~」
愛香まで盛り上がっている。聞くんじゃなかったと広海。ちょっと後悔。
「ハイハイ、ボヤッキーね。でも、オレは二世議員は認めないね」
どこで切り替えるのだろう。護倫は器用なヤツだ。
「どういうこと?」
「いやさ、二世議員や三世議員にも職業選択の自由はあるから、別に議員を目指したって立候補したっていいさ」
「そうね。じゃ、なんで」
「親の地盤っていうの? 支援者とかも丸々引き継いで。選挙のスタッフや参謀だって、親の代からなんていうのばっか。常識的に考えたら到底、公平、公正な選挙って言えないだろ。現役の親を敵に回して同じ選挙区でタイマン張って1議席を争うとか、親の地盤と無縁な選挙区から立候補するんなら大歓迎さ。だけど、引退する親の議員としての財産を全部非課税で“相続”した上で『若さで頑張ります』なんてチャンチャラおかしいよ。オレが裁判官なら違憲判決出すね。この選挙は無効ですって。もちろん誰かが訴えないと裁判にならないんだけどさ」
護倫の鼻息が荒くなってきた。気のせいだろうか。確かに有力議員の二世候補の有利は揺るがない。今風に言えば、支持者だって引退する親の気持ちを十分に
「珍しく厳しいね」
さすがの央司も少し引き気味だ。
「ここは譲れない。テニスに喩えると、ジョコビッチ相手にセットカウント0対2。ゲームカウント0対5から、
喩えがテニスか。いかにも護倫らしい。
「正に絶体絶命だね」
「世界ランクのトップにそんなアドバンテージ?」
「チャンコーチも、オー・マイ・ガー」
央司と愛香が代わる代わる合いの手を入れて、護倫の気分を盛り上げる。
「小渕優子さんなんか、この間の選挙、後援会の不透明なお金の問題が取り沙汰されている中での選挙な。『私には、この道しかないんです』って涙の訴えだよ。おかしいでしょ。“この道”って議員の職っていうことだけど、国会議員じゃなくたって仕事見つかるでしょ。ハローワークに行ったっていい。ていうか普通行くでしょ、再就職先探す時。何ならお姉さんのお店でだって働けるわけで、小渕さんの場合。選挙に出る前に、不明なお金のケジメをつけなかったのは汚点だと思うなぁ。将来的に」
広海は、自分なんかより護倫の方が政治家向きなんじゃないかと思った。
「言うね、きょうは」
「熱いね、熱いねぇ」
二人の合いの手にも力が入る。
「小泉進次郎さんもさぁ、被災地の支援とか、いろいろ頑張っているのは認めるよ。月に1回は現地に復興の進み具合というか、遅れ具合というか確かめに足を運ぶんだってさ。復興担当大臣や経産大臣にも見習ってほしいね。これで、政界へのデビューが父親の後釜でなかったらね。あの歯切れの良さと行動力、存在感は魅力的なんだけど。
一気にまくしたてると、護倫はフーと一息ついた。
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