酒田青枝さんの「アリスの糸」

酒田青枝さんの「アリスの糸」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885235424


アリスという美しい女の子と彼女を見つめる「ぼく」、アリスに苛められていた鈴音とアリスの友人である老婦人末子の関係を糸に擬えたお話。


美少女と老婦人の友情、二人で行う古い着物のファッションショー。そういうのが好きな方はとても楽しめると思います。なかなかいい短編でした。が、どうも私がこの話をちゃんと読めている自信がない。まあ読めてないかもしれないなりに感想を書いていきたいと思います。


まず文章がよかったです。とても読みやすくて雰囲気がある。澄んだ明晰な文章。序盤はどこか不穏な、張り詰めたような雰囲気があって興味を惹かれます。キャラクターもいい。アリス、ぼく、鈴音、末子。四人の主要人物はみんな明確な役割を持っているし、それぞれの性格もわかりやすい。主人公がみんなの前でイラストを描くシーン、彼の性格や学校での立ち位置がはっきりと見え、それでいてそのシーン自体が面白く、技量のある書き手なんだなと感じました。

ストーリーも、最初のつめたく張り詰めた雰囲気から、あたたかみと希望のあるラストにいたる、その過程も不自然ではなくてよかったと思います。


ただ、どことなく全体的にあいまいな感じがしました。私の感覚としてはラスト近くで末子から明かされるアリスの事情と主人公への糾弾は、主人公にとっても読者にとっても意外性や衝撃を感じさせるはずのものだったと思うのですが、前者はともかく後者はどうでしょう。主人公にとっても読者にとっても「ぼく」がアリスよりもはるかにつめたい人間であることは、もともと自明のことだったように思います。もう少し主人公の感情を見せず、冷たさは事実から滲ませるような書き方のほうが話としてわかりやすいのではないでしょうか。また前編で鈴音が薬を飲んでいることが書かれていますが、これは後から明かされるまで伏せていてもいいのではないかと思いました。あと末子とアリスがなぜ仲がいいのかが不明なのも、書いてあってもいいのではないかと思いました。

要するに情報の提示の仕方を工夫することで、もっと読者の感情をわかりやすく誘導してほしい、ということなのですが、そういう描き方をしないことで現れてくる何かが大切なのかもしれない、私がこの話を読めてないのかもしれない。なんだかそんなふうに感じます。おそらく書きぶりが堂々としているからでしょう。自分の書きたいものが明確な人に対して私に言えることとか特にないように思えてきた。


感想を書くということの根本的な難しさを感じつつ、今回はここまでです。ありがとうございました。

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