Han Luさんの「そして、扉は閉まる ~沿線ライター小清水くんと些細な出来事シリーズ~」

Han Luさんの「そして、扉は閉まる ~沿線ライター小清水くんと些細な出来事シリーズ~」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440008

引っ込み思案な女性に起こった些細な出来事を日常の謎風に語るお話。


ミステリっぽいお話なのでネタバレに配慮せずに話を進めます。

ミステリ風、ですがミステリなのかな? 主人公と上司のキャラクターや会話がなんとなくミステリのシリーズものっぽい雰囲気です。でもこれは叙述トリックの一部…になるんでしょうか? 三人称と思いきや一人称だった、というミステリはいくつか例がありますが(今思いついたのは東野圭吾の某長編、芦辺拓の某短編。多分もっともっとあるでしょう。というか私のカクヨムにある作品にもそのパターンのものがあります。ミステリじゃありませんが)、それが驚きをもたらすのは三人称神の視点に見える語りが一人称の語り手の体験したものだった場合だと思います。朝倉みさきからの伝聞で彼女のことを知って語っているこのお話(明らかに外から主人公が彼女を見ていただけでは知りえないことを語っている)では「この人が語り手だったのか」という今まで知らなかったことが明らかになった驚きしかなく、これはミステリ的な驚きなのかな、と思うのです。伏線がないので(もしかしたら朝倉みさきの話からすればちょっと詳細すぎるような電車に関する描写が伏線なのでしょうか?)。

例えば三人称に見える時点で主人公の朝倉みさきへのほのかな思いをにじませるような、三人称には少しそぐわないような描写があると、読者も主人公が出てきたときに「あ、そういうことなのか」と感じられ驚きが演出できるのではないか…と思いました。といってもそれでもミステリ的なフェアプレイができているかというとわからないですけど。


あと朝倉みさきが男性(のちの恋人)に助けてもらい、また別の男性(主人公)に助けてもらう、という話なのですが、恋人のほうのキャラクターがほとんど描写されないので主人公と印象が被ってしまい、読者としてはちょっと混乱します。みさきにとっては言うまでもなく重要な人物ですし、主人公も彼の行動に感化されて自分も行動を起こしているので、主人公との対比をはっきりさせるために書いておいたほうがいいのではないかなと思います。


ごく個人的な好みを言うと、恋人→主人公と小さな勇気が連鎖しているので、最後はみさきが仲直りのために勇気を出すような展開のほうがおさまりがいいんじゃないかな…と思いました。


ミステリ来ると喜ぶといいつつ、ミステリっぽいお話が来ると普段より辛口になってしまう。そんなだめなミステリ好きで申し訳ないです…。

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