第44話 熊本くんの小説24
修学旅行の自由行動で再会したまつりに連れられ、俺は東山のほうへと歩いていった。
「どこ行くんだよ」
「いいからママについてきなさいって」
そういって慣れたように突き進んでいく。迷いのない足取りだった。初めての場所を歩いているので俺は落ち着かない。ついていきながら地図を確認していた。
「そんなもの必要ないわよ。インスピレーションってやつでなんとかなるものなのに。それにもし迷ったとしても、そこが本当の目的地なのかもしれないじゃない」
俺は追いかけることしかできなかった。
路地に入っていき、何度も道を曲がっていくうちに、地図では判別できなくなり諦めた。
「ここだ」
まつりが立ち止まる。そこはずいぶんと古めかしい屋敷だった。駐車場から車が出ていく。看板に、「ラブホテル」とあった。
「入るわよ」
そういってまつりは躊躇せずなかへと入っていく。塀に表示に休憩と宿泊の料金が書かれている。俺たちは制服を着ているというのに、こんなところに入れるわけがないじゃないか。そもそもどうしてここに入るのだ。厄介ごとになって補導されるのはごめんだ。俺はまつりをここから引きずり出すため、意を決してなかへ向かった。
室内は、外観同様に古めかしく、薄暗い。部屋が表示されているプレートをまつりは見ていた。
「なにやってんだよ」
俺はまつりにいった。
「ここにするわ」
そういってまつりはスイッチを押す。すると階段にライトがつき、部屋の道順を示すように点灯した。二階の扉の前が、パトカーについているサイレンのように赤く点滅している。
「行くわよ」
そういってまつりは光の先へとすすんでいく。
「待てよ」
「ご利用時間は?」
俺が追いかけようとしたとき、奥にあった小窓が少しひらき、声がした。まずい。俺は慌てた。
「休憩で」
階段からまつりがいう。
「料金先払いです」
やっぱやめます、といおうとしたとき、まつりが俺の方になにか投げた。それは俺の頭にあたり、はねて地面に落ちた。
ぽち袋だった。
「それで払って」
あけてみると、綺麗に畳まれた二万円と富士山のテレホンカードが入っていった。
「これは」
息を呑んだ。
「三千円です」
小窓から声がした。俺たちは学生服姿で、昼間からラブホテルの受付にいる。俺は一万円を払い、窓から重ねられた千円札が出された。
ここは、なにかおかしい。
外装は一見広い屋敷に見えるが、なかは狭く圧迫感がある。薄暗いからではない。奥行きがないように感じる。狭い場所の向こうにいくつもの部屋があるらしい。窮屈に、あらゆるものが詰め込まれている。何者かの欲望を具体化した場所に思えた。
二階にある部屋へと曲がって続いていく階段に、まつりは立っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます