熊本くんの小説
第1部 僕と他者
第21話 熊本くんの小説①
『さよなら、けだもの流星群』 作 タカハシタクミ
第一部 僕と他者
僕が初めて他人のちんぽこを口に含んだのは、小学六年生のときだった。
小学校のニワトリ小屋でのことだ。ぼくとクラスメートの渡辺は、飼育係だった。六年生はニワトリに餌をやるのが仕事だった。
係を決めるとき、ぼくはさっさと手をあげた。週に一度、小屋を掃除すればよかったので、楽だなと判断した。皆はニワトリ小屋をくさいといって近寄ろうとしなかった。ぼくは気にならなかった。
渡辺もすぐに手をあげた。渡辺は運動神経がよく、昼休みの遊びだけに学校生活を賭けているタイプだったので、驚いた。五年生からの繰り上げでクラス替えはなかったけれど、僕は渡辺とはあまり話をしていなかった。グループも違っていた。クラスのなかで、鬼ごっこだのドッヂボールをしたがるタイプと、インドア派のみんなで仲良く本を読んでいるタイプ、そしてどちらにも属さないふらふらしている無所属派があった。渡辺は武闘派? グループで、僕はといえば、『ズッコケ三人組』とか『ぼくらの七日間戦争』をおとなしく読んでいる集団にいた。
「じゃあ行こうか」
速攻で給食を食べ終え、渡辺が僕の席までやってきた。僕はまだ給食を食べきってはいなかったが、頷き、立ち上がった。
「ショウちゃんまだ食べおわってないじゃん」
となりの席の石田が声をあげた。周囲がぼくらのほうを向く。
「飼育委員あるから」
僕はいった。野菜炒めを平らげることをまぬがれて、ほっとしていた。
石田は僕をライバル視している。僕は本を読むのが早い。『ぼくらシリーズ』を石田よりも先に読み進めている。それが気に入らないらしい。『かいけつゾロリ』や『夢水清志郎』も出ているものすべて僕は読み切っていた。なので石田が後追いで感想を話すと、ついてこれるのは僕だけだった。僕は、「青い鳥文庫」よりも、大人用の、小さな文庫本に最近興味がある。
ニワトリ小屋を掃き掃除し、水と餌をを入れ替える。ニワトリは三匹いた。一匹、皮膚病にかかっている雌鶏がいた。背中の毛がなく、ただれた皮膚があらわになっている。いつだって血を浮かべていた。ほかの二匹は雄で、やたらと交尾をしていた。そしてそのたびに、体を傷つけていた。
雌鶏は卵をよく産んだ。しかし、三匹のうち誰かが踏み潰してしまうのか、いつだって卵は発見したときには割れていた。
今日もまた、小屋の隅で、黄身の漏れた卵を見つけた。箒でちりとりに収めようとした。箒の先にその黄身がついた。気持ちが悪い。ヒナとなるはずだった種をぞんざいに扱っているような気がした。
スーパーで売っている卵も、卵料理にも、そんなことは感じないのに、不思議だった。渡辺はなにもしないで、僕の背後にいた。
飼育係なんてやらなければよかった。植物係のほうがよかった(週に一度、帰りに水をまくだけでいい、人気の係だった)。多数決のじゃんけんに参加するのは馬鹿らしかったのだ。
なにもしない渡辺にも腹が立った。せめてこの黄身がこびりついた箒を洗わせなくては、と思っていたとき、僕の尻の割れ目に、何かが当たった。驚いて振り向くと、顔を歪めた渡辺がいた。
「なんだよ」
よく見ると、渡辺の半ズボンが膨れている。ときおり僕たち男子は、疲れたときや風呂入って体が緩んだとき、小便の管が硬くなる。おかしなことになってしまったとき、なんとかして、そうなったことを隠そうとする。
「そういうとき、水飲むといいよ」
僕は渡辺に助言した。もしかして渡辺は、こういうふうになったのは初めてのことなのかもしれない、と思ったのだ。僕は自分のことを、わりと早熟なほうだと思っており、対処法も熟知していた。
「おしっこだすと直るっぽいから」
女の子のセーリみたいなもんだと思う。僕の妹が初潮になったときの心構えみたいな漫画を読んでいたんだけど、男にはそういうのないから大変だよね。そういって、情けない顔をしている渡辺を慰めるつもりだった。
渡辺は僕に近づき、僕のほうを見ているのに、どうも僕のことを見ているようには思えない目をしていて、強引に僕を抱きしめた。僕はというと、僕のちんぽこのあたりに、渡辺の硬くなったやつが当たっていて、なんか笑えるなあ、なんて思った。そのうち、僕のも硬くなってきた。
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