俺氏、アイドルプロデューサーに!
ななちゃん
第1話 アイドルにならないか?
ピピピピピ…ドスッ
「ふぁ〜」
ある土曜日の朝、俺は8時にセットした目覚まし時計を止め、大きなあくびをした。
高校2年生になってしばらくたってもう4月の下旬。もうすぐ中間テストがやってくる。そのための勉強をしにこれから図書館へ。
自室2階から1階のリビングへ降りると母さんの「仕事行ってきます。勉強頑張れ!」のメモと一緒に俺の好きなオムレツが置いてあった。
レンジで温めてすぐにたいらげた俺は、また自室に戻り必要な物をリュックに詰め込んで支度した。
「いってきまーす。」
そう呟いて家を後にした。
俺、守谷 和人(もりや かずと)は学校一の秀才である。今度の中間もまた1位になるためにこれから図書館で勉強をする…ことになっているが。ごめん母さん。俺はこれから…
シュガーミルクの武道館ライブに行くんだ!
シュガーミルクっていうのは、俺の大好きな今や国民的人気3人アイドルグループである。メンバーのさゆりん、ももきゅん、ゆうゆうは、みんな俺と同い年でルックス、パフォーマンスと共にレベルが高い。
今日は俺の推しのさゆりんが武道館で生誕祭ライブをやるのだ。もちろん全力で応援に行く。親は、このことを知らない。別に隠したい訳でもないが言い出すタイミングがなくなってしまい結果、嘘をつくはめに…い、いや、ほんとは図書館に行こうって決めてたんだがな!生誕祭は…しょうがないだろ。
見た目真面目そうな格好をしているがトイレでさゆりんTシャツに着替える。ちなみにこれらグッズをみな始発で武道館で並んで購入しているそうだが俺はライブ前通販で購入済み。完売される前に確実に入手するためだ。
「まだ開場まで時間あるな。」
近くの段差になってる部分に腰かけて、物販に並んでる人、グッズ開封している人などをぼんやり眺めていた。
…あれ?あいつ見覚えあるな…。
セミロングくらいの髪の前髪長めの女子、もしかして花一(はないち)か?
花一あいりは俺と同じクラスでおとなしい女子だ。いつも教室の隅の席で読書やら音楽やらきいている。
花一は1人で来ているのだろうか?てか俺と同じさゆりんTシャツ着てんじゃん…。
花一はグッズ販売列に並びに、そして開場時間になったので特に声をかけずに俺は会場内へ入っていった。
一階席の後ろの方だがまあ、悪くない。ステージから後ろにかけての花道に近いしステージ全体も見える。
「あ。花一だ」
開演時間までわずかなところで5つ隣の席に花一が申し訳なさそうに入ってきた。
と、同時に会場内は暗くなり生誕祭ライブは始まった。
さゆりん生誕祭なだけにさゆりんイメージカラーのエメラルドグリーンが客席一面に広がる。花道通るたび俺はメンバーから指差してもらったりさゆりんには今日何回ウインクされたんだろう。握手会、サイン会、ライブに欠かさずいってる俺はメンバーから認知済みだ。
ふと横を見ると見たことないくらい花一がエメラルドグリーンのペンライトを振って楽しそうにしている。なんだ、めっちゃ楽しそうじゃん。
会場内がコールと歓声で溢れる中、俺も全力で叫んだ。
「さゆりーーーーーーん!」
あっという間だった。楽しすぎて、叫びすぎて喉は限界だった。疲れてしまった俺はその日はやく帰ってしまった。
月曜、土曜の余韻に浸りながらも俺は学校の授業に集中し、なるべく勉強しなくてもいいように理解を深めた。
チャイムがなって昼休み。
「和人!屋上で食おうぜ!」
と、前に座っている俺の親友ガイに連れられ屋上で食べるようにした。
「なあ!生誕祭ライブどうだった?」
「もう!きいてくれ!さゆりんと何回も目合ったし、ウインクしてくるし可愛いし、可愛いし、…」
俺のさゆりん生誕祭ライブ感想をガイは会釈しながらまじまじときいてくれた。ガイは俺がアイドル好きなのを知っている。ガイ自身はアイドル好きってほどじゃないんだろうけどさゆりんの可愛さを理解してくれているので今度シュガーミルクのライブに連れて行く予定だ。
「そういえば花一がさゆりん生誕祭ライブ来てたんだよね。」
「花一が?見間違えじゃね?」
「確かに普段の花一とは思えないくらいライブ楽しんでた。さゆりんTシャツ着てたし。」
「はははっ。和人ドルオタ友達できるじゃん、よかったな!」
いやいや、でもさゆりんについて語れる友達は欲しいと思ってたけど…花一は話しかけづらい。
「花一に話しかけてみろよ!あ、やべ。呼ばれた…。」
校内放送で担任がガイを怒った口調で呼び出しているのが流れた。何したんだよ。
俺はまだ弁当の残りを食べているときいたことある音楽が。
「これ…さゆりんのソロ曲か…?」
もう昼休みも終わり時で俺くらいしか屋上には残っていなかった。
背にしていた壁をのぞくと、花一が踊っていた。それも、完璧にさゆりんのふりを覚えている。笑顔で楽しそうに踊っている姿に俺は見入ってしまった。
ふと、花一と目が合い向こうはピタッと踊るのをやめて顔を真っ赤にして停止していた。
「あ、ごめん…えっと…上手だね花一さ…」
「ひゃああああああ恥ずかしい…!!!」
「ごごごめん!あのさ…シュガーミルク…さゆりん好きなの?」
花一はゆっくり落ち着きを取り戻し
「う、うん。でも最近知ったんだけどね。」
俺は花一と横に座って話を続けた。
「土曜日のさゆりん生誕祭ライブ来てたでしょ?」
「わ、わわ、見てたの!?実はそれが初めてシュガーミルクのライブだったんだけど…生で見たほうが可愛いよね!曲も衣装もダンスも全部すごかった…!」
「だよな!あの二曲目のさぁ…」
昼休み終了のチャイムを忘れて俺たちはそのまま話し込んでいた。
「さっきのダンスは?」
「あれは…その…動画みてたら覚えちゃった…土曜日の余韻で気づいたら踊っちゃってて…」
花一がうつむいて顔を真っ赤にしている。
「すごく上手だったよ!さゆりんのふり完璧でさあ!!!」
「あ、ありがとう!」
「教室でも堂々としてればいいのに!あ、文化祭で踊ったら?シュガーミルクの新メンバー応募とか!」
「っ!むりむりむりむりむり!そんな私なんて…文化祭なんて恥ずかしいし!!シュガーミルクはあの3人だから!あの3人でこそなんだよ!!それにアイドルなんてなりたくてなれるもんじゃないし…。」
花一のシュガーミルク愛がすごい。よほどアイドル好きなんだな。
花一は小声で呟いた。
「でも…私もいつか…さゆりんみたいになりたいな…って」
「さゆりんみたいって?」
「あの可愛さは無理だけど、さゆりんみたいに堂々と多くの人を魅了するような素敵な人になりたい…。」
その時俺は。さっきのダンス、花一の気持ち、アイドルの素晴らしさが全部繋がってつい、思いつきの軽い気持ちで言った。
「俺がプロデュースするアイドルにならないか?」
俺氏、アイドルプロデューサーに! ななちゃん @nana_chan
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