探偵のターン⑥
おそらくエミリは過去の炎上経験とそれにより歪んでゲスくなったためだろう。
エミリはSNSで失敗した。住居や学校を特定されたりしたので、その経験から逆の立場になって考える事ができた。ゲスだからこそ負の感情に反応しやすい。勇者だって一番のゲスピークが探偵センスピークだった。その時の経験で現在やっていけるようなものた。
あとはBL推理という、自分の興味のあるジャンルに置き換える想像力。それがあるからこそ女の勘などという特殊スキルが発動する。体力の無さが欠点ではあるが、それはそのうちになんとかなるだろう。
もしかしたらエミリと自分が組めば最強コンビになるのではないか。勇者はそんな考えに至るが、頭を振ってその考えを吹き飛ばした。エミリにあまり危険な事はさせたくない。
浮気調査ならある程度は安全だ。素人相手なのでそう簡単にバレる事はないし、そこまで危害を加えられる事はない。ただいかがしいし男女の嫌な面ばかり見ることになる。これから幸せになるつもりだというのにそれはいけない。
「いじめ調査、か……」
陽介が異性の存在を隠したり、小悪魔がSNSでさりげなく自慢する原因かもしれないいじめ。中学生にとっていじめなどは避けたいはず。ならば大人こそが対策をとるべきだと思う。
勇者が今悩んでいるのが、探偵業を浮気調査メインではなくいじめ調査に切り替えるかどうかだ。
はっきりいって、浮気調査ほど楽で稼ぎのいい調査はない。それにいじめ調査は勇者には経験がない。浮気調査と同様にはいかないだろう。
なにより稼ぎが見込めない。浮気調査は慰謝料のためにやることだが、いじめ調査はその子の安全な生活のためにやることだ。
うちで働けとエミリを強引に連れてきた以上、いい加減なことはできない。
「買ってきた」
青いパンケーキのトレイを持って表情をゆるませたエミリが戻ってきた。その笑顔を見ると、勇者は背中を押されるような気分になる。
エミリだって炎上などで不当な扱いを受けた。それが今は笑ってくれている。他の被害者のためにできる事があるならやりたい。
「……しばらく俺は事務所を留守にする」
勇者はいろいろと考え、そして出た結論を言葉にしていた。パンケーキを食べかけていたエミリはその突然の言葉に少しだけ不思議そうな顔をする。
「どこか行くの?」
「内緒だ。知りたければ俺を尾行して突き止めれば知ればいい」
「……また試練か」
勇者の考えはエミリにまだ言えない。だから試練にする。それで突き止めてくれるのなら、勇者としてこれ以上に嬉しい事はない。
これから勇者は知り合いの、いじめ調査をしている探偵事務所に向かい、そのノウハウを教えてもらう。金にならないといういじめ調査だからこそ、そのノウハウは商売敵であっても教えてもらえるだろう。
これからもエミリを探偵として鍛えるが、勇者だって鍛えなくてはいけない。自分の身を守るために。そして誰かの正義のために。
END
勇者がラブホ街にいた。 kio @kio___
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