探偵のターン⑤

 「それで、ターゲットはスパダリ。スパダリは当て馬になる事が多いし、天真爛漫な小悪魔受けを好きになるものだ」

 「とりあえず陽……スパダリが小悪魔を好きなのは間違いないんだな」

 「あぁ、ただし小悪魔は小悪魔。その気はなくても惹きつける。……それで他の攻めが好きなんだと考えられる」

 

 女の勘とはBL推理の事らしい。BLに当てはめることにより理解したのだろう。確かに二人の視線を見れば陽介の方が熱視線を送っている。一方彼女(仮)はスイーツに熱視線を送っている。

 

 彼女(仮)は携帯のカメラ機能を使ってパンケーキを撮っている。そして携帯電話に何事かを打ち込んだ。

 それを見て、ふむとエミリは考え込んだ。そして携帯を操作する。

 

 「……当たりだ」

 「え?」

 「これ。あの小悪魔受けのアカウント。スイーツだらけだ」

 

 エミリから携帯を渡されて、勇者はしばらくそれを見た。どこかの飲食店のものらしき食べ物ばかり。そして最新のブルーハワイパンケーキもそこに含まれている。

 

 「アカウントの特定?こんな短時間で?」

 「さっき小悪魔がSNSに投稿したとして、すぐあのパンケーキで検索すればアカウントは特定できる」

 

 それは勇者もテクニックとして知っている話だ。ターゲットがSNS更新したタイミングでその投稿を検索する。そうすればターゲットのアカウントをすぐ知ることができる。アカウントがわかれば行きつけの店や行動範囲から、本人が何を考えているかまでわかってしまう。

 勇者も普段ならよく使う手だ。しかし今回は浮気調査ではないし、中学生と言うことでそんなエグい手段は使うつもりはなかった。

 それをエミリはやった。まだこのテクニックは教えていないというのに。

 

 「ポイントはほとんどの写真にあるスイーツと、さり気なく写された男の手だ。男と来たっていうアピール」

 「なんでそんなアピールを?」

 「一人じゃないですよアピールか、一緒に食事できる異性がこんなにいますよアピールというとこか」

 「中学生だぞ」

 「中学生だってなめられちゃおしまい。自慢できるものはいくらあってもいい。ただし自慢しすぎるとビッチだなんだの言われて嫌われるから、あくまでさりげなく」

 

 エミリの説明に納得しつつ、勇者は画面をスクロールして写真を細部まで眺めた。確かにスイーツのうしろにゴツかったり日に焼けていたり、色んな手が写っている。陽介のものらしきものもいくつもあったが、明らかに陽介のものでない手もあった。

 彼女にとって、陽介は自慢の一部でしかない。

 

 「こんなやつにつきあっていれば奢らなくてもお小遣いはいくらあっても足りない。スパダリには普段の友達付き合いだってあるんだから」

 「それで、金遣いが荒くなったというのか?」

 「うん。飲食が増えただけだからお駄賃稼ぎだけでどうにかなる。けど、いつこれが奢らせ貢がせになるかはわからない」

 

 エミリの説明に勇者は浮気調査とは違う疲れを感じた。ただの恋愛だというなら勇者も陽介を応援しただろう。しかし今回は脈がないし、搾り取られはしないものの浪費癖がつきかねない。あまり良いことではない事は確かだ。

 

 「……彼のお母さんにうまいこと報告して、そこから判断を仰ぐよ。貢いでいたわけじゃないから、そう怒られはしないだろ」

 「うん。恋愛は自由」

 「そんなわけで尾行はこれでおしまい。パンケーキ、頼んでいいぞ」

 「やったー!」

 

 エミリは飛び跳ねるようにしてカウンターに注文しに行った。浪費原因がわかればこれ以上の尾行は必要がない。

 エミリが注文しているうちに陽介達は帰って行った。ここでお別れのようなので、もう尾行しても意味がないだろう。なので変装もとる。

 

 意外なのはエミリに探偵の素質があった事だ。彼女に今まで教えたのは探偵サポート術や今日の尾行術ぐらい。なのに今日は教えていないことまでやってみせた。それも勇者より早くに真実に気付いた。

 勇者も身内相手である事や中学生であることから手加減していたとも言えるが、それにしたってエミリは出来すぎている。

 

 

 

 

 

 

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