探偵のターン④
エミリはぽそりと言う。それに勇者は途端に恥ずかしくなった。恐喝かも暴力かもと言っていたのは勇者だ。その大げさな予想が外れた。
「いや、でも陽介君、やたら警戒してたし」
「警戒もする。中学生で彼女なんて、クラスメイトに知られたら冷やかされるし」
「そ、そうだったのか。俺、中高と男子校だったからわからない……」
「冷やかされるの、よくある。ひどいときには生意気だとかでいじめられたり、皆で面白半分に別れさせようとするし」
男子校育ちで男女のピュアな恋愛にうとい勇者。共学育ちで人の嫌な面ばかり見てきたエミリ。ここは経験からエミリの意見が優勢となった。
「エミリの言うとおり、二人は彼氏彼女だとしよう。でも金遣いの荒さから詐欺の可能性も考えられないか?」
「ふむ、それはあるかも」
「女の子の方はわざわざよその学校の方まで会いに来るんだ。それは陽介君からむしり取る気じゃないか?」
恐喝ではなく詐欺。それもまだあり得る話だ。女子中学生詐欺師というのは恐ろしいが、奢らせたり貢がせたりしている可能性は高い。
「あ、ファーストフード店に入った」
「よし、俺達も入ろう」
「いいの?」
「いつもなら一人入ってもう一人外待機だけど、陽介君が詐欺られてないかが気になる。注文は俺がするから、エミリは席を確保してくれ」
「りょーかい」
クーラーのきいた店内に入れるとなれば、エミリも反対しない。ついでに期間限定ブルーハワイパンケーキが食べれるのなら文句はない。
しかし念のため近くで二人の様子をうかがって詐欺かどうかを確かめようというのだろう。
エミリは涼しい店内に入り、平日昼間ということであまり客のいない中、陽介の死角の壁際を選んだ。本当はもっと近くを選ぶ方が確実に盗み聞きできるが、閑散とした店内で面がわれてる勇者もいるのにあまり近付くわけにもいかない。
「お待たせ」
「期間限定ブルーハワイパンケーキは?」
ジュース二つを買ってきた勇者に対して、エミリはスイーツがない事に不満そうだ。ブルーハワイパンケーキは現在この店舗で大々的に宣伝しており、陽介の彼女(仮)も注文していた。食欲を刺激されるとは思えない青の生クリームの乗ったパンケーキだ。
「調査中は飲食禁止。トイレ行きたくなったらどうする」
「むう」
「まぁ、今日は炎天下を歩いたからな。熱中症にならない程度に水分補給するのは許可する」
「おっ、……ってなんだこれ、ウーロン茶だ」
「砂糖の摂りすぎは余計喉かわくからな」
小声でそんなやり取りをする。しかし陽介は気付いた様子がない。よほど勇者の変装が完璧か、まさか親戚のお兄さんにつけられているとは思っていないからだろう。
楽しそうな男女を勇者は一瞬だけ見た。陽介はドリンクのみ。彼女はパンケーキとドリンクを注文したらしい。
「まさか陽……あの子、彼女におごったりしてないだろうな?」
「違うと思う。トレイが別だし」
「あ、ああ」
「トレイにはレシートが各自乗ってて二枚ある。スパダリ少年がおごったのならレシートは一枚だ」
鏡をチェックしながらエミリが言った。それを勇者は鏡で確認してから密かに驚く。彼女は意外に洞察力に優れている。レシートが二枚あることなんて、勇者は気付けなかった。
「そもそもあの二人、付き合っていないと思う」
ウーロン茶を渋そうに飲みながらエミリはさらに読みを告げた。ならば勇者はその根拠が知りたい。
「なんでそう思う?」
「女の勘だ」
「そんな錆びついてそうなもので言われても」
「なにおう」
一応はエミリは可愛らしい顔立ちだし前世からの料理上手で女の子らしいと言える一面はある。しかし男性を憎んでいて色恋沙汰から遠かったはずだ。そんな人物に女の勘と言われても納得いかない。
「勘というからには説明つかないものだろうが、せめて説明のできる部分を説明してくれ」
「むむ……そうだな。例えばあの女子、男体化すれば天然小悪魔系受けだと思う」
「男体化ってなに?」
「女が男になったら、という話だ。逆が女体化」
「う、うん。で、受けってのはカップルでいう女役みたいなことなんだよな。だったら女の子のままでよくないか?」
「これだから素人は」
なぜだかエミリは勇者に憐れんだ目を向けた。よくわからない世界だが、素人のままでいたいと勇者は思う。
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