三日目 終わりの始まり
僕はハナイカリのような人と話したあと、早く橘に思いを伝えるべく走って家に
帰っていた。忘れかけていたあのときの少女は橘であった。
そして僕はそのときに恋をして、今も僕は好きである。
この思いを早く橘に伝えたかった。
十分ぐらいはもう走っただろうか。僕は後ろにまるで憂いを秘めたあのときの少女のような視線を感じ、何の
そして僕は
そこにはいつもの笑っている橘がいた。
はあはあぜえと息が絶え絶えになっていたものを整えてから僕は喋りだす。
「どうしてそこにいるの」
ぼくは膝に手を置き、
「なんで走ってたのかよく分からないけどさ、とりあえずこっちにきて!」
橘は僕の手を引っ張って走り出した。
「はあはあはあ。あのさ!どこに向かってるの!」
橘は
十分ぐらい走ったぐらいで高見神社が見えてきた。
「高見神社に向かってるの?」
「そうだよ。じゃあ、そろそろ歩こっか」
そういって。橘は走る速度をだんだんと緩めていき、高見神社の鳥居の前まで来た。
「ぜぇぜぇ。全然息切れしてないね。もしかして陸上部?」
「うん。これぐらいならいつもやってるから……」
そう言いながら、鳥居と賽銭箱の間ぐらいまで歩いた。
そして、橘は小走りをして僕の少し前へと進んだあと、足をとめて踵を返し、こちらに体を向けた。それと同時に僕も足を止めた。
「さっき、
平淡な口調で橘はそう言った。
「うん……あのさ、言いたいことがあるんだけど話してもいい?」
「うん。いいよ」
これも同じように平淡な口調で橘は答えた。
「六年前にさ、とある少女が崖から飛び降りようとしてたのを助けたんだよ。
そしてその少女に僕は恋をした。それも初恋だった」
橘は先程と表情を一変し、泣きながらその話を聞いていた。
「その少女って実は橘なんだよね」
「うん。知ってる」
橘は泣きながらそう答えた。
「あのときからずっと好きです。僕と付き合ってください!!」
僕は頭を下げて左手を前に突き出してそう言った。
「ごめんなさい……でも、私も
今も変わらず好きでいるの」
橘は明言するように言った。
「そうか……じゃあ、なんでダメなんだ」
僕は動揺とショックのせいで声を震わせながらそう言った。
「私は、『空』に帰らなきゃいけないの……」
橘も同じように声を震わせながらそう言った。
そして橘は顔を下に向け俯いた。
「信じられないような話だけど、僕は信じるよ」
それを聞いて、橘が安堵したような表情をしたのを見て、僕は話を続けた。
「あと、それじゃ理由になってないと思うよ」
「それはおかしいよ!だって、空に帰ったらもう永遠に会えないんだよ!!」
橘は声を荒らげ、力強くそう言った。
「だってさ、確かに空に帰ったらもう永遠に会えないかもしれないけどさ!僕と橘との恋って、そんな小さな障壁も越えられないような程度の恋だったのかよ!!」
僕は橘よりも声を荒らげた。そして橘よりも力強く、はっきりとそう言った。
「そうだね、そうだったよ。うん、そうだったね。私たちの恋物語はそんな小さな障壁なんて軽々跳び越せるような、壮大な恋物語だったよね!」
さっきまでは泣いていた橘も泣くのを止め、最高の笑顔で「だったよね!」と言ってくれた。
「じゃあ……私はもう空に帰るね。空からずっとずっと小浮気のことを見守っているからね! それと、ちょっと目を瞑ってて」
僕は言われるがままに目を瞑る。
そして、橘が小走りで近づいてくる足音が聞こえてきた。
その後すぐに足音が鳴り止んだと思ったら唇に何かやわらかい感触を感じたあと、思わず橘を抱きしめた。
そして橘は僕の胸の中に顔を埋めたあと、嗚咽を出すほどに号泣した。
僕は静かに、子供を寝かすようにして背中を叩いていた・
その後橘は泣き終わり、小走りで最初に位置へと戻った。
「じゃあもう行くね。あと永遠に私のことを好きでい続けてね!」
「うん! もちろん!」
「私も永遠に好きで続けるよ」
「わかった。信じてるよ」
「信じなかったら今度は本当に朝食に針を入れるからね」
「はは。そうだね。永遠に好きでい続けるよ。さようなら、橘」
「うん。さようなら。小浮気」
そして橘の背中からは羽が現れ、空へと飛んでいった。
でも僕は悲しくもなんともない。
なぜなら、『僕たちの恋物語』はこれから始まるのだから。
僕たちの恋物語 ゆきんこ @kokoroiti
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