再会 ―リョウキside―

 もう1人の刺客である梶宮蓮人と別れた俺はクロムとシャーリィーを追いかけて村の入口まで辿り着いていた。

 村の入口付近に敵はいなかったので、2人は俺が到着するのを待っていてくれていた。


「リョウキ殿! 良かった、無事みたいですね」


 クロムが心配そうに駆け寄ってきた。あのモンスターに1人で立ち向かったんだ、心配するのも無理はないだろう。


「全く無茶をする人なんですね……。でも無事でなにより」


「ははは、ちょっと危なかったですけどね」


 まだクロムたちには俺が現実世界から来たことは話していないため、レントと遭遇したことはごまかした。

 隠す理由は特には無いのだが、ルナと一緒にいる時の方が安心して説明できると考えていたからだ。


 三人でヘイズ村を出た。これで村からルナの友達を救出するという目的は達成されたことになる。

 シャーリィーと再会すればルナも少しは安心してくれるだろう。

 村の壊滅、人が殺されるところを目の前で見せられる、この短時間でルナには衝撃的な出来事が多すぎた。俺とヘイズ村に向かう途中に少し明るいところを見せてくれたが、この村に来たことでさらに衝撃的なものを見せられてしまったんだ。このままでは彼女の心が閉ざされてしまってもおかしくない。

 それに、今まで一人にしてしまっていたんだ。

 俺がちゃんと無事に帰ってきたことも少しは安心材料になってくれるだろう。

 そんなことを考えながら、俺たちは村の外でルナと別れた場所までやって来た。


「キャーーーーーーーーーーッ!!」


 その付近に着くなり女性の甲高い悲鳴が聞こえた。茂みの方からだ。

 俺とクロム、シャーリィーは急いで茂みの方へ向かう。

 この声は間違いない、ルナの声だ。茂みを掻き分けて声のする方へ向かう。


「ルナ、大丈夫か!?」


「リ、リョウキさん! 助けてください!!」


 ルナを襲っていたのはワイバーンの兵士。村を襲っていた個体が何かしらの理由で村の外にいたのだろうか。しかし、ワイバーンとそれに乗る兵士は一向に動こうとしない。

 いや、動けないんだ。ワイバーンと兵士にそれぞれ1本ずつナイフが刺さっている。あれはおそらくルナと一緒に空き家で手に入れた食事用のナイフ。ルナはそれを2本持っていた。ルナはそれに麻痺魔法をかけてワイバーン兵に投げ刺したんだ。


「リョウキさん!! 良かった……効果が切れたら私どうしようかと……」


 ルナが急いでこちらに駆け寄り俺の胸に飛び込んだ。

 村の外にも敵がいたのは想定外だった。またしてもルナに怖い思いをさせてしまった。

 あの時の俺はとにかく自分を追い込み、ルナを危険な場所へと連れて行かないことしか考えていなかった。結果としてはギリギリ間に合ったとはいえ、あの考えが正解ではなかったのかもしれない。

 例え危険な場所だったとしても、俺がルナを守らなければならなかった。


「さて、どうするか……」


 今の俺に魔王軍と戦う力は風の魔法しか残っていない。

 魔石による身体能力強化の力はさきほどのモンスターとの戦闘で使ってしまっていた。

 新たな力が発揮されないかと期待してみるが、魔石は一切輝かない。俺の願いのの強さが不足しているのだろうか……。


「シャーリィー、援護を頼む!」


「わかりましたお兄様!」


 俺が必死に対抗策を考えていると、クロムが未だ麻痺効果が残っているワイバーン兵に切りかかった。ワイバーンは身動きが取れないため一方的にクロムの剣がワイバーンを切り裂く。

 クロムは剣に風を纏わせ、より鋭い斬撃を与えていた。

 切れ味の増したクロムの剣筋は適格にワイバーンの翼を切り落としていく。これでもうワイバーンは空を飛べない。

 

「【ウォーター】!」


 シャーリィーが大きなシャボン玉のような水の結界を作りワイバーン兵を閉じ込めた。

 水と言っても魔法の水は触れるだけでダメージを与える。すなわち、この結界は敵を閉じ込めながらダメージを与える檻のようになっていた。

 

「【トルネード】!」


 クロムが風の中級魔法トルネードを使用する。村で使っていたウィンドよりも1段階上の風魔法だ。

 その名の通りその場に竜巻を発生させ、水の結界に閉じ込められたワイバーン兵は上空へ持ち上げられた。


「ハッ!!!」


 その後、空中で敵を閉じ込めていた水の結界をシャーリィーは弾けさせた。

 これだけでもかなりのダメージを与えたに違いない。

 クロムはトルネードを解除し、麻痺して動けないワイバーン兵は地面へと落下。そのまま地面へと墜落した。

 ワイバーン兵は地面に落下すると息絶えたのか消滅する。魔王軍の兵隊は死体も残らないのか。何かエネルギーのような物で兵隊を作り出しているのかもしれないな。


「ふぅ。ルナさん、無事ですか? 間に合って良かった」


「クロムさん、シャーリィー、ありがとうございました。リョウキさんも二人を連れて来てくれてありがとうございます」


「ルナ、生きてたんだね……良かった」


 ルナとシャーリィーが抱き合った。互いに村が魔王軍に攻め込まれて怖い思いをしてきたんだ。友人との再会は何よりも心の安定材料になってくれるに違いない。


「さて、これからどうしましょうかリョウキ殿。ルルシャ村もヘイズ村も魔王軍の手によって壊滅させられてしまった。こんな田舎の村にまで攻め込んでくるとなると、もはやこの周辺に安息の地はないでしょう」


 と、なるとまだ行っていないイービス村も既に襲われている可能性が高い。

 しかし、俺にはそれ以上この世界の知識が無いのでクロムたち頼りになってしまう。


「そうですね……。この二人を危険な場所へと連れて行くのは気が引けますが連れて行くしかありませんよね。何か魔王に対抗するためのものはないでしょうか?」


「魔王に対抗するためのもの……ですか。でしたら龍の洞窟の伝説はどうでしょうか」


「龍の洞窟、それに伝説ですか?」

 

「はい、向こうにデストル山という山があります。その山には神秘の力が眠ると言われ、魔王軍も未だに手を付けられていないと聞いたことがあるのです。その一角に龍が眠る洞窟があるんだとか」


 魔法にも驚かされたが今度は龍ときたもんだ。

 世紀末な状態なこの世界だが、またしてもファンタジー要素を肌で感じることになるのかもしれなかった。


「その龍に認められし者は蒼き龍神の力を授けられるんだとか。伝説ではそうなっています。これが本当なら魔王に対抗する術が見つかるかもしれませんよ」


 こちらとしても手詰まり状態である。可能性があるなら試してみる価値は充分にあった。

 それに魔王軍の手がまだ及んでいないというのならこの二人を連れて行くのにも安心して行動できそうだ。


「わかりました。行ってみましょう、その龍の洞窟に」


 俺たちの次の目的地が決まった。

 あくまで伝説と呼ばれるものなので希望は薄いかもしれないが、ここは現実世界ではなく異世界。もしかしたら、という展開を期待して俺たち4人はデストル山の龍の洞窟へ向かった。

 


 



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