幻影の剣士 ―レントside―

 魔石の力を解放させ邪剣で敵をなぎ倒す。

 空中にいるワイバーン兵を圧倒し、道をこじ開けていく。

 さきほど発動させた身体能力強化の力も未だに解けていない。それどころか解ける気配がない。

 この力は自分の意思で解除するまで続くもののようだが、それは己のスタミナが尽きるまでだろう。すなわち、時間制限はなくとも限界はある。

 翼の男でなくてもいい。魔王城の場所さえ聞き出せれば誰だって構わない。

 必ずここで手がかりを手に入れる。


「驚いたな……。あいつあんな滅茶苦茶強いのか」


「アタシも戦ってるところは初めてみたけどハチャメチャな強さしてるよね……。よっと! もうあいつ一人でいいんじゃないかな状態だよ」


 マイとゴウは残った敵を倒しながら後を追う。

 俺がほぼ全ての敵をなぎ倒しながら猪突猛進していくので倒しきれなかった敵の処理をしていた。と、言ってもほとんどが瀕死状態の敵にトドメを刺しているだけだが。


『グガアァァァァァァァァァ』


 狼のようなモンスターが吠える。リョウキと遭遇した時と同じ種のモンスターだ。と、言っても邪剣を使わずとも倒せた相手だ。苦戦することはない。


「【ボルケーノ】!」


 俺の火の魔法はどんどんレベルアップしていった。灼熱の炎がモンスターを包み込み、これでモンスターは身動きが取れない。

 そこへ上から一気に邪剣で斬り込んだ。この一撃でモンスターは消滅する。

 寄ってきたワイバーン兵も邪剣が斬撃で飛ばすオーラで一掃した。これで周囲の敵は全て片付いたことになる。



「驚いたな。闇の剣を持つ者よ」


 そこへフードを被った男がどこからともなく姿を現した。

 喋れると言うことは今までの兵隊とは違う。おそらくこの兵隊たちを仕切る者。

 その男の体は透けていた。その場に実態があるのかさえわからない。しかし、声は聞こえるしちゃんと気配を感じる。


「ハアァァァァァァァァァァ!!!」


 俺は迷わずその男に斬りかかった。しかし、なぜか攻撃は当たらない。

 確かに男に当たる角度で切り込んだはずなのに。


「フンッ」


「ぐっ……!」


 男がカウンターで俺の腹部を殴る。

 こちらの攻撃が当たらないのでホログラムや幻といったその場に存在しないものかと思えば、男の攻撃はきちんと俺にヒットした。

 俺は殴り飛ばされそのまま建物に突っ込んでしまう。

 

「レント!!」


 そこへマイとゴウが駆け付けた。俺が突っ込んだことで崩れた建物から俺を引っ張り出してくれる。

 幸いにもコンクリートのように固いものではなく、木製の建物だったのでこれによるダメージはほぼない。魔石の力があるとはいえ、助かった。


「ぐっ……どういうことだ」


 しかし、一回殴られただけなのに身体能力強化が無ければ即死レベルの重い一撃だった。このままではまたこちらの攻撃が当たらず懐に飛び込んだところへキツイ一発を喰らってしまう。

 

「マ……マイ、すり抜けの魔法ってのは攻撃もすり抜けるなんてことができるのか?」


「いや、あくまであれは壁とかをすり抜けるだけなはずだから戦闘には用いられないと思うんだけど……」


「あいつは身体が透けていて俺の攻撃が当たらなかった。まるで実態がそこには無いかのように。けれどあっちの攻撃は俺に当たる。どうなっているんだこれは」


 幻? いや、あちらの攻撃が当たるならば確かにそこに存在しているはず。

 攻撃が当たらなければ倒すことはできない。どうすればいい……。


「【ボルケーノ】」


 ならば魔法でと思いボルケーノを使ってみる。

 しかし、その男は何事も無かったかのように炎をすり抜けこちらへ向かってきた。


「おいおい、マジかよ」


「二人とも離れろ!!」


 男は剣を抜きこちらへ向かってきた。

 邪剣から斬撃を飛ばすが当たらない。男は全く避ける動作が無かったため、スピードを落とさないままこちらへ迫ってくる。

 俺は咄嗟の判断でインビジブルを使用し、攻撃を避けた。

 流石に透明化すれば目視できなくなるらしい。

 その隙に斬りかかったが、またしても剣は空を斬った。

 

「お前には私を倒すことはできない。だが一つだけ教えてやろう、私は幻などでない。確かにここに存在する」


 男はそれだけ言うと、持っている剣を地面に突き刺してオーラを発生させ、俺たち3人を吹き飛ばした。

 幻ではなく確かに存在する。だが、攻撃は当たらない。

 吹き飛ばされながら考えてもレントには対処法が思いつかなかった。



「……王よ、これでいいのか?」


 男はそう呟くと再び闇の中へ消えていった。

 それに従うように残った兵隊たち村を出てどこかへと帰っていった。




  ◇  ◇  ◇



 レントたち3人は村の外まで吹き飛ばされていた。

 村の外は木が多く、3人とも運よく木の葉がクッションとなり落下した際のダメージはほとんど無かった。


「あいたたた……。二人とも大丈夫?」


「ああ、なんとかな……。落ちた先が木の上で良かったぜ」


「……ぐあぁぁ」


 俺は邪剣と身体能力強化が解けていた。魔石の力の反動が俺を襲う。

 ペンダント状に戻った魔石は再び輝きを失っている。


「大丈夫レント!?」


「いっつ……ぐ、悪いな」


 二人に木の上から降ろしてもらった。

 またしばらく魔石の力は使えない。それどころかかなり体力を消耗してしまっていた。


「どうやら村から魔王軍はいなくなったみたいだな。かなり静かになった」


「一件落着……ってわけではないよね。村はああなって住人の生存は絶望的。あの兵隊たちを仕切っていた奴も攻撃が当たらないっていうかなりの曲者だったし」


「……ふぅ、あまり体は動かせないが少しは楽になった。二人とも助かる」


「おお、レント。すごかったぜお前。あんなハチャメチャな戦いができるなんてよ」


「あ、ああ。このペンダントの石が俺に力をくれている。もっとも、一回使ってしまうとこうなってしまうみたいだけどな」


 1回1回戦闘毎にスタミナ切れで倒れてしまうのは避けたいところだ。となれば邪剣を使うのはなるべく避けていかなければならなかった。

 この力を使うのは先ほどの男のような幹部クラスの力を持つ相手だけにしたい。


「イービス村の戦闘時に逃げた奴から魔王城の場所を聞き出そうと思っていたが、奴はここにはいなかった。代わりに聞き出すことができそうな奴からも聞き出すことはできなかったし、これで手詰まりになったな……」


「それならここから近いし、デストル山に行ってみれば? あそこは神秘の力が眠るって言われていて、さらに龍の伝説があるの。龍に認められた者は力を与えられるっていうね」


「マイは行ったことがあるのか?」


「あー……。一応アタシはデストル山出身なんだけど、素行が悪いからって追い出されまして……」


「あぁ」


「確かにな」


 俺とゴウは納得するかのようにウンウンと唸った。

 

「でもでも、レントの力があればその龍が力を与えてくれるかもしれないよ? アタシはちょっと気が引けるけど行ってみない?」


「どうせ他に行くところはないんだ。俺は行くぞ」


「俺も付き合う。村があんなことになってこのまま黙ってはいられない」


「よーし、じゃあレントさんのパーティデストル山へしゅぱ~つ!」


「あ、ちょっと待ってくれ。少しいいか」


「ん?」


 少しだけ時間が欲しいと言ったゴウは一旦村へと戻った。

 それは祭木へ向かう途中に発見したハンクスという男を埋葬するためだった。


「ハンクス、お前の無念は俺が必ず……!」


「他の人たちはいいのか?」


「ん? ああ、流石に数が多すぎるな……。流石に人手が足りないし、代わりにまとめて大きな墓を作っておくかな」


 三人で協力して一つの墓を作った。記念碑のようにしてまとめて墓にしたのだ。

 流石に数が多すぎて死体を運ぶことはできなかったが、墓だけでも作りたいというゴウの希望でこうすることになったの。


「村のみんな、お前たちの仇は俺たちが必ず討つからな」


 手を合わせるゴウからは決意が感じ取れた。理由は違えど俺と同じく魔王を倒すためにこれから旅に出る。

 その後、俺たちはヘイズ村を後にし、デストル山へ向かった。

 あの幻の剣士を倒すことができなかった俺は魔王を倒すための最短ルートは取れなくなった。しかし、マイの言う龍の伝説が正しければデストル山に行くことで俺は幻の剣士を倒す力が手に入るかもしれない。

 あの剣士を倒さねば魔王討伐の道は切り拓くことはできない。

 この遠回りは必ず無駄にはならないはずだ。




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