交わった物語1

 リョウキとレント。それぞれが自分の願いのために異世界に降り立ち、またここで出会った。

 二人は仲間というわけではない。どちらが魔王を倒し、願いを叶えるか競うライバルだ。


「そういえば自己紹介をしていなかったな。俺は梶宮蓮人。貴様はなんという」


「お、俺は防衛凌騎だ」


「サキモリだと……? おい、それは防衛と書いてサキモリか?」


「あ、ああそうだな。そう書く」


  その事を聞くとレントはリョウキを鋭い目つきで睨みつけた。

  怒り・憎しみ。そんな感情が含まれた目つきにリョウキは少し怯んでしまう。

 

「ど、どうした……?」


「…………」


 リョウキはレントに睨まれている理由がわからなかった。

 白い服の男に会った時と今以外に面識は無い。

 しかし、「防衛」というワードに過剰な反応をしたので、レントはリョウキのことを知っているらしい。

 防衛なんて名字を他に見たことがない。人違いという可能性は低いだろう。だとしたら過去に何か……?

 

「ん? ……来たか」


 モンスターを倒す際に大きな音を立てたことで、魔王軍はすぐさま駆けつけてきた。

 リョウキの魔石による身体能力強化時間は30秒だったが、レントの場合30秒経っても解除されていない。

 リョウキの場合はルナを助けたいという思いで力が目覚めたが、レントの場合は己の願いを叶える力をなんとしてでも手に入れるという強い思いで目覚めた力だ。

 リョウキの場合、まだ魔石に対して半信半疑なところがあり、まだ完全に魔石を受け入れることができていない。

 対するレントは魔石を完全に受け入れ、自分のものにしようとしている。

 願いをストレートに魔石へぶつけられているか否か、それがこの力の差の要因となっていた。


 弓兵が飛ばした弓矢がこちらへ飛んできた。さきほどリョウキが牽制した弓兵部隊が戻ってきたのだ。

 

「【フレイム】」


 レントは火の魔法を放つ。空中に向けられたその炎は弓矢を次々と燃やしていく。


「【ウィンド】」


 一方リョウキは風の魔法で風を起こし、弓矢をこちらへと近づかせない。

 しかし、弓矢の雨は止まなかった。こちらは魔法を打ち続けていれば体力は消費し続け、いずれ限界がくるだろう。

 このままでは埒が開かなかった。


「おい、サキモリ。俺が空中にでかく炎を出す。それを風の魔法で打ち上げろ」


「へ、どうするんだ?」


「いいから言う通りにしろ」


「わ、わかった」


「【ブレイズ】!」


 レントはフレイムよりも強力な火の魔法ブレイズを使った。フレイムの時よりも大きな炎が空中に現れる。


「よし、いけ!!」


 リョウキはその炎をウィンドで打ち上げた。その炎は弾け散り、一種の空襲のような火の雨となって弓兵たちを襲う。

 弓矢が止んだ。撃退に成功したのだ。


「ありがとうレント! ……あれ?」


 リョウキが振り返ると既にレントの姿はなかった。

 確かにそこにいたはずだが、この短時間で移動してしまったのだろうか。

 リョウキは先に逃げたクロムとシャーリィーのことを思い出した。立ち止まっている暇などない。

 リョウキは急いで二人の後を追った。



   ◇   ◇   ◇



 ブレイズを使った後、透明化の魔法で姿を隠したレントはマイたちと合流するために移動を開始していた。

 かなり派手な戦闘をしてしまったのであのままあそこにいるのは好ましくない。

 あのまま敵を呼んだところを邪剣でまとめて仕留めにかかっても良かったのだが、レントはマイとゴウの安全を優先したのだ。


 レントが再び祭木の付近へやって来ると、敵に見つからないように辺りを探っている二人を見つけた。


「どうだ。住人はいたか?」


「ダメだ、誰もいなかった。クロムもいなかったことを考えるとみんな移動を始めたんだと思う」


「移動……」


 あの時モンスターにやられていたのは生き残っていた村の住人なのだろう。それもこのシェルターから丁度逃げていたところを襲われたに違いない。

 

「さっきの悲鳴の主はその逃げていた人たちだと思う。俺はあの後、襲われているところを見てしまった」


「なんだと……。それじゃあもうこの村で生き残っている奴は……」


「そんな……」


 おそらくこの村の生き残りはゴウのみ。シェルターに誰もいなかったことを考えると他の住人は殺されてしまった可能性が高い。

 その前に逃げているという可能性もあるが、現時点でもうこの村には俺たち以外人いなさそうだ。人の気配がない。

 先ほど出会ったサキモリを除いて。



「俺は村にいる魔王軍を倒しに向かう。お前たちは早く逃げてくれ」


「……いや、ここまで来たんだ。俺にも何かさせてくれ。もう仲間だろ、俺たち。それに村がこんなことになって黙っていられるか」


「そうか、助かる」


 邪剣を使った後、また気を失ってしまうかもしれない。

 その時に助けがいるのはとても助かる。本来は一人で行くつもりだったが、ゴウも1人くらいならカバーできるだろうとレントは考えた。


「えーと、アタシは……」


「お前は無理しなくていいぞ。ここまで付き合わせてすまなかったな。村に戻るといい」


「そう言うと思った。……アタシもレントに付いていくよ。アタシだけ仲間外れとか嫌じゃん? 危険だけどあんたに付いていったら面白そうだし」


「無理するなよ」


「無理してない! どうせ村に戻っても、また魔王軍が攻めてきたらどうすることもできないじゃん。レントと一緒にいたほうが安全だと思うし……!」


「そうか、じゃあ行くか」


「うん! 行く行く~!」


「おう!」



 こうして三人は魔王軍が集まる村の集落に向かった。

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