ヘイズ村にて ―レントside―

 予想通り俺たちがヘイズ村に着いた時には村は襲われている最中だった。

 イービス村の時にも見たワイバーンの兵士、ローブを被った弓兵。オマケには狼みたいな化け物。遠くから見えたのはそのくらいか。

 俺とマイ、ゴウはまずゴウの武器屋へ向かう。

 

「お前たちもちゃんとした武器があった方がいいだろ。ウチの店から持って行け。もうこうなっちまったら商売どころじゃないからな」


 ゴウの武器屋は村に入ってすぐのところにあったので、幸いにも敵に見つからずに忍び込むことができた。

 着いて早々にゴウは店の武器を漁っている。


「魔王軍が主に攻めてるのは村の奥にある集落がある辺りだね。この辺にはあんまりいないみたい」


 マイはこの村によく盗みに入っていたから裏道などに詳しい。いざとなればマイを頼りに移動すればいいだろう。

 もっとも、剣を盗んだ時は引きずったせいで姿が見えなくても跡と音でわかってしまったらしいが。


「よし、兄ちゃ……いや、レントはこの剣でも持っていけ。そこのネズミ女は……このダガーとかか?」


「ネズミはやめてください! マイです! あ、でもこれいいかも」


「ウチは他所へ出しても恥ずかしくない物を取り扱っているからな! つってもこの村に武器屋なんてもんはウチしかないんだけど。ほら、レント」


 ゴウから受け取った剣の形はとてもシンプル。変わった装飾も特にない。


「その剣は一見普通の剣に見えるが実は特殊な剣でな。兄ちゃん属性魔法使えるか?」


「ああ、火の魔法なら使える」


「よし、火の魔法をその剣にかけてみろ」


「【フレイム】」


 火の魔法を剣にかけてみると剣が炎が纏っただけでなく、なんの特徴も無かった剣がそれっぽい形に変化した。

 メラメラと炎が燃えるような感じに色は赤黒く、鍔はそれをイメージしたような形になっている。

 

「どうよ。こいつは属性の魔法をかけるとそれ相応の姿に変化するだけじゃなく、魔法の効果も上げてくれるんだ。属性魔法を使えるならもってこいの代物だぞ」


「うん、気に入った。使わせてもらう」


 魔法を解除し、鞘に収める。これがあれば魔石の力を使わなくても魔法と併せてある程度戦えるかもしれない。


「さて、俺も持つ物は持って用は済んだ。レントはどうするんだ? 俺は村の人たちがどうなったのかを調べようと思うんだが」


「俺は翼の男を見つけるまでは一緒に行動するが、下手に別れても危険だ。マイ、敵に気付かれないように道を教えてくれ」


「ここまで来てやらないわけにはいかないしね……。任せて、【インビジブル】」


 マイは透明化の魔法を使い店の外へ出た。周辺の様子を確認する。

 何体かワイバーン兵が飛んでいるが他に敵影は無し。

 俺とマイは透明化・すり抜けの魔法があるので移動しやすいが、ゴウは使えないので慎重に道を選んでいく必要がある。

 マイに視察をしてもらいながらバレないよう道を選び、村の中を進んでいく。


「逃げれた人たちはシェルターにいるかもしれない。そっちへ向かってみるぞ」


「シェルター?」


「あぁ、この村には祭木と呼ばれる象徴的な大樹があってな。そこにいざという時のためにみんなでシェルターとして地下室を作ったんだ。クロムって奴がいてな、そいつが常にシェルターの番をしてて何かあればそいつがカモフラージュする魔法で姿を隠しているはずだ」


「つまり、無事な人たちはそこにいる可能性が高いと」


「そういうことだ。とりあえずそこへ向かおう」


 

 村の中を移動をしていると建物が崩れていたり、弓矢に倒れた人の死体などが転がっていた。

 人の死体なんて母が自殺した時以外に見たことはないので耐性なんてあるわけがない。なるべく見ないようにして通り過ぎる。

 

「……ひでぇな。見てきた死体の中には俺のよく知る奴もいる。魔王軍に対する怒りでどうにかなりそうだぜ……」


「こらえてくれ。今出て行っても騒ぎを起こすだけだ。俺も人が死んでいるところを見て何も思わないわけじゃない。でも今は生き残っているかもしれない人たちを探すのが先だ」


「あぁ、わかってる。……っ! こいつは!」


「…………っ」


 ゴウが見つけたのは弓矢が何本も刺さって息絶えている男の死体。

 辺りには弓矢がたくさん転がっているので、弓兵部隊に集中狙いされてしまったのだろう。俺は気分が悪くなってきそうなので直視することができなかった。


「ハンクス……!! ぐっ、お前まで……!」


「……知り合いか?」


「あぁ、この村の村長の息子だ。何かあった時は率先して動く奴でな。おそらく逃げてる奴らを誘導していた隙に狙われたんじゃねぇかな……。こいつとはよく酒を飲む仲だったぜ。事が収まったらこいつの墓を作ってやらなきゃな……」

 

 ゴウは天を仰ぎ、ギチギチと音が鳴るくらい拳を握り震えていた。昂る自分の感情を抑えつけるように。


「何やってるの。見つかるから早く行くよ二人とも!」


「おう、すまねぇ。……行こうレント。生き残っている俺たちにはするべきことがあるんだよな。あまり悲しんでもいられない」


「ゴウ……」


 知り合いが死んでいるところを見て悲しまない奴はいない。

 悲しみとショックでどうすることもできなくなったり、怒りに囚われ憎しみの感情のみで行動を起こしても不思議ではない。

 それでもゴウはグッとその感情を抑え込んでいる。その悲しみはとても深いものだ。魔王軍への憎しみの感情だって強いはずだ。


 もし、俺がゴウの立場ならどうなっていただろうか。仇を討つため魔王軍に突撃して行っていたか? それとも狼狽えて逃げていたか?

 今の俺には魔石の力があるからわからないが、ゴウが出て行ったとしても間違いなく返り討ちに合ってしまうだろう。

 感情の赴くままに行動するのではなく、今自分ができることを合理的にしようとしているんだ。


「…………」


「どうしたレント?」


「……あぁ、いや。行こう」


「おう。……ハンクス、お前の分も行ってくるぜ」


 そんな時、俺は同じような行動をとれるだろうか。



 俺たちはマイの案内のおかげもあって、敵と遭遇することもなく祭木の近くまで来ることができた。

 ここまで来る途中に翼の男の姿は無い。

 住人の安全を確保できたら俺だけ別行動で探してみるか。透明化があれば簡単には敵に見つからないだろうしな。


 その時、大きな衝撃音が聞こえた。大きさ的に音の出どころはここからすぐ近くのはずだ。

 

「マイとゴウはこのまま隠れているんだ。俺が少し見てくる」


「えっ、大丈夫なのレント?」


「流石にマイに行かせるわけにはいかないしな。【インビジブル】」


 透明化の魔法を使い姿を隠す。これで敵に目視はされない。

 すぐに音がした方へ向かうと、道の先でモンスターが突進して逃げている人たちを吹き飛ばしていた。

 吹き飛ばされた人たちは皆頭から地面や建物に強く叩きつけられた。あれでは助からない。

 モンスターは進行方向を左に変え、建物を突き破って行く。

 まだ逃げている人がいるのか、そちらに気付いたような素ぶりを見せていた。

 移動速度が早くこのままでは追いつけない。

 

 ならばと思い、魔石に意思を送る。

 魔石の光はこの村に入る時には既に輝きを取り戻していた。

 邪剣の力は取っておきたい、身体能力強化の力のみを解放させた。

 魔石が発した光がレントを包む。身体能力が上がったレントは建物の屋根の上へ飛び乗り、そのモンスターを追った。


 屋根に飛び乗った直後に大きな音が鳴り響いた。

 モンスターが地面に叩きつけられた音だ。誰かが戦っている。

 そのモンスターの動きが止まったため、その男はモンスターに背を向け再び移動を開始した。

 すると、やられたはずのモンスターが再び立ち上がった。背を向けた男はそれに気付いていない。

 モンスターは躊躇なく猛スピードでその男に突進する。

 このままではマズイな。

 俺は透明化を解除し、ゴウから貰った剣を鞘から抜いて男へ迫るモンスターに上から攻撃を仕掛けた。


「【フレイム】」


 剣が炎を纏った。先ほどと同じように姿も変わっている。

 炎を帯びた剣をそのままモンスターへ振り下ろす。


「ハアッッ!!」


 剣に纏っていた炎が弾け衝撃となってモンスターを襲った。

 ゴウの言う通り魔法の威力がかなり強くなっている。今度こそ仕留めただろう。

 大きな音を立てて地面にめり込んだモンスターは動きが完全に静止した。

 

 すると男がこちらに気付いたのか振り返った。その男の顔はどこかで見た顔をしている。

 そうだ、あの時か。あの変な空間で俺と共に神から魔石を受け取っていたあの男だ。


「……貴様、こっちに来ていたのか」


「お、お前はあの時の……!」

 


 こうして現実世界からの刺客二人は再び顔を合わせることとなったのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る