いざヘイズ村 ―レントside―

 マイの案内でヘイズ村に向かう途中、1人の男が道で何かを探しているところを見かけた。

 別に話しかける必要はなかったが、その男に気付いてからはマイがなぜか挙動不審なっていたのだ。

 

「おいマイ、どうした?」


「ど、どどどどうもしてないですよよよよ……? ええ、なんでもないですねなんでも」


 明らかに怪しい言動だ。

 あの男が視界に入るまではそれまでの軽い感じだったが、入ってからはこの調子だ。

 ……よし。


「おいあんた、どうかしたか」


「ちょっっっっ……!!!」


 話しかけてみた。

 すると、マイは面白いくらい明らかな反応を示してくれる。これはきっと何かあるはずだ。


「ん? あぁ、ちょいと泥棒にやられてな。ウチはヘイズ村で武器屋をしているんだが、さっきネズミに入られたんだ。これでも目と耳と勘は良くてな、ここまで追ってきたんだが見失っちまったみたいで」


 この世界にも盗みをする奴はいるんだな。

 いくら社会的な地位がなかろうが、やっていいことと悪いことがある。

 俺は後に貧しくはなったが、元は社長の息子だ。そこらへんはきちんと教育されてきた。


「……ったくよぉ。普通食料とかならまだしも武器なんて大きなモン盗むかぁ? 透明化の魔法を使ってバレないようにしてたみたいだけど、思いっきり下引きずっててすぐわかったわ」


「…………」


 透明化の魔法?俺もマイも使えるけど、そういえば……。



『今の魔法はすり抜けの魔法だね。アタシは何個か魔法が使えるけど、その中でもこの魔法を使える人はかなりレアだよ。アタシは儀式してもらった人以外にこの魔法を使える人を知らないし』



 ……。

 いや、その教えてもらった人や他の人って可能性はあるけどな。

 そういえば、あの後は……。



『んじゃ、アタシはこれから仕事だからさ! バーイ!』



 ……確認するか。


「おいマイ」


「ギクッ……」


「お前さっきまでヘイズ村にいたんだったよな?」


「ハ、ハイ……」


「あんた、その盗みに入られたってのはそんなに前じゃないんだよな?」


「あ、あぁ……そうだな。まだあんま経ってねぇな」


「マイ」


「はい」


「お前だな」


「……違いますよ?」


「お前だな?」


「…………」


 みるみるマイは青ざめていく。

 もう答えを聞かずとも犯人がマイであることが明白だ。


「お 前 だ な ?」


「はい、私です。申し訳ございませんでした」


「お前かぁ!!!」


「ひっ……!」


 やはり犯人はマイだった。仕事って盗みだったのか。

 そういえば透明化、すり抜けって盗みにもってこいの魔法じゃないか。


「す、すいませんこれはお返ししますので……」


 そう言うとマイはおずおずと背中に背負っていた桑ぐらいの大きさの斧を男に差し出した。

 あれお前のじゃなかったのかよ。


「てめぇ、本来なら獣汁にしててもおかしくないぞ。でも、そこの兄ちゃんに免じて今回だけは許してやろう。次はないからな」


「すみませんでした!!(良かった。他のことバレてないや)」


 絶対他になんかやってるだろこいつ。

 頭下げてても口元緩んでるやがる……。隣にいる俺には見えてるぞ。


「さて、店のモンも取り戻せたし村に戻るとすっかな。じゃーな二人とも」


「あ、ちょっと待って。ヘイズ村に戻るんですよね?」


「ん?そりゃそうだけど?」


「私が村を出る際に魔王軍がやってくるのが見えたんです。ヘイズ村に……」


「なんだと!?」


「ああ、イービス村も襲われた。撃退はしたが、2体ほど逃がしてしまった。もしかしたら、そいつらもヘイズ村に向かってるかもしれない」


「こうしちゃいられねぇ! 俺の店!」


 それを聞くと武器屋の男はすぐにヘイズ村へ駆けだした。目的地は同じなため、俺たちも彼を追う。


「俺たちも逃がした奴を捕まえるためにヘイズ村に行くところだ。一緒に行かせてくれ」


「わかった。あぁ、申し遅れたな。俺はゴウだ。よろしく」


「俺はカジミヤレント。レントでいい」


「わ、アタシはマイです!」


「よし、レント、マイ。すまねぇが力を貸してくれ」


 俺たちはヘイズ村へ急いだ。

 マイの言うことが正しければ既に魔王軍は村に到着しているはず。

 今度こそ逃がしてたまるものか。なんとしてでも魔王城の場所を聞き出す。

 



「あれ…? そういやアタシもなんか戦うことになってない……?」


「獣汁にされたくなかったら協力するんだな」


「…………」


 透明化して逃げようとしたのですぐに捕まえた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る