私の勇者様 ―リョウキside―
ヘイズ村に向かう途中、俺はルナからこの世界のことについて色々と教えてもらっていた。
現実世界から見た異世界のイメージと同様にモンスターや純人間以外の種族、魔法は存在するらしい。
魔法については何が使えるかは人それぞれで、中には完全に魔法が使えない人もいるらしいのだ。
魔法は主に火・水・風・電気といった属性魔法と呼ばれる物や身体能力強化、状態異常や回復など様々な種類がある。
どれか1種類の系統しか使えない人、様々の系統の魔法を自在に使える人の2パターン存在し、1種類しか魔法を使えない人はその代わりに様々な系統の魔法を使える人よりもその魔法の威力・効果は高めになっている。
ルナは状態異常の魔法のみに適正があったらしく、麻痺魔法や毒魔法が使えるらしい。試しに俺も習ってみたが、状態異常魔法の適正は無かった。
魔法を覚えるにはその系統の魔法が使える人から施しの儀式と呼ばれることをしてもらわなければならない。
儀式と言っても簡単なもので手をかざしてもらうだけ。
適正があった場合、かざした手の光が身体に移る。これで力の発現自体は終わり。
その後は呪文を脳が勝手に理解し、詠唱は脳内で自動的に行われる。その詠唱の時間は威力・効果が強い物ほど長くなるらしい。と、言っても複雑な文を読み上げるわけでもなくただ単に魔法の発動が遅いだけらしいが。
この世界ではいわゆるMP(マジックポイント)のような方式ではなく、魔法は使った分そのまま体力消費に直結してしまう。
軽い初級魔法でも使い続ければそれだけ疲労が蓄積されていく。勿論、上級魔法ではそれ相応の体力が消費され、一度に何度も放つことはできない。
俺も魔法を使えるようになるには誰かから施しの儀式をしてもらうしかない。もっとも、全く使えない可能性もあるにはあるけど。
「リョウキさんはそうですね……勇者様ならやっぱり王道の属性魔法でしょうか。炎の勇者とか水の勇者とかそういうのかっこよくありませんか!?」
ルナは執拗に勇者に拘る。なにやら物語が大好きで、その中でも勇者が活躍するものや王子様系が大好きなんだとか。
この世界の勇者が敗れてひどくショックを受けていたが、新たに他の世界からやって来て自分を助けてくれた打倒魔王の勇者が現れてしまったのだ。俺が自分の話をしてからはずっとテンションが高い。
ルナは水を得た魚のように怒涛の妄想を俺にぶつけてきている。
「あーでも、身体能力強化系で高速で動きながら敵をなぎ倒すのも捨てがたい……!」
もう第一印象と全然違うじゃないか! 村に一礼した時までは物静かながら心の強さを持っている子ってイメージだったのに……。
でも、あんなことがあったのに少しは明るくなってくれたのは良かった。
両親や故郷を失った影響で心を閉ざしてしまう可能性だってあったわけで。
「ルナは強いね。故郷がああなってしまったのに……」
「あ、えと……正直に言うと今も怖いです。何気ない日常が一瞬にして壊されてしまいましたから……。何が起こったのか直接この目で見たわけではないですけど、地下室の外から悲鳴や衝撃音が聞こえてきましたから」
視線を下に落として俯きながらルナは言葉を続けた。
「私は入口を塞がれてしまい外にも出れない。両親はどうなったかわからない。村のみんなは? 村はどうなってしまったの? 私はこのままここで死んでしまうの? って感じでパニックになっていました。……あの時リョウキさんの声が聞こえるまでは」
と、なると村が襲われてから俺が来るまでの間にそんなに時間は経ってなかったということか。魔王軍と入れ替わりとなる形で俺が来たということは、魔王軍はまだそんなに遠くへは行ってないのか……?
「助けが来たと思い必死に地下室から声を出しました。もしも、それが魔王軍の者だったらどうしようとも考えましたが、どうせ私はここから自分の力で出ることができません。仮にそれが魔王軍の者でも可能性に賭けてみようと思ったんです」
「ですがそれは杞憂に終わりました。私の声に気付いてくれた人は今助ける! 諦めちゃダメだ! と言ってくれて、本当に勇気づけられたんですよ私……」
ルナは顔を上げてまっすぐ俺の目を見つめた。
その瞳は悲しみや絶望といった感情の中にも微かだが希望を感じているというルナの心情を映し出しているかのようだった。
「そうしたら助けてくれたのはなんと違う世界からやって来たという不思議な力を持つお方ですよ? 勇者様以外考えられません。少なくとも私の中では勇者様です!」
「ゆ、勇者ではないと思うけど……」
「いいえ、リョウキさんは勇者様なんですよ、間違いない。そんな方に助けられたのならショックを受け続けてなんかいられません。私の物語が始まったんですよ! きっと!」
目をキラキラさせながら語るルナ。あぁ、本当のこの子はこういう子なんだなってなんとなくわかってきた。
この子のペースに飲まれるとシリアスな雰囲気が壊れていきそうだ。
「ルルシャ村に魔王軍が攻め込んでからあまり時間が経ってないってことはこの辺りにまだ魔王軍がいてもおかしくないってことだ。気を付けて移動しよう」
「わかりました勇者様! 何かあれば私がサポートしますね!」
気分は勇者に使えるサポート役ってところなのか。ここまで期待されると流石に荷が重い……。
魔石の力が無ければただの人間なんですよ俺。
ルナを助ける時に力を与えてくれた魔石だが、今は輝きを失っている。
俺が使おうと思ったら使える物なのか、それともその場にならないと発動しないのかは現時点ではわからない。
あの時、身体能力強化の時間制限が30秒と頭の中で何者かに語りかけられたような感覚があった。あれはいったいなんだったのだろうか。
この魔石には謎が多すぎる。だが、これを頼りにしなければ魔王を倒すことなんて不可能に等しい。
俺が貰った魔石は青の魔石だったが、あの時一緒にこの世界に送られたはずの男は赤の魔石を貰っていたはず。
……そういえばあの男は何をしているのだろうか。
「あ、見えてきました。あれがヘイズ村で………あぁっ」
「け、煙が……」
ルナの道案内によって無事にヘイズ村に着いた。ルルシャ村より少し大きな村だが、魔王軍に攻め込まれているのか炎が燃え盛り、煙が出ている。
空にも何かが飛び回っていた。
「ど、どうしますか……? リョウキさん……」
ヘイズ村にはルナの友達が住んでいるはず。村が無事だった場合誰かに魔法を教えてはもらえないだろうかなんて考えていたが、どうやらそうもいかないらしい。
今俺たちがあの村に突っ込んだとして何ができる? 敵はどのくらい強いんだ? 俺は戦えるかすらわからないし、ルナを危険に晒してしまうことになる。
ヘイズ村を諦め、ルナが言っていた他の村に向かうって手も……、
「シャ、シャーリィー……」
「……ッ!」
そうだ、ここでヘイズ村を諦めるということはルナの友達も諦めるということになるのだ。ルナは偶然助かっただけで普通ならば魔王軍の手にかかっていたはず。
俺が取るべき行動……それは、
「ルナ、友達を救いに行くよ」
「ほ、本当に行くんですか……? あれじゃもう手遅れということも……」
「別に村自体を救いに行くわけじゃない。というか俺にそんな力はないよ。まだ生き残っている人がいないか確認するだけだ」
そう都合よくいくとは思わないが、生き残っている人を逃がすくらいならできるかもしれない。
「大丈夫。俺はただその友達や村の人たちがまだ生きていたら助けたいだけなんだ。ルナはここにいてくれ」
「いえ、私も行きます。行かせてください。村のことは私のほうが知っていますし」
「でも……」
ルナの目は例え危険であろうとも友達を救いに行くという覚悟の決まっている目をしていた。
彼女の勇者は俺なんだ。勇者なら1人の女の子くらい守ってみせるか。
「よし、わかった。俺の傍を離れるなよルナ!」
「はい、勇者様!」
二人で覚悟を決め、俺とルナはヘイズ村へと走った。
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