第1章 始まるそれぞれの物語
滅ぼされた村 ―リョウキside―
目が覚めると、すぐに自分が現実世界ではない世界にいることがわかった。
あちこちで家が燃えており、人の気配はない。建物は壊され、ここで何が起こったのかを物語るかのような壊滅的な状態だった。
おそらく、魔王軍によって攻め込まれた後なのだろう。1つの村が滅ぼされているのだ。
運が良いとするならば、魔王の軍勢が攻め込んで来ている最中に転送されなかったことだ。
異世界に来るにあたって身体能力が強化されているなどの特別な措置はない。俺は俺、現実世界にいた時そのままだ。
そんなただの人間がこの場に放り出されようものなら間違いなく殺されていたに違いない。
一応、誰か生き残っていないかを探すことにしよう。万が一生き残った者がいれば貴重な情報源となる。
俺はたった今この世界に転送されてきたばかりで、この世界のことを魔王に支配されかけている世界だということ以外知らない。
この村のことだけでなく、この世界における常識ともいえるような知識を教えてくれるような人が欲しいのだが……。
「誰か! 誰かいないか! いたら返事をしてくれ!」
返事はない。返ってくるのは家が燃えて崩れる音のみ。
それでも諦めずに瓦礫の下などを探し回る。しかし、見つかるのは死体のみ。この世界の住人は現実世界の人間とそんなに変わらないという知識を得はしたが……。
「う、うっぇぇ…………っ」
思わず嘔吐いてしまった。人の死体なんてものを見るのは初めてだし、本当に勘弁してほしい。
しかし、そうも言ってられない。それでも諦めずに人を探し続ける。
「くそ、ダメか……。後はこの家だけ……」
他の建物は全て周りきり、この家が最後だ。
この家は燃えてはいないが、何か強い衝撃によって崩壊している。
人がいるとすれば瓦礫の下敷きになっている場合だ。可能性は低いか……。
「ぁ……た…………す……」
「っ! 誰かいるのか!?」
消えてしまうくらい微かな声だが瓦礫の下から声がした。下敷きになっているとすると、とても生きているとは思えないような状態だ。
いや、もしかするとこの下に地下室があり、そこに隠れていたまま埋もれていたとすれば……?
しかし、この瓦礫をどう退かす? 一人では流石に難しい。
「でも、やらないと……」
考えるより先に手を動かす。小さい瓦礫などは退かすことができるが、大きな瓦礫は重すぎて一人では無理だ。人の腕力では限界がある。
それでもやるしかない。そこに救えそうな命がまだあるんだ。
「大丈夫だ! 今助ける! 諦めちゃダメだ!」
力を振り絞り瓦礫を動かそうとするが、所詮俺はただの凡人。瓦礫は微動だにしなかった。
「……す………て……」
このままでは上に瓦礫があることで外に出られないはずだ。中がどうなっているかはわからないが、おそらくこの家以外から外に出ることはできないだろう。
ここで俺が助けないとこの下で生き残ってる人に脱出手段はない。このまま衰弱死するのを待つだけ……。ダメだ、絶対に見捨てることはできない。
「くそっ……動け! 動けぇぇぇぇ!!!」
動かない。現実は非常だ。
また俺は助けることができないのか。救えそうな命をまた見捨てるのか。手を伸ばせば届きそうな命を……また……。
嫌だ、そんなこと。力が欲しい。このままにしておけば消えてしまう命を救う力が。助け出す力が……。
力が――欲しいっ!!!
突然首元が光った。神を名乗る男から渡されたペンダント状にされていた魔石だ。
俺は白い服の男の言葉を思い出した。
『その石には所有者の強い願いに反応し、その者の力を呼び起こす魔力が込められている。持つ者が心の中で強くある事を願えばそれが相応の力として具現化することだろう』
魔石は俺の力が欲しいという強い願いに反応したのだ。
魔石が発した光りは彼を包み込んでいく。
「っ! 瓦礫を持てる!」
先ほどまで持ち上げることができなかった瓦礫がひょいっと簡単に持ち上がった。
この腕力は普通の人間技では到底不可能。魔石が与えてくれた力を強く実感することができる。
しかし、この力はずっと続くわけではないと頭の中で何者かが俺に語り掛けていた。1分……いや、30秒間しか継続できない!?
ならば、急いで瓦礫を退かしきる。
3……2……1……0。
数えていた時間が無くなると俺を包んでいた光が消えた。本当に30秒間しか継続しなかったのだ。
だが、瓦礫を退かすことには成功した。退かした瓦礫の下には地下室への入り口があったのだ。
「大丈夫か? 助けにきたぞ」
地下室の入口を開けるとそこには一人の女の子がいた。
髪は薄い紺色。ロングヘアーで綺麗な顔立ちをしている。
「あ、あなたは……」
……と、容姿をマジマジと観察している場合ではない。
「俺はリョウキ、サキモリリョウキ。良かった……生き残っている人がいて」
「そ……そしたら……村は……」
「…………ああ、君を残してもう……」
少女の顔が絶望の色に染まっていく。この子の親も魔王の軍勢にやられてしまったのだろう。
地下室に隠れていたこの子は隠れていた地下室が瓦礫の下敷きになっていたおかげで魔王軍に見つからなかったのだろう。ある意味幸運とも言えるか。
「その、助けて頂きありがとうございました。あなたが来なければ私はここでずっと……」
やはり入口以外での脱出手段は無かった。少し食料は置いてあるみたいだが、このままでは長くは持たなかったはず。
他に村で生き残った者もいない。それに、外部から助けが来るのはいつになるのかわからない。
俺が今救出しなければこの子も助からなかったはずだ。
「とりあえずここを出よう。いつ魔王軍が戻ってくるかもわからないし、色々と聞きたいこともあるんだ」
「……はい、わかりました」
「あ、私ルナといいます。よろしく……お願いします……」
「ああ、よろしくルナ」
ルナの手を取り、俺たちは地下室の外へ出た。
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