第12話
あの後もありがたいことに沢山のお客さんが来てくれた。
21時半となり店を閉める。
最後の最後までいてくれたお客さんにしっかりお礼を言い深く頭を下げた。
「終わった…。1日目だからやっぱハードたったわ…」
慣れない中、いくらオープンキッチンとはいえ、厨房とホールの行き来はしんどい。
物によっては裏の厨房で料理をしなければならないこともある。
「流石にバイト…必要だよな。ホールに最低でも1人か2人…。そんな広い店じゃないし多くても5人は欲しいな」
色々考えた末にバイト募集の張り紙と店のHPを作ることにした。
怪しまれては困るので店の外観、内観、俺の名前、顔、時給、賄いありなどこと細かく書いて募集を待つことにした。
次の日、昨日と変わらず忙しく仕事をしている。
新しいお客さんも多いが、昨日きてくれた方も沢山いる。
話しかけてもらえるようにもなった。
だいぶ店も落ち着き、一息ついていると
「店長さん!ここ貴方1人でやってるの?」
若い奥様方の集まりに話しかけられる。
「そうですよ。今は僕1人です。」
「大変じゃない?こんなに忙しいのに。」
「はい…。ありがたいことに忙しくさせていただいてるので僕の力不足なんですが1人は大変ですね。なのでHPにバイト募集の詳細は載せました。」
「あら、そうなの?」
「良かったわ。皆で話してて心配してたのよ。若いのに無理して大丈夫かって…」
「ありがとうございます。でも、僕はお客様方が美味しいと笑顔でいてくれることが一番の活動力なので」
あまり長話もしていられないので、そう言って微笑み、話を終わらせようとするが…
「店長さん、キラースマイルはやめて!おばさんたちメロメロになっちゃうから」
「いや、キラースマイルなんて出してませんよ…(笑)」
…全然話が終わらない。
しばらく話に付き合っていたが、ランチが終わる時間が迫ってきたのを理由にそこから逃げる。
「美味しかったわ。また来るわね。」
「はい、ありがとうございます。」
「ねえ、店長さん。バイト募集ってHPだけにしか載せてないの?」
お喋りな奥様方の中でも1人静かに微笑むだけだった綺麗な若奥様が話しかけてきた。
「あ、いえ。チラシも一応作ったんですが貼りにまだ行けてなくて…」
「それ、私やってあげる。」
「え、いいんですか!?」
「その代わりと言ってはなんだけど…私の娘ここの面接に来させてもいいかしら?」
「あ、はい!ぜひ!」
チラシ配りをやってもらえるなんてありがたい。面接なんてこれから沢山受けると思うし、そんなの楽勝だなと思っていると
「え、奥さん。娘って…どっち?」
「下の子。不登校だし、このお店なら何か刺激を受けてあの子が変わる気がするのよ。」
…不登校?
なんか雲行きが怪しい気もするが、断る理由もなく承諾する。
ランチが終わり先程の話を考える。
「あの若い奥さんの娘っていくつなんだろ…。てっきりまだ幼稚園くらいの子供かと思ってたけどそれならバイトなんて出来ないしな…。いや、まあ考えても仕方ないか。」
今は色々考えても仕方がないのでディナーへの準備を黙々とする。
カラン。
ドアが開く音がする。
きっと彼女だろう。
「優雨。ご飯作って。」
「一言目がそれかよ…」
ぶつくさ言いながらも彼女が来たことがなんだかんだ嬉しい。
飛音がご飯を食べ終わり、俺はそれを片していると視線を感じて目を上に向ける。
バチっと目が合う。
「…何?」
「…あのさ、店のHP見たんだけどバイト募集するの?あと駅前でおばさんたちがこの店のチラシ配ってた」
「ああ、ここのお客さんがチラシ配ってくれてる。申し訳ないから次来てくれたら無料で食事出すつもりだよ。」
「…バイト、女の子も取るの?」
俺の顔をじっと見つめ、小さく呟く飛音。
いつもは見ない真剣な表情にドキッとする。
「…面接して決めるよ。女だから男だからって理由で採用することはない。その人の人柄や熱意、向いているのかどうかで決める。」
「ふーん…。そう。」
そう呟き目をそらされる。
心なしか少し機嫌が悪い気がする。
何を言っていいかわからず戸惑っていると
「今日は帰るね。明日って定休日でしょ?店にいるの?」
「ああ、いるよ。何件か既にバイト募集来てるから明日面接する」
「そう…。じゃあ夜にくる。またね」
返事する間も無く出て行ってしまった。
俺なんかやらかしたか…?
考えても答えは浮かばない。
気にしても仕方ないので、仕事へと意識を戻すことにした。
空気って必要なんだよ 裕 @yu_pon1011
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