第11話


オープン初日。



ありがたいことに、開店と同時にお客さんが沢山入ってくる。



「こんにちは。いらっしゃいませ」



お客さんの顔見て挨拶をする。前の職場では出来なかったことだ。


それだけでも俺の心は満たされていく。



だが、1人で回すとなるとやはりしんどい。



優しい方が多いので、多少時間がかかっていても笑って許してくれる。


本当にありがたいことだ。



「美味しかったわ。また来るわね」



「はい!お待ちしております!ありがとうございました!」



15時。ランチ営業が終わりディナーの17時に向けて一時的に店を閉める。


「にしても…随分沢山の人が来たな。前の常連さんなのかな?1人はキツイな…」



疲れ果てて机に項垂れていると


カラン。


入口が開く音がする。



慌てて顔を上げて入口へ向かう。


「お客様。すいません。ランチ営業は終わり…あれ?飛音?どうしたの?」


そこへ立っていたのはほぼ、毎日俺を茶化しに来ていた飛音が立っていた。



「ランチ終わったんでしょ?だから食べに来た。」


「いや、営業時間に来いよ…。」


「そうしたら忙しくて相手してくれないでしょ?私は優雨と話しながら食べるのが好きなの。」


「…わかった。とりあえず座ってて」



俺は彼女にめっぽう弱い。


そんなことを言われたら何も言い返せない。


でも、話しながら食べるのが好きだと言われて嫌な気持ちになる人はあまりいないだろう。





「はい。どうぞ。」



「ナポリタンだ!ありがとう。いただきます。」



小さな口にいっぱいに詰め込んで食べる姿をリスみたいだなぁと思いながら見つめる



「…じっと見られてると食べづらい」


食べながら俺の方を向いて言う。


自然と上目遣いになる。


うわ、これ結構やばいな…。


「…可愛い」



「…は?」


やば、心の声漏れてた。


「あ、いや、その…」


自分でも言うつもりがない言葉だったため動揺して視線が泳ぐ。


怒られるのかと思い恐る恐る飛音の方を向くと


「…。」



顔をタコみたいに赤くして俯いている。


やばい。今度こそ本当に心の声が全部漏れてしまいそうだ。


可愛すぎる。


「…顔真っ赤。」


「!うるさい!あれよ…ナポリタンが辛かったの!」



「いや、ナポリタンは辛くないだろ(笑)」


「うっさい!あっち向いてて!」


拗ねてしまったのかそっぽを向いて勢いよく食べている。


そんな姿さえ可愛くて仕方がない。


俺のこの感情は妹に対してみたいな感情なのか…?また別物なのか、そこは俺にもわからない。



だが、今はこうしてたわいもない話をするだけで楽しくて仕方がない。



「ごちそうさまでした。」


「おう。皿片すからちょうだい。」


「ん。」


やっとこっちを向いて皿を渡してくれる飛音の顔を見ると口の端にケチャップが付いている


何も気にせず自然に手を伸ばし、口の端についているケチャップをとる。



「!!!?」


「あ、ごめん。ケチャップついてたから」


「〜!言えよ、バカ!」


「え、そんなに怒ること!?」


「バカなの?鈍いの?!」



「な、なんの話?」



「もういい!帰る!」


「え、ちょっと待って!」



「また明日ね!バイバイ!」




顔を真っ赤にして足早に去っていった。


なんなんだ…?



気にはなったがまた明日会えると知ったため、特に気にせず皿を片す。



「なんか…元気でたな。ディナーも頑張ろう」



飛音が来たことで俄然やる気が出てきた。



ディナーの準備を進め



また新たなお客さんとの出会いを楽しみにした。

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