第18話狩り

 朱月あかつきはそっと目を開く。


『生きてる……』


 両手を開いたり閉じたりしていると部屋の外から声がかかる。


「お目覚めでしょうか?朱月様」


 蘇芳丸すおうまるの声だ。


「起きてますよ、おはよう、蘇芳丸」

 朱月は起き上がって笑う。

 蘇芳丸は朱月の着替えをそっと置く。

「おはようございます、朱月様」

 朱月は着替えの水干すいかんに袖を通す。

 後ろから蘇芳丸が八咫烏やたがらすの証である銀の額飾りをつけた。


「そういえば、朱月様、これはまだ確かな情報とは言えないのですが…」

 おもむろに蘇芳丸が言い出す。

「なんですか?」

「…近頃、都で術者狩りが出ているようです。陰陽寮でも何人か死者を出しているとか…朱月様もどうかお気をつけて」

 そういうと蘇芳丸は一礼して部屋を出ていった。


『術者狩り…ですか。陰陽術を使う者などが襲われているようですが…詳しく調べる必要がありますね』



 朱月が清涼殿に行こうとすると、新月しんげつとすれ違った。

 朱月の耳元で新月が囁く。

「陰陽寮は匙を投げた。…お前らも今夜中には放たれる」

 それだけ言うと新月は早足で行ってしまった。




 所変わってここは清涼殿。

 貞宗は脇息にもたれかかって白狐を見つめていた。

「白狐、術者狩りの件だがな」

 白狐も頷いた。

「存じております。陰陽寮の物が何人も襲われているそうですね」

「そこまで分かっているなら話は早いな。今宵、術者狩りの犯人を討て。容赦は無用だ」

「御意。早速朱月と龍王丸たつおうまるにも伝えます」

 白狐はそういうと袖口にいた手のひらほどの狐に伝言を命じた。



「おい、朱月!」

 後宮で女房との雑談を楽しんでいた朱月を龍王丸が呼ぶ。

「龍王丸、…あぁ、狩りですね。蘇芳丸と新月から聞きました」

 朱月は傍にいた女房を抱き寄せて笑みを浮かべた。

「今宵術者狩りの犯人討伐が決定した。日没と同時に放たれる。お前も準備しとけよ」

「了解です」

 龍王丸は急いで烏殿に戻っていった。



「…朱月様、よろしいのですか?」

 朱月を膝枕していた女房が尋ねる。

「何がです?」

「今宵は大事な仕事があるのでしょう?油を売っていていいのですか?」

 朱月は女房の頬をそっと撫でる。

「だから今、そのための休憩をとっているのですよ」

 朱月の耳に声が入る。蘇芳丸だった。



『朱月様…実は襲われた者達に共通して…………………』


「なるほど、上々です」


 朱月はニヤリと笑った。

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散って烏が舞うものか 玉うさぎ @yukitoa

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