第17話評定

「まったく、御柱評定みはしらひょうじょうなんて何十年ぶりだろうね」


 こうが部屋に立ち込めている。

 部屋といってもとても広い。

 その中央に座っているのは八百万の神の中でも上位にある神々である。


 天の御柱あめのみはしら

 三貴神 -天照大御神あまてらすおおみかみ-、-月読尊つくよみのみこと-、-須佐之男命すさのおのみこと-の直属配下の神々がそう呼ばれていた。

 御柱評定は高天原たかまがはらの意思決定会議なのである。



「あのまわしきつるぎが目を覚ましたとはまことなのか?」

しゃくだけど天一神なかがみのいうことに間違いはないよ」

「なんと…」

「あの剣が…」

けがらわしい…」



 神々は互いの顔が見えぬように黒い薄布で隠れている。



 剣丸つるぎまるは隣にいる友人の稲荷大明神いなりだいみょうじんをちらりと見る。


「穏便にすませたい所だよ、私としては」

「それには僕も同意だね」



「僕は即破壊の意見だね」

 剣丸は立ち上がって言い放った。

「おやおや、さきほど穏便にすませたいという意見に同意したのは誰だったかな」

 稲荷いなりは肩をすくめて呟く。

「あの危険な剣を人の手に置いておくのはながらく僕は疑問に思っていたところだったんだ。いい機会だよ、破壊されてあるべきだ」

 すると一人の神が声を荒らげる。

「待たれよ、あの翡翠ひすいもろとも破壊するつもりか!?」

 剣丸は細い首をこくりとかしげる。

「当然。剣自体は正直いって危険ではないよ。問題はそれにつけられた翡翠だ」

「あの翡翠は三貴神の霊力がこめられた清きしな。それを簡単に壊すというのか!?」

 剣丸は冷たくその神を睨む。

「たかだか翡翠のおかげで幾多の人の子が犠牲になったと思っている?まだ殺す気か?」

「たかだか翡翠だと…?もう一度言うてみよ!!」

 さきほどから声を荒らげている神は剣丸の胸ぐらをつかむ。

 それを稲荷が慌てて止めに入る。

「やめろ!なんの為の評定だ?なんの為の我らだ?我らは人の為の神だ。…神は間違ってはならない。たった一つの選択が厄災をまねくんだ」




「その通りよ。稲荷大明神」

 その声にその場の一同ははっと顔を向けた。

「天照大御神様……」

 黒い薄布のおかげで姿は見えないがその凛とした美しい声は天照大御神その人のものだ。

「神々が間違うことはあってはならないの。そのために最善の選択をしなければ」

 天照はそこで言葉をきる。

「剣丸、今すぐに八咫烏に伝えてください。"剣の破壊および剣を目覚めさせた者の討伐を命じます"」

 剣丸はひざまずく。

「承知致しました。すぐさま討伐に向かわせます」

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