母胎物語
音水薫
第1話
男は迷っていた。とある山を登っているときのことだった。この山はUFO目撃情報も多く、人工的に作られたような四角錘の形をしていたため、日本のピラミッドとして地元民やオカルトマニアから信仰を集めていた。男は道にも迷っていたし、人生にも迷っていた。学びたいことがあって進学したはずの大学では何も成すことができず、緊張して女の子と話すことができなかったので彼女もおらず、早めに決まった就職先は大学で勉強したこととは無関係の事務職だった。せめて社会人になったときは今のダメな自分から脱却しようといきり立ち、自分探しの旅に出た。行き先が地元の山であるあたり、彼の思い切りのなさがわかる。小学生が遠足で来るような山で一皮剥けるとは思えないが、彼はここで自分を変えるつもりだった。けれど、真昼から黄昏時まで歩き続けていたにも関わらず、山頂に着くことも出来ないで、そばに流れる川にたどり着いた。
男が歩くたびに鳴らす音が響くほど静寂な川。そこには誰もいなかった。地元民である男でさえ、そんな川があることに驚いていた。苔の生えた大きな岩があり、岩の前を流れる川は水深が深いのか、水の色が濃い。男は、自分が子どもだったら岩の上から川に向かって飛び込んで遊ぶだろうな、と思った。真夏なのに、それをする子どもたちがいないことが妙に心寂しく感じられ、気がついたら近くまで来て、岩を撫でていた。
岩を挟んだ向こう側から石が擦れあう音が聞こえた。男が岩陰から覗くと、白いワンピースを着た女と少女の狭間にいる年ごろの女の子が眠っていた。死んだように青白い顔をしていたので、男は心配になって少女に触れてみる。温かい。安心した男は改めて状況を確認する。野外で無防備に寝る少女。周りには誰もいない。もしかしてこれはチャンスなのではないだろうか、自分はここで一歩大人になるべきなのではないだろうか、そう思った男は荷物を下ろし、少女の脚の前に座る。
音をたてないように、少女を起こさないように、と慎重にワンピースをめくりあげる。青い血管が走る太腿とともに現れた純白のショーツに男の目が奪われる。道理で下着がワンピースから透けて見えないはずだ。淡いピンク色のリボンが眩しい。しかし、童貞である男に布を楽しむ余裕などなく、ここまで慎重にしてきたことが無駄になりそうな勢いで、躊躇いなく少女から下着を剥ぎとってしまう。うっすらと毛の生えた少女の陰部を開き、桃色の中を覗く。男は雌の香りが微かにもしない幼い女性器に、まったくもってかけ離れた存在であるはずの母を連想する。ここから自分も生まれたのかと。もしかして、この中に入ることができたなら、自分は生まれ変わることができるのではないだろうか。生まれ変わるために母の胎内に帰りたいと願った男は少女の秘部に右手を入れる。つっかえることなくするすると入ってき、肩まで中に入ってしまった。こんなにも深いものなのか。少女が目を覚まさないので、男は左腕を入れ、頭も突っ込んだ。温かい。柔らかなものに包まれて安心感はあるが、生まれ変わることが目的の男は名残惜しげにほふく前進して体内を進む。腰が入るときに少し引っ掛かっていたけれど、それ以外はすんなりと通る。足まで収まったところで、目の前が明るくなった。眩しさに目を隠し、再び目を開けたとき、そこには藁葺き屋根の家がいくつもあった。
立ちつくしていると村人らしき少女に声をかけられる。男は迷子であることを少女に告げると、家に泊まらせてくれるという。数日間そこに滞在していると、少女に父親がいないことに気がつく。宿を貸してくれている恩を返そうと、男は力仕事を申し出た。畑を耕すために振り上げたクワの重さに尻もちをついたりして、ほかの村人に笑われることも多かったが、収穫の季節になるころには一人前の男として村に認められていた。携帯もパソコンもないが、男はここが自分の居場所だと、生まれ変わることに成功したのだと確信していた。
寒さに身を震わせる季節も少女と寄り添いあうことで乗り越え、何度目かの種まきの季節が来た。親が心配しているかもしれない。長い無精ひげを撫でながら、そう思った男は畑仕事が一段落したら家に帰ると少女に告げる。必ず戻ってきてほしい。そう懇願する少女も今や大人の女になっていた。誓いとして少女と婚約し、二人は村中から祝福されて初夜を迎える。裸で抱き合う二人が口づけを交わす。男は少女の女性器を弄っていると、腕が吸い込まれるように入っていき、凄まじい吸引力の前に成す術もなく呑みこまれ、例の柔らかくて温かな感触に包まれる。一筋の淡い光に向かってほふく前進で進み、外に出た男は全身が血まみれだった。月明かりの下で水に映った自分の髭面を見たあと、振り返った男の目に飛び込んできたのは二つに裂けた少女の瑞々しく新鮮な身体。そして、少女の右半身は川に流されていった。
母胎物語 音水薫 @k-otomiju
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